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「反浪費運動」を牽引する、フランスの新世代起業家たち。

  • 2019.12.10
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過剰生産による浪費を減らすための解決策を探る、若き起業家が増えている。彼らが提案するのは循環型の新しい経済システムだ。

無駄をどう減らしていくか――この問題に挑む若き企業家たちが増えている。photo : Getty Images

フランス国民の出すゴミは豊かな金脈。だが、これは決してれうしいニュースではない。フランス環境エネルギー管理庁によると、国民ひとり当たり年間平均29キロの食料が捨てられている。しかもそのうち7キロは、包装されたままの状態で廃棄されているという。

新しい世代の起業家たちは、人々の習慣が変わるのを待つよりも、廃棄物の再資源化に積極的に取り組んでいる。そんな起業家たちのリーダー的存在が、リュシー・バシュ(Lucie Basch)。パリのエコール・サントラル出身の27歳のエンジニアだ。彼女がアプリ「Too Good To Go」を公開したのは2016年。売れ残りを安値で提供する食材店や飲食店と顧客を繋いでいる。顧客はおいしい食材を安値で入手でき、店は廃棄商品を出さずに済むというわけだ。「私たちの経済モデルはシンプルです」とリュシーは説明する。「利用者は選んだ商品の実際価格の3分の1を支払い、そこから私たちの取引手数料1.09ユーロを引いた残りの金額が、店側の売り上げ。廃棄されるはずだった商品を生かせることになり、みんなが得をする仕組みです」

なにより地球にとって有益だ。2016年以来、このアプリによって救われた料理は800万食に上り、現在フランス国内の店舗1万軒が登録されている。

エコシステムを構築する。

しかしリュシーは、これでもまだ充分ではないという。「世界中で生産されているものの3分の1が廃棄物として処分されている現状ですから、できることはまだまだあるはず。私自身も、『Phenix』の反浪費アプリ『Anti-Gaspi』や、店頭に並ばない不揃いな果物や野菜で作ったジャムを販売するネットショップ『Re-Belle』を起業したコレット・ラップ(Colette Rapp)といった人たちに感化されました」

28歳のマラン・ミュリエ(Marin Mulliez)は、サイズや形が規格に合わないという理由で流通ルートからはじかれた果物や野菜を利用して、手作りジュースの「NoFilter」を立ち上げた。ESCPヨーロッパ・ビジネススクールを修了した彼が着手したのは、まさにエコシステムの構築にほかならない。「私たちのジュースによって、果物の生産者は規格外農作物を販売することができます。さらに一歩進んで、生産者をエコレスポンサブルな農業への移行に導いています。私たちの求めるプログラムに従ってもらうことで、農業の流通システムを根本から変えるべく努めているのです」。こうして生産された彼らの商品は2019年初めに発表され、現在、スーパーUやグランド・エピスリー・ドゥ・パリに置かれている。近々、そのほかの大規模小売店でも取り扱われる予定だという。

大量に廃棄されているのは野菜と果物だけではない。パンもそのひとつだ。アネリ・ヴィクトワール(Hanneli Victoire)は、以前からその状況が気になっていた。グラフィックデザインを学んだ21歳の彼女はこう語る。「2016年に、持続可能な発展をテーマにした市民団体を立ち上げました。会議の日には、家の近所のパン屋で毎晩売れ残ったパンを譲ってもらい、パンペルデュ(フレンチトースト)を作って持って行きました」。これが受けて、彼女の元に注文が入るようになった。2018年、ついに会社を設立。「Pain Perdu(パンペルデュ)」と命名した(Pain Perduはその後活動を停止)。乾燥して固くなったパンを砕いて粉にする方法を考案し、クッキーやサブレも作るようになった。顧客の評判は上々で、菓子類のネット販売も開始。「最初はビジネスなんて想像もしていませんでした。でも何もかもが猛スピードで進んでいって。ひとりで始めた会社に、いまは社員が8人います。現在は『Phenix』と提携して、1週間に2度、モノプリで売れ残ったパンを20〜30kg、無料で入手できるようになりましたが、ほかの供給ルートも模索中です。それでも足りない状況ですので」

廃棄物のマーケットプレイス。

反浪費に取り組む起業家たちの口からしばしばその名前が登場する「Phenix」は、2014年に設立された廃棄物リサイクル企業だ。ゼロウェイスト事業の先駆けとして知られるが、スタートまでの道のりは決して平坦ではなかった。「最初は個人向けに、食事の残り物を捨てる代わりにご近所と分け合うシステムを提供していました」と共同創始者のジャン・モロー(Jean Moreau)は説明する。

「でも長続きせず、2014年にBtoBに軌道修正しました。大型スーパーや産業界はいまや、売れ残り品をただで処分することができなくなっています。私たちはそうした企業に向けて、売れ残りを市民団体に寄付するための仲介サービスを提供しています。私たちの収益は、プラットフォームでの取引量に応じた手数料です」。現在、「Phenix」は130人の社員を要する企業となり、2018年の売上高は900万ユーロ(約10億8000万円)に上った。2019年には1500万ユーロ(約18億円)になると見通している。「廃棄物のマーケットプレイスとなることが私たちの目的です」とジャンは続ける。「あらゆる業種から廃棄物が生まれます。どんな廃棄物も、循環型経済ではリサイクルの要素となるんです」

リサイクル型デザイン。

家具ブランド「Maximum」のデザイナーたちにとっては、産業廃棄物は文字どおり天からの授かりものだ。たとえば、エアバスA350の内装材用に製造され、品質検査を通過しなかったカーボンハニカムパネルは、彼らの手で棚に生まれ変わる。「バジル・ドゥ・ゴール(Basile de Gaulle)とは国立装飾美術学校で出会いました」と31歳のロメ・ドゥ・ラ・ビーニュ(Romée de la Bigne)は語る。「ふたりとも、手元にある素材からデザインを発想したいという思いを持っていました。それが『Maximum』の原点です」。卒業後、ロメとバジルはパリ近郊のイヴリー=シュール=セーヌの工場跡地にアトリエを構えた。「知名度が上がったのは、2015年のCOP21(第21回気候変動枠組条約締約国会議)の時です」とロメは語る。「NGO団体やアーティスト、市民団体が集まる会議場の家具設計を依頼されたのです」。こうして冒険が始まった。

2017年には、彼女たちのデザインによる椅子「Gravêne」がパリのコンセプトストア、メルシーで取り扱われるようになった。この椅子には、プラスティック成型加工のリーダー企業であるAシュルマンの工場で余った色粉が利用されている。「もちろん、今後も産業廃棄物削減に参画したい。フランスでは1日につき6万5千トンの産業廃棄物が排出されているといいますから」とロメは続ける。「ですが、私たちにとって特に大切なのは、長く使えて世代を超えて受け継がれる、美しい品を作ることです」。「Maximum」は現在、9人の社員を抱え、新たに立ち上げた建築事務所では、建設会社の余剰資材を活用した建物づくりへの取り組みが始まっている。

活気あふれる市場。

ファッション業界も過剰生産が指摘される業種のひとつだ。マリーン・セル(Marine Serre)を始めとする若い世代のクリエイターは、売れ残り品や在庫品に第二の命を与える取り組みを積極的に行っている。だがそれだけでなく、原料についても見直す必要がある。

39歳のヴィルジニー・デュカティヨン(Virginie Ducatillon)が目をつけたのはそこだ。パリ=ドーフィーヌ大学出身のヴィルジニーは、高級ブランドの工房で10年間、バッグやアクセサリーなどの革製品の製造に携わってきた。仕事をしながら、自分が貢献できることは?と考えていたという。「多くの美しい革が、倉庫に保管されたまま劣化していくのが残念で。2018年に『adapta』を立ち上げました。高級ブランドの品質基準に合わなかった皮革を、通常ならそのクオリティを予算外とするクリエイターに提供するサービスを行っています」。2019年にショールームをオープン。バルザック・パリなど顧客も徐々に増えている。

廃棄物はベンチャー業界の未来となるか?

再販売、再利用、リサイクル、アップサイクル――廃棄物はベンチャー業界の未来となるのだろうか?「いずれにせよ、道は拓けつつあります」と、若い起業家の支援を目的とした経営者ネットワーク「Réseau Entreprendre Paris」代表のアルメル・ヴェイスマン(Armelle Weisman)は語る。「2016年に施行された食品廃棄禁止法がきっかけとなって、売れ残りや廃棄物を再活用する意識が生まれました。現在、ごみや資源の処理について考えない企業はありません」。手作りコスメの「Aroma-Zone」のように、消費者の要求に応じる形で量り売りを推進し、容器包装を減らす方法を研究する人気ブランドも増えている。

32歳のマリア・メラ(Maria Mella)が選んだのはこの道だ。液体の量り売り専門店「The Naked Shop」の創始者である彼女はこう語る。「私は2015年からごみゼロ生活を実践しているのですが、その過程で市場に穴があることに気づきました」。政治学を修めた後、彼女は洗剤や石鹸の業者探しに取りかかった。技術者のパートナーとともに、リターナブルなガラス容器に簡単に素早く液体を詰めるための装置を考案した。パリのオベルカンフ通りに見つけた店舗物件をサロン風に改装。2018年12月の開店以来、店は大盛況で、マリアは現在2号店の開店準備を進めている。彼女の事業を参考に、より設備の充実した大手の小売店にも同様の試みが出てくるかもしれない。

ゼロ・ウェイスト生活実践のためにやってみるべきこと。

☑量り売りを優先する。

☑買いすぎない。新品を買わず、衣類、家具、電化製品などは中古品を買うかレンタルで。

☑生ごみ(野菜くず、コーヒーかすなど)は分別し、コンポストへ。この方法で家庭ごみの3分の1が削減できる。自宅に家庭用コンポスターを設置する、マンションの住民や近所同士でコンポスターを共有するなど、いくつもの方法がある。

☑メールの数を減らす。

☑テイクアウトをやめて、食事は家で作る。使い捨ての容器の使用が減る。

☑プラスティックの食品用ラップフィルムのかわりに、蜜蝋引きの布を使う。

若き起業家はなぜ「反浪費」を目指すのか――専門家への3つの質問。

エセック・ビジネススクール教授のヴィヴィアンヌ・ドゥ・ボーフォールは、『スタートアップ世代』の著者。また、若い女性による起業支援のためのプラットフォーム「クラブ・スタートアップ世代」の創設者でもある。彼女に、現在の起業トレンドについて聞いた。

――新しい世代の起業家たちが、「反浪費」という分野でこれほど積極的に行動を起こしているのはなぜでしょう?

この世代の若者たちは、親から「自分にとって意味のあることをしなさい」と繰り返し言われ、また、地球を脅かす危機についての情報を大量に浴びながら育っています。ですからごく自然に「世界をよくするために何ができるか?」と考えるわけです。若者たちはどんどんラディカルになっています。たった2年前、大卒の若者たちは3〜4年は大企業に勤めていました。いまの若者は自分の信条に背いてまで企業で働く気はなく、学業を終えたらすぐに自分で起業するケースが増えています。

――かつてはエコというと、市民団体の活動というイネージがありました。いまの若者たちは環境問題にビジネスとして取り組んでいます。これについてはどう考えますか?

それは少し違います。いまの若い起業家たちはたいてい、無償で自分たちのノウハウを市民団体に提供しています。彼らが会社を作るのは、そのほうがより大きな影響力を持てるからです。確かに自分の生活のために稼ぐ必要はありますが、彼らにとって何よりも世界に影響を与えることが大切なのです。

――彼らはお金を稼ぐことよりも、人々の行動習慣を変えることを重視しているということでしょうか?

消費者に情報を与え、教育するのが彼らの目的です。彼らは消費者にも責任があると考えています。消費者もエコシステムの当事者なのです。社会的意義を探求するこうした姿勢は、彼らの水平型のマネージメントにもさまざまな形で波及しています。彼らはこれから多くのことを変えていくでしょう。

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