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自分の欲望って? 男らしさって? 北村紗衣による奇想天外なアンサー本

  • 2019.10.1
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「つまらない」の中に 潜んでいるもの

今月のオススメ本 『お砂糖とスパイスと 爆発的な何か』

「自分の欲望を知ろう」「男らしさについて考えてみよう」「ヒロインたちと出会おう」「わたしたちの歴史を知ろう」「ユートピアとディストピアについて考えよう」の全5部構成、25本のエッセイを収録した初の批評集。著者は「観客論」の研究者としても知られる。
北村紗衣 書肆侃侃房 1,500円

気鋭の若手シェイクスピア研究者として知られる北村紗衣が、フェミニスト批評を武器に、古今東西の舞台・映画・小説に斬り込む批評集を刊行した。

「これまでの批評は、男性中心的な社会の中で作られた作品を、男性目線で読み解くことが多かった。フェミニスト批評は、女性の目線から作品を捉えることで、描かれた女性像に注目したり、隠された性差別などの違和感を指摘したりする。そうすることで、漠然と好きだと感じていた作品がもっと好きになったり、嫌いだと感じていた作品を“興味深い嫌い”に変えることができるんです」

ヴァージニア・ウルフの幻の小説『フラッシュ』が描き出す誘拐された犬の運命から、女性の人生における「抑圧の檻」を読み解く。

デヴィッド・フィンチャー監督の映画『ファイト・クラブ』を「伝統的な男らしさを美化する風潮を辛辣に諷刺した作品」と捉え、「実はとてもロマンティック」と看破する。

シェイクスピアの戯曲『十二夜』のヒロインに「ツンデレ」を見出し、近世のイギリスと現代日本との通路を開く――。

豊富な知識に裏打ちされた、精確なあらすじ紹介も魅力的だ。特に、劇評のディテールには驚かされる。

「仕事柄、年間100本は舞台を観るんですが、メモは取らずに頭の中でブツブツ喋っています(笑)。ライブエンターテイメントって、目の前で人間が表現している迫力に取り込まれてしまい、普通に観ていると“ああ、楽しかった!”で終わっちゃうんですよ。フェミニスト批評を意識して一歩引いた観点を自分の中に持っておくことは、作品の魅力を冷静に分析するうえで有効なのかも」

もしも「真面目な批評家」であれば、批評は創作に還元されるべき、と主張するのだろう。「不真面目な批評家」である北村は〈批評を読んだ人が、読む前よりも対象とする作品や作者をもっと興味深いと思ってくれればそれでいい〉。

だが、SNSが発達した現代は、作り手と受け手が直接交流する時代だ。

観客や読者がたとえ140文字であれ批評性をもって呟くことは、クリエイターに刺激を与えることにも繫がるのだ。

「作品に対して漠然と感じた好きだとか嫌いだという気持ちを、明確に言語化してみる作業って面白いんです。ひどい作品に当たっても、“どうしてこんなにつまらないのか考えよう!”ってテンションが上がる(笑)。つまらないという感情の中に、実は自分にとって大切な気づきが潜んでいると思うんですよ」

北村紗衣(きたむらさえ)

1983年北海道生まれ。武蔵大学人文学部英語英米文化学科准教授。
専門はシェイクスピア、フェミニスト批評、舞台芸術史。
著書に『シェイクスピア劇を楽しんだ女性たち──近世の観劇と読書』(白水社)ほか。

文=吉田大助

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