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義母からの「あの子きちんと家に帰ってきてる?」う、浮気!?「子育てとばして介護かよ」(2)

  • 2019.10.15
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育児未経験者による「いきなり介護」の日々は、他人事ではない!ー酒井順子(エッセイスト)

仕事・学業・妊活…で…介護!?「子育てとばして介護かよ」(1)

仕事はやめない、同居もしない。 今の暮らしを変えずに親の介護は可能…!?

31歳で結婚し、仕事に邁進する日々。33歳で出産する人生設計を立てていたものの、気づけば30代後半!

いろいろ決断し時…と思った矢先、なんと義父母の認知症が立て続けに発覚……!

話題の書籍「子育てとばして介護かよ」より連載5回連載でお送りします。今回は2回目です。

久しぶりに会った親が「老いてきたなぁ」と感じた人は必読。いまの生活に「介護」を組み込むことに成功した著者の、笑いと涙の「同居しない」介護エッセイ
KADOKAWA
 仕事はやめない、同居もしない。 今の暮らしを変えずに親の介護は可能!?「子育てとばして介護かよ」
KADOKAWA

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あの子、きちんと家に帰ってきてる?

普段は鳴らない固定電話に、立て続けに着信があった。きっとセールス電話だろう。

そう思って留守電のまま放っておいた。でも、今日はやけにしつこい。

10回ほどコールしたかと思うと切れ、数分後にまたかかってくる。うるさくて仕事にならない。根負けして受話器をとると、義母だった。

「あの子はいるかしら?」

おずおずした感じで聞かれる。あいにく、夫は外出中だった。

「今はいませんけど、あとで電話するように言いましょうか?」

「いえ、いないなら、いいんだけど……」

受話器の向こうの義母はいつになく神妙な口調で、歯切れも悪い。どうにも気まずい。結婚して10年ぐらい経つけれど、夫の両親と会った回数は数えるほどしかない。年に1回、正月の家族の集まりに参加し、あたりさわりのない近況報告をし、新年の抱負を言い合う程度の関係だ。とくに険悪でもないけれど、親しくもない。実家とのやりとりはもっぱら夫の役目で、わたしが義父母と直接やりとりする機会はほぼなかった。

「完全に嫁としての役割を放棄してるけど大丈夫?」

夫に何度か聞いたことがある。返答はいつも同じで「やりたいの?」だった。

いや、まったく望んでいない。ただ、なんとなく、申し訳ないかなと思っているだけ。「年寄りに期待を持たせると、あとが大変だよ」と夫に言われると、自信がない。せっかく「やりたくないならやめようよ」と言われているのを押しのけてまで関わる理由がなかった。

そんなわけで、嫁としての経験値はほぼゼロ。義母から電話がかかってきても、どう対応したらいいのか、さっぱりわからない。

「おかあさん、どうしましたー? 何かありました?」

とっさにとった行動は「抜群に明るい声で単刀直入に質問する」だった。自分でもあきれるぐらい、能天気な声を出せたと思う。迷惑がっていることを悟らせてはいけない。でも、早く電話を切り上げ、仕事に戻りたい。

「あのね……あの子、きちんと家に帰ってきてる?」

「多分、帰ってきてると思いますけど」

「あの……ほかに女性がいるってことは……」

「おかあさん、何か見ました?」

聞き返す声が裏返った。自分でも、その切り返しはないだろうと思う。でも、軽く受け流すには義母の声があまりに真剣だった。

はじまりは義母からの突然の電話だった
KADOKAWA

パッと思い浮かんだのは「夫が女性とふたりで歩いているのを見かけ、義母が誤解した」というパターンだった。ここ最近、実家の近くで飲み会があったとは聞いていないけれど、取材や打ち合わせなども含めれば可能性はいくらでもある。

最悪なのは、義母が目撃したのが決定的な瞬間だった場合だ。「駅の改札で抱き合ってキスしてたの……」などと聞かされたら、どう反応すればいいのか。

場所ぐらい選べよ! 想像するだけで夫に腹が立つ。なぜ、そんな話を義母から聞かされなくてはいけないのか。

最悪だ!!

「あの子には絶対言わないでほしいんだけど……この間、旅行に行ったでしょ?」

「ああ、親戚同士で九州に行かれてましたね」

浮気現場を目撃したという話じゃないの? 戸惑いながら、あいづちを打つ。

「とっても楽しい旅行だったんだけど、帰ってきたら、あったはずのお金と通帳がなくなっていて……」

「それは大変でしたね」

「主人は警備会社が怪しいって言うんですけどね。玄関に見覚えのない男ものの傘があって。もしかしたら、あの子かなって……」

浮気を疑われている理由ってそれ!?

さすがにそれは大胆すぎる推理のような気がしつつ、念のため、被害状況を確認してみる。

「ちなみに、なくなったお金っていくらぐらいでした?」

「3万円ぐらいかしら。通帳はそのあと、別の引き出しから見つかったんですけどね」

「おかあさん! 大丈夫です。彼ではないです」

仮に夫が浮気していたとしても、片道1時間半以上もかけて実家に忍び込むなんて考えにくい。わたしがキッパリ否定すると、なぜか義母はあっさり納得し、今度は息子に叱られることを心配しはじめた。

「あなたがそう言うなら、きっとそうね。胸のつかえがおりたわ。あの子には絶対言わないでね。きっと怒るから」

そりゃ怒りたくもなるだろう。あらぬ疑いをかけられ、呆然とする夫を思い浮かべながら「わかりました」と答えた。

「大丈夫です。言いません」

「約束よ。絶対言わないでね」

しつこく念押しする義母を「大丈夫です! 言いません」となんとかなだめ、電話を切った。そして夫が帰宅したあと、真っ先に報告した。こんなすっとんきょうな出来事を話さずにいられるわけがない。

話を聞いた夫は愕然としていた。

「なんだよ、その話……」

「びっくりするよね。わたしも思わず、『何か見ました?』って聞いちゃった」

「その質問もひどいよ!」

「だって、おかあさん、ものすごく深刻そうだったんだってば」

「浮気をして、金に困って、実家に忍び込んで年寄りの財布から数万円盗む……って、どれだけダメな男だよ!」

あらぬ疑いをかけられた夫が気の毒でもあるのだけれど、夫が憤慨すればするほど笑えてくる。疑われている内容が、あまりに残念すぎる。

わたしたちは「結婚してもなお、親に心配され続ける素行の悪いドラ息子」を酒の肴に笑い転げ、ほんの少し親不孝を反省し、疑惑が晴れたことに乾杯した。事態の深刻さにはまだ、気づいていなかった。

著=島影真奈美

マンガ・イラスト=川(レタスクラブニュース)

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