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3番目の妻となった少女にみる、女の存在価値と自由

  • 2019.10.8
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19世紀の北ベトナムを舞台に、第三夫人として14歳で富豪のもとに嫁いだ少女の生き方を描く『第三夫人と髪飾り』。父権社会で世継ぎを産むことが女の唯一の務めとされた時代に、無邪気な少女が“女”として目覚めていく——。女たちの愛と哀しみが繊細に映し出されます。今回はこの作品について、映画ライター渥美志保さんにレビューしていただきました。(編集部)

幼い嫁の役割は、夫を悦ばせ子供を産むこと

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主人公のメイはまだ幼ささえ残る14歳の少女。彼女が父親ほどもは年齢の離れた大地主の男のもとに「第三夫人」として嫁いでくるところから、物語は始まります。家を仕切るのは威厳あふれる「第一夫人」。彼女は唯一の跡取り息子を生んだ人で、メイからみたらちょっと厳しいお母さんみたいな存在。もう少し年齢の若い「第二婦人」はその周囲の誰もを魅了する美しさ。気さくな憧れのお姉さんのような存在で、年齢の近い彼女の娘たちはメイの姉妹のようです。

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映画はこの婚家——つまり20世紀初頭ベトナムの日常を、美しい映像で描いてゆきます。舞台は山間の、ゆったりと流れる川沿いにある「絹の里」で、女性たちのまとうアオザイとか、夜に浮かび上がる赤いランタンとか、「クラシック・シノワ」なんて言葉がぴったりな優雅さ。

日差しにきらめく川で下行水する女性たちの下着姿とか、夜明けの竹林の逢引きとか、さやさや揺れるシフォンの向こうで交わされる夜の営み(生卵の黄身を使う初夜の儀式とか!)とか、本当に耽美かつ官能的です。

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おそらくメイは小さな田舎の村で生まれたのでしょう、映画を観ている私たちと同じように、初めて見る美しい光景に魅了されてゆく――のですが、同時に、真っ白なキャンバスのようになんの思い込みもない彼女にしたら、「え?」「どうして?」というようなことも起こってきます。

例えば。初夜の翌朝には、血で汚れたシーツを庭に掲げて第一夫人にチェックしてもらう。これは彼女が結婚するまで「処女」だったことを証明するためです。一緒にご飯の支度をしていた古株の女中からは「第二夫人は男の子を生んでないから、夫人とはいえないのよ」なんてことも言われます。妊娠した彼女のつわりの後片付けを「第二夫人」の娘(つまりこの家の娘)が手伝っていると「第一夫人」が飛んできて、「そういうことをさせないで。嫁に行けば女主人になる子なのよ」なんて怒られる。そうした経験を通じ、メイは「私はこの家では労働力なんだ。奥様公認で旦那様を悦ばせ、男の子と生むためだけにここにいるんだ」と自分の立場を飲み込んでゆきます。そして、それに文句を言ったり反抗したりはしないけれど、なんか悲しい・・・・・・と思うようになってゆきます。

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メイの経験、心の動きは、「自分は何者なのか」がわかっていない段階で、周囲から「あなたは女だから、あなたは嫁だから」と型にはめることが、どれだけ自由な心を奪い、苦しみを作っていくかがわかります。でもよく見るとこの家の誰もが、「そういうものだから」と人間的感情を呑み込んでいるんですね。特に逃げ場の全くない一人息子の悲しさ。彼らの「人間」としての目覚めに胸が痛むのは、時代が今もさほど変わっていない証拠かもしれません。

『第三夫人と髪飾り』
【監督】アッシュ・メイフェア
【出演】トラン・ヌー・イェン・ケー、グエン・フオン・チャー・ミーほか
10月11日(金) Bunkamuraル・シネマほか全国ロードショー
http://crest-inter.co.jp/daisanfujin/
© copyright Mayfair Pictures.

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