1. トップ
  2. 「『ダークナイト』は覚えていなかった」“ジョーカー”はいかに生まれたか?ホアキン・フェニックス ロングインタビュー【後編】

「『ダークナイト』は覚えていなかった」“ジョーカー”はいかに生まれたか?ホアキン・フェニックス ロングインタビュー【後編】

  • 2019.10.6
  • 341 views

「ジョーカーの役をできるかどうか、一番の迷いの原因はその自信が僕になかったということだ」。第78回ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞した『ジョーカー』(公開中)で、DCコミックスを代表する“悪のカリスマ”ジョーカーを演じきったホアキン・フェニックスは、初めてアメコミキャラクターを演じること、そしてそれがジョーカーというあまりにも大きな役柄だったことで相当の葛藤があったことを振り返る。「この役をこなせるのかどうか、できないかもしれないという恐怖心に駆られた。この役を演じるというのは、この映画が言わんとしていることを深く掘り下げなければならない。それだけでもかなりの挑戦だと感じたし、同時に役者として、人間としての大きな挑戦だとも理解した」。

【写真を見る】アメコミ作品史上初の快挙!『ジョーカー』がヴェネチア国際映画祭を制し、アカデミー賞有力候補に

偉大な俳優たちが演じてきた“ジョーカー”にホアキン・フェニックスはどう挑んだ?
[c]2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & [c]DC Comics

俳優一家の次男で、早逝した名優リバー・フェニックスの弟としても知られるホアキンは、8歳の頃に俳優としてのキャリアをスタートさせる。その後ガス・ヴァン・サント監督やオリヴァー・ストーン監督ら名だたる巨匠たちの作品に出演し、リドリー・スコット監督の『グラディエーター』(00)でアカデミー賞助演男優賞にノミネート。『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』(06)でゴールデン・グローブ賞を受賞し2度目のオスカー候補にあがるが、2008年に突然俳優業を引退することを宣言し歌手活動に転身。

その後俳優として再始動を果たしたホアキンは『ザ・マスター』(12)でカリスマ性を持つ男の思想にのめり込む青年を演じ、フィリップ・シーモア・ホフマンとともにヴェネチア国際映画祭男優賞を受賞。その5年後にはリン・ラムジー監督の『ビューティフル・デイ』(17)で第70回カンヌ国際映画祭男優賞を受賞するなど、いまや稀代の演技派俳優として知られるように。

「演じる役から、これでもかというほど挑まれたいという願望がある」

――「ジョーカー役は大きな挑戦だった」と仰いましたが、それでもこの役をやろうと思った決め手は?

「スーパーヒーローが登場するタイプの映画はもちろん観たことがあるし、どれもよくできた映画だと思う。でもキャラクターがどんなヒーローなのか、彼らのモチベーションや動機がなんなのかがはっきりしていて、キャラクターはすっきりはっきりと描かれていて複雑な要素がなにひとつない。すべて見え見えという感じなんだ。だからいままでアメコミのキャラクターを演じることに惹かれなかった。深みを持って描かれていないと感じていたからね。楽しそうだけど中身が詰まっていない。楽しみながらやれる役は好きだけど、僕は自分が演じる役からこれでもかというほど挑まれたいという願望があるんだ。チャレンジされることで新しいなにかを学びたい。キャラクターを選んで演じることで、ひとりの人間として知らなかったことや知らなかった社会の一部が目の前で広がっていけばいいなと、そういうふうに望んでいたんだ。

だからこの『ジョーカー』という映画は、それら諸々のことをすべて満たしてくれたような気がしたんだ。上っ面だけの答えは出していない。簡単な答えが出るものなんてこの世にないからね。生きるってことはそんなに浅くて簡単なことじゃないし、人間の心理は複雑なものだ。我々はなんでそんなことをするんだろう?という人間の言動の裏側は理解できないことの方が多い。わかっていると思っていても、ほとんどの場合わかっていないんだ。だからトッドがこの映画を作るのには大変な勇気が必要だったと思う。ましてこの映画で扱っている複雑なテーマは、簡単に取り組むことはできないからね」

メガホンをとったトッド・フィリップス監督については「大変な勇気が必要だったと思う」とコメント
[c]2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & [c]DC Comics

――あなたが演じられたアーサーはパフォーマーであり、メイクをしたりピエロになったり、ほかの誰かになったりします。あなたが普段やっている俳優業と共通している、また共感した部分は?

「んー…わからないよ(笑)。でも間違いなく多くのことがあると思う。僕はあまり『どうすれば僕はそのキャラクターに共感できるだろうか?』という考えは持たず、ただひたすらに情報を消費していくんだ。だって僕が消費している情報や、僕に興味を持たせることは間違いなく僕がどういう人間かということと関係があるからね。そうは思わないか?だからもし2人の役者に同じリサーチの資料を渡したら、彼らはそこからそれぞれ違うものを取りだすことになるだろう。明らかにそこには僕自身と呼べるものが存在している。でも僕はそれがなにかということを明らかにしようとはしないし、気にもしない。それが僕のアプローチの仕方だよ」

クリストファー・ノーラン監督の『ダークナイト』(08)でヒース・レジャーが演じたジョーカーは、映画ファンのみならず世界中に大きな衝撃を与えた。それに加えて、ヒースの突然の死によって神格化されたといっても過言ではない。同作を公開当時に観たというホアキンは、「彼のジョーカーはすごくパワフルで素晴らしい解釈だった」と称賛する。また、それ以前にも名優ジャック・ニコルソンが演じたジョーカーのイメージも根強い。はたしてホアキンは、どのようにして“ジョーカー”という役柄に挑んだのだろうか?

「ジョーカーを演じることは役者として、人間としての僕への大きな挑戦」
[c]2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & [c]DC Comics

「僕にとっては、独自のキャラクターを創りだしたと感じることが重要だった」

――ジャック・ニコルソンやヒース・レジャーと、これまでも様々な俳優たちがジョーカーを演じてきました。過去のジョーカーについてどのようにお考えですか。また、お気に入りのジョーカーは?

「僕は子どもの時、ティム・バートン監督の『バットマン』を観てジャック・ニコルソンが演じたジョーカーを知ったんだ。でもそれ以来一度も観ていないから、正直なところジャックのジョーカーはあまりよく覚えていないんだ。それからヒース・レジャーがジョーカーを演じた『ダークナイト』も公開時に観ていて、僕はずっとその映画全体を覚えていると思っていた。でもこの映画を終えたあとに、改めて観てみたら僕は『ダークナイト』のほとんどを覚えていなかったことに気が付いたんだ。それはつまり、キャラクターを高く評価するためにそのキャラクター全体を覚えている必要はないということなんだ。たった1つのシーンでヒースはキャラクターの心理的、感情的な幅広さを全体に伝えることができていた。そしてその1シーンだけで観客に大きなインパクトを与えることができた。だから間違いなくそれは本当にすばらしい演技としか言いようがない。でも僕にとっては、独自のユニークなキャラクターをクリエイトしたと感じることが重要だった。だからヒースのジョーカーは、僕とはまったく違うところからやってきた存在だと思う。

僕にはジョーカーだけでなく、アーサーという男を掘り下げることができるという利点があった。そして映画全体を、それを理解しようとすることに捧げることができた。ヒースはあくまでも助演の役を演じていて、いくつかのシーンにしか出てこない。彼はそれでもすごく多くのことを伝えることができたと思っているよ」

「楽しそうだけど中身が詰まっていない」と、アメコミキャラクターを演じることに懐疑的だったとのこと
[c]2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & [c]DC Comics

――あなたがジョーカーを演じるうえで、ジョーカーに限らず参考にした映画のキャラクターや人物、また影響を与えられたものがあれば教えてください。

「意識的に参考にしたものはないよ。そうだね、でも間違いなくたくさんあると思っている。正直に言って、僕はジョーカーをどうやって演じればいいのかはっきりとわかっていなかったんだ。たくさんのアイディアを持っていたけれど、それがなにかはわからなかった。でも『マレー・フランクリン・ショー』のシーンを撮影している間に、彼の本来の姿が出てきたんだ。後で考えてみたら、それはフランクン・フルターだということに気が付いたんだ。『ロッキー・ホラー・ショー』に出てくるフランクン・フルターだよ。そこで突然『オーマイゴッド、僕は完全に影響を受けていた』と気が付いた。なぜなら僕は子どもの頃『ロッキー・ホラー・ショー』が大好きだったからだよ。僕がいつも演じることができればいいなと願っていたキャラクターのひとつでもあって、彼は最も素晴らしいキャラクターなんだ。

それからもう1人、これは僕も気付いていなかったんだけれど、あるセリフをほとんどアクセントのような特定のリズムで言っていたんだ。僕は自分の中で『一体それは誰なんだ?なぜ僕はああいうセリフの言い方をしているんだ?』と自問自答した。そこでようやく『おお、これはキャサリン・ヘップバーンだ』とわかった。『オーマイゴッド、僕はキャサリン・ヘップバーンを演じているんだ』。アーサーは世界から孤立していて、テレビと映画を観て育ってきた。彼はその世界がリアルだと思っていたんだ。例えば彼の洋服の着方は、そういったことに基づいているね」

『ロッキー・ホラー・ショー』の主人公や、あの大女優から影響を受けたと明かしたホアキン
[c]2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & [c]DC Comics

――非常に強い影響力を持つジョーカーというキャラクターですが、撮影が終わった後、彼から抜けだすことはできましたか?

「自分が演じているキャラクターと自分は違う存在だとはっきり意識している状態だったら、それは演技がうまくいっていないということなんだ。僕は役に取り組むとき、自分とキャラクターとの距離がなくなることを理想としているからね。撮影が進むにつれて僕が役柄そのものになり、僕がやることすべてが彼のやることという状態になれば、それは最高だ。僕の生活のすべてがこの映画に焦点があわされていて、この映画に関わっている人たちすべてが僕の世界の一部になるんだ。

だから撮影が終わって家に帰ったときに、役柄から抜けだすとか、撮影現場に置いてくることはないんだ。だからと言ってキャラクターのなかに居続けるというわけにもいかないから、頭のなかにある役柄の流れを維持する努力だけを意識的にやっているということだ。家に帰ると前の週に撮影したものを観てみる。その後次の週の撮影ではどういう風にやるのかをプランを立てる。もし間違った演じ方をしてしまったと落ち込んだ時にはトッド(・フィリップス監督)に電話をして、彼を殺してから自分も自殺すると脅迫するんだ(笑)。そこから上手くできたシーンの話をして、これから撮影するシーンをどうするかを話し合う。だから僕が意識的にこの映画のことを考えなかった時間は、寝ている時だけってことになるかな。関わっている映画の世界が僕のすべてになる。いつもそうなんだ」

3度目のアカデミー賞候補成るか!?『ジョーカー』は大ヒット公開中!
[c]2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & [c]DC Comics

こうして新たな代表作を得たホアキンは、本作の演技で来年のアカデミー賞の主演男優賞最有力候補の一角として謳われている。3度目のノミネートと悲願の初受賞なるのか、大いに注目したいところだ。すでに公開された日本やアメリカでは、早くも様々な反響を巻き起こしている本作。ホアキンの渾身の演技と、アメコミ映画の歴史を塗り替える衝撃作を、是非とも劇場の大スクリーンで堪能してほしい。(Movie Walker・文/久保田 和馬)

元記事を読む