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わたしは愛される実験をはじめた。第27話「愛されたいなら二次会にいってはいけない」

  • 2019.12.17
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【読むだけでモテる恋愛小説27話】30代で彼氏にふられ、合コンの男にLINEは無視されて……そんな主人公が“愛される女”をめざす奮闘記。「あんたはモテないのを出会いがないと言い訳してるだけよ」と、ベニコさんが、あまえた“パンケーキ女”に渇を入れまくります。恋愛認知学という禁断のモテテクを学べます。

■第27話「愛されたいなら二次会にいってはいけない」

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「どうする? 二軒目いく?」

合コンのあと、幹事の私に、まわりの視線がささった。

まわりの顔をみまわした。男性陣は酔った顔をしながら、目線をかわして、時計を気にするひともいれば、ありかもなあという表情のひともいた。となりをみると肉食女子のショウコは乗り気そうだった。後輩のヒカリちゃんは帰りたそうにみえた。ばらばらな感じだ。

そりゃ私だって、イケメンのテラサキさんと話をしたいけど——好きなひととはずっといたいものだ——このままずるずる二軒目にいく意味はあるんだろうか? でも、こういうときに恋って生まれたりするのかも? ちょっと妄想しすぎ?

すぐに判断しなくてはいけなかった。私は鼻から空気をぬいて、気合いで、頭のなかのアルコールをふっとばすとベニコさんとのレッスンをおもいだした。

「ベニコさん」フランソア喫茶室にて、私は質問した。「合コンの二次会って必要なんですか?」

「パーフェクトに必要ないわ」ベニコさんは首をふった。ワンカールしたボブ。ばっちり濃いアイメイク。ぼっちゃり体型ながら、アメリカンドラマのキャリアウーマンみたいな雰囲気だった。「あんなの、男がおもちかえりを企むためにあるようなものよ」

「おもちかえり」おもわず私は興奮して変な顔になった。「二次会を純粋に楽しんじゃだめなんですか?」

「だから、あんたはパンケーキ女なのよ」ベニコさんはぴしゃりといった。

「なんでですか」私はむっとした。「メンバーが楽しかったら、二軒目にいくこともあるんじゃないですか? そういう出会いもあるでしょ?」

「そういって、あんたみたいなパンケーキ女は遊ばれておわるのよ」

「そんなことありませんから」私は声をあげた。

「質問」ベニコさんはひとさし指をたてた。「あなたの合コンの目的は?」

「それは」ぐっと私はいいよどんだ。「恋人をさがすことですけど」

「それ以外には?」

「ないです」

ベニコさんは首をふった。「もちろん生涯の親友がみつかる可能性もゼロではないわ。でも——忘れないで。そこにあつまった人間は〝出会い目的〟以外のなにものでもないのよ。その場の興奮から、なかよしな空気も生まれるでしょう。でも、基本的にビジネスライクな関係でしかないの」

「むだってことですか?」

「合コンにフォーカスするとね」

「でも、二軒目にいくことで、よりターゲットの男性に近づけることもありません?」

「パンケーキちゃん。その日のうちに決着をつけようとしないこと」

「決着? どうしてです?」私は首をかしげた。合コンといっても、その日にうちに恋におちて、距離を縮めることもあるとおもう。むしろ本当の恋って感じがするけど。

ベニコさんは髪をつまみあげると、私の心をみすかしたように笑った。「私たちはインスタントな恋をしたいわけじゃないからよ」

「インスタントな恋?」私は謎の食いつきをみせた。「もしかしてワンナイトですか?」

「それもあるけど——悲しい恋をさけるのも恋愛認知学だから——それ以外もあるわ」ベニコさんは首をふった。「その場の勢いを借りて、のぼせたように口説いても、それが本当の愛とはいえないということよ。少なくとも、私たちのめざしている永遠のものではない」

「本当の愛?」

「それは時間をかけて育むものよ——熟成されたワインのようにね」

「でもそういうのって、ドキドキしません? なんかドラマみたいで」

「安直な女という名のパンケーキ」

「ミホです」

「ドキドキさせられてどうするの」ベニコさんはいった。「あなたがドキドキさせないと」

「あ、それはそうかも」

「いい?」ベニコさんはスプーンを教鞭のようにもった。「その日のうちに、どうにかなろうなんて男側の作戦。くれぐれも男のペースで生きてはいけない。私たちのペースに男をのせるの」

「私たちのペースってなんです?」

「恋愛認知学に従って、いつもどおりやるってことよ」ベニコさんはいった。「すでに合コンで、あいての情報を手にいれているならなおさらね。その日は、それ以上することもないわ。髪を切ったのに美容室にいつづける必要がどこにあるの? むしろ顔をあわせすぎることでダレる——逆効果。次は、その情報をもとにLINEして、さっさとデートにつなげなさい」

「あとは、ほかで出会ったときとおなじやりかたなんですね」私はいった。「でも、ちゃんとLINEの返信がくるかとか不安になりません?」

「そのために合コンでどうふるまうべきかは教えたでしょう?」

「あ、そっか」

「逆にいえば」ベニコさんはスプーンで珈琲をかきまぜた。「合コンのあと、まだLINEの返事がくるか確信がもてないくらいだったら——うちとけられなかったら——二次会もありね。そもそもの目的を達成できてないわけだから。この場合、あくまで一次会の延長と考える」

「なるほど。二次会が正解のときもあるんですね」

「すべてに原則と例外がある」ベニコさんは右手のひらをひろげた。そして濃いアイメイクでにやっと笑った。「迷ったときは愛される女として、どうふるまうべきか考えなさい」

私は視線を前にもどした。居酒屋の外だった。合コン直後のふわふわした空気のなか、男女グループが、指揮者の前のオーケストラみたいにまっていた。

状況を整理することにした。

えっと、この合コンの目標は恋人をつくること。まちがっても、飲み会自体を楽しむことじゃない——それは罠だ。そして狙いたいのはイケメンのテラサキさんだけ。彼とは飲み会のあいだに深い恋バナまでした。ぶっちゃけLINEの返事はくるだろう。むしろ、ここまでして無視されるなら二次会にいってもおなじだとおもう。なんならデートに誘える気もしてる——ということは——もう二次会は必要ない?

でも一方で、男幹事ヒロトさんは、まんざらでもない顔をしてる。のこりの男子、それこそテラサキさんとクリタさんは雑談しながら場をうかがってる感じだ。その奥で、肉食女子のショウコは「いくっていいなさい」と、メイクばっちりの般若みたいな顔でメンチをきってくる。みんなの意見も参考にしないと。えっと——どうすればいいの?

そのとき後輩のヒカリちゃんが、そっと心配そうに腕時計をのぞくのがみえた。

そこで、私はまたしても恋愛認知学の〝ノン・エゴイスト・セオリー〟を思いだした。合コンではエゴイスティックな行動をしてはいけないという法則——ここで「今日は二次会なし」と発言すると、それは自分勝手な行動になるのだろうか?

そろそろ決断しないといけなかった。ごくりとつばをのんだ。私のひとことで、この集団の行動が決まるとおもうとプレッシャーだった。経験したことのない責任感。

同時に、ひとつの予感があった。

たぶんだけど——全員が納得できる正解はありえない。なにをえらんでも、だれかに不満はのこるだろう。あたりまえかもしれないけど衝撃だった。なぜか、政治家も、毎日たたかれながら、こんな気持なのかもとおもった。

生きるとは、こういう決断をくりかえすことなのかもしれない。だれかに丸投げするんじゃなくて。しっかり責任をもってアクションすること。私は愛される女になるために答えをださなくてはいけなかった。心のなかにギュッと強さをあつめた。

「そうですね」私は胸をはった。正しいと考えたことをするのに、やましい気持になる必要はないとおもったから。「遠くのひともいるだろうし、今日はここまでにしましょうか。私たちはもう大人だから、会いたいとおもったひとにはまた会えますよ」

合コンはそれまでになった。私の言葉はふしぎな説得力をもったみたいに、反論するひとはいなかった。残念そうにする顔もあれば、ほっとしてる顔もあった気がする。

そのまま集団で京都駅まで歩いた。残念ながら、肉食のショウコがぐいぐい男性陣の輪にはいったので、めあてのテラサキさんと話をすることはできなかった。それでも、ときおり目をあわせて表情をおくりあった——その意味まではわからなかった。

京都駅前につくと、男性陣はまとめて「俺たちはこっちだから」とJRのほうにきえていった。たぶん全員JRなわけはない。このあと男性陣だけで反省会でもするのかも。そう考えるとかわいいなとおもえた。

「イケメンと出会わせてくれてありがとう」男性陣とわかれると、肉食女子のショウコはドスのきいた声にもどった。「あと、こっから真剣勝負だから。負けて泣かないでね」

さっさと地下鉄のほうにきえていった。そのせなかに「またね」と声をかけると露骨に無視された。スマホをとりだすのがみえる。最後まで、すがすがしい女だった。

私と後輩のヒカリちゃんはバスだった。方向はちがうけれど、どちらも次のバスまで時間があったのでロータリーで待つことになった。夜風がここちよかった。

「ミホさん」ヒカリちゃんは息をついた。「ほんとすごすぎでした」

「え、なに?」私はびっくりした。

「さっきの二次会どうするってときも、まわりの空気を読んでたし——正直、明日出社しないといけないから助かりました。全員が、納得できるようなこといってたし。ほんと大人だなって。超尊敬です」

そんなことないんだけど、という言葉をのみこんだ。あまりにヒカリちゃんがきらきらした目でみてきたから。むしろ女子校出身の、彼女の目には、そんなふうに映っていたのか。まあ一応、モテる女のふるまいを真似てるわけだから、そういうものかもしれない。

先にヒカリちゃんの市バスがやってきた。薄い緑色だった。

バスのドアがひらいた。小柄なヒカリちゃんは頭をさげてのりこもうとする。あいかわらず佐々木希っぽい顔をしてるので——そんな男性側の注文をうけて声をかけたから——ぼんやりドラマのワンシーンみたいだなあとおもった。

するとバスの前でヒカリちゃんがふりむいた。なぜか、はずかしそうな顔だった。「私、ミホさんみたいな人が彼氏だったらよかったかも」

「え、どゆこと?」

返事をもらう前にヒカリちゃんはバスのなかにきえた。ドアはしまった。小さくなる後部のライトをみおくった。鞄からピーチミントをとりだして一粒がりっとかんだ。まだ胸がドキドキしていた。そんな趣味ないはずなんだけど。

■今日の恋愛認知学メモ

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・合コンの二次会にいく必要はない。その日のうちに決着をつけようとしないこと。

・男のペースで生きてはいけない。女のペースに男をのせること。

・LINEの返信がくるか自信がもてないくらいなら二次会にいってもいい。

・どうにか合コンは終わった。でも——ここからだよね?

【エピソード】

第1話「黙って座りなさい、モテる女にしてあげるから」
第2話「モテたくない? だからあんたはパンケーキ女なのよ」
第3話「みつめるだけで男を口説き落とす方法」
第4話「この不公平な世界で女がモテるには?」
第5話「魔法のように男を釣りあげるLINEテクニック」
第6話「なぜモテる女は既読スルーを使いこなすのか?」
第7話「男に愛想をつかされないデートプランの作り方」
第8話「デートは5分遅刻する女が愛される?」
第9話「モテたいなら男と恋バナをすること」
第10話「ボディタッチを重ねても男は口説けない」
第11話「愛される女はさよならを知っている」
第12話「パンケーキ女、ひさしぶりの合コンで撃沈」
第13話「合コンでサラダをとりわける女子がモテない理由」
第14話「合コンに100回いっても愛されない女とは」
第15話「合コンのあとに男心を釣りあげるLINE術」
第16話「合コンにイケメンを呼びよせるLINE誘導術」
第17話「合コンには彼女持ちがまぎれているので要注意」
第18話「モテる女はグラスを近づけて男の本能をゆさぶる」
第19話「モテる女は自己紹介からデザインする」
第20話「顔をあわせて5秒で脈アリかをさぐる方法」
第21話「なぜ空気を読める女はモテないのか?」
第22話「ひとみしりを克服する方法」
第23話「友人がフラれた話をして恋愛観をさぐりだせ」
第24話「相手の好みのタイプになれなくても逆転するには?」
第25話「モテる女はさらりと男から共感をひきだせる」
第26話「場の空気にすら愛される女はここがちがう」
第27話「愛されたいなら二次会にいってはいけない」
第28話「合コンの夜にLINEを送るとモテない?」
第29話「私たちはモテそうな男ばかり好きになってしまう」
第30話「まだ男は浮気しないと信じてるの?」
第31話「モテる男に挑戦する? モテない男を捕獲する?」
第32話「恋愛の失敗は、自分がなにをしているか理解してないときにやってくる」
第33話「優秀で私だけを愛してくれるオスはどこ第33話「優秀で私だけを愛してくれるオスはどこにいる?」
第34話「私たちは想いを言葉にすることで愛される女になる」
第35話「モテない男を捕まえるためにメイクより大切なこと」
第36話「なぜあの女はハイスペック男子に選ばれたのか?」
第37話「男との会話を笑顔で逃げる女がモテない理由」
第38話「男の機嫌をとるためだけに笑ってない?」
第39話「恋愛対象外の男子に失礼にふるまってない?」
第40話「まだフラれてることに気づいてないの?」
第41話「モテる女はLINE1通目から男心を罠にかける」
第42話「暴走しがちな恋愛感情をおさえるマインドフルネス?」
第43話「いい男はよってこない、いいよってくる男はつまんない?」
第44話「LINEで絵文字を使うほどモテなくなる?」
第45話「LINEは疑問符をつければ返事がくると思ってない?」
第46話「男に未読スルーされないLINEを作ろう上級編」
第47話「男の誘いLINEに即答でのっかる女はモテない」
第48話「イケメンのLINEを既読スルーできる?」
第49話「愛される女は自分ばかりを愛さない」
第50話「モテる女のスリリングなLINEの作りかた」
第51話「彼と距離を縮めたいならLINEで〝悪口〟を共有する」
第52話「デートの約束は日にちまで決めてしまうこと」
第53話「最短でモテる男とのデートの日程を決めるには?」
番外編「モテる女は付き合う前にクリスマスプレゼントをわたすのか?」

■祝! 『わた愛』小説化・漫画化が決定

2018年8月21日公開
2019年12月17日更新

浅田悠介さんの連載『わたしは愛される実験をはじめた。』の小説化・漫画化が決定しました。
作品化を盛り上げていくべく、バックナンバーを1日2話、12時15分、22時に1話ずつ『DRESS』トップページに再掲します。

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