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いじめ、孤独…自称“負け組”ユーチューバー「生き辛さを脱する方法」

  • 2019.9.20
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新しい季節へと移り変わるなか、新たな気持ちで2019年の後半も走り抜きたいところ。にもかかわらず、どこにも自分の居場所を見つけられず、気持ちは一向に変わらないままという人はいませんか? そこで今回は、そんな思いを抱いたことのある人なら、誰もが共感してしまう注目作をご紹介します。それは……。

『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』

【映画、ときどき私】 vol. 260

中学校生活もいよいよ最後の1週間となった13歳のケイラ。「学年でもっとも無口な子」に選ばれてしまうものの、不器用な自分を変えようと、SNSを駆使してクラスメイトたちと繋がろうと努力としていた。

しかし、人気者のケネディには冷たくされ、好きな男の子にもどうアプローチしていいのかわからず、いくつもの壁が立ちはだかる。中学校を卒業する前に、ケイラは新たな一歩を踏み出すことができるのか……。

著名な監督や俳優たちがこぞって絶賛するだけでなく、オバマ前アメリカ大統領が年間ベスト映画に選出するなど、全米ではもはや社会現象ともなった話題作。今回は、現在アメリカで注目を集めているこちらの方にお話いただきました。

監督・脚本を手掛けたボー・バーナムさん!

バーナム監督は元ユーチューバーという異色の経歴を持ち、いまはコメディアン、ミュージシャン、俳優として幅広い分野で活躍中。本作は映画監督デビュー作でありながら、数々の賞に輝き、映画批評サイトの「ロッテントマト」でも満足度99%をたたき出したほど、高く評価されています。そこで、日本の観客に伝えたいメッセージや本作に込めた思いについて語っていただきました。

―監督は16歳でユーチューバーデビューを果たしたのち、さまざまな分野で才能を発揮されているので、友達もいない孤独なケイラとは真逆のキラキラした学生生活を送られていたのではと想像していますが、いかがですか?

監督 いや、そんなことはなかったですよ。というのも、当時は僕が動画で発信していることなんて、クラスメイトも学校にいる誰もがまったく気にかけていませんでしたから。僕のなかにも内向的な部分と外交的な部分の両方があったからこそ、こういう作品になったんだと思います。

―ユーチューバーとしてかなり注目を集めていたと思うので、それは意外です。

監督 僕たちが生きている現代では、外交的であることや自己表現することを求められていますが、同時にみんなすごく孤独を感じているんじゃないかなと思っています。だからこそ、この作品ではそういうことによって生まれる矛盾を描きたいという気持ちがありました。

―ケイラを描くうえで、ご自身が13歳だったときを思い出すこともありましたか?

監督 僕がユーチューバーになったのは16歳でしたけど、もし13歳だったらああいう発信はできなかったんじゃないかなと思います。だから、ケイラは本当に勇気がある子なんですよ。

僕なんて、劇中に出てくるプールパーティは大嫌いだったし、クジラを見に行く遠足のときには、友達にズボンを引きずり下ろされたりしたこともあるから、どちらかというと負け組と言えるんじゃないかな(笑)。ただ、13歳からの3年でずいぶん性格は変わったと思います。

大人でもSNSと付き合うのが難しい

―いじめとまではいかなくとも、からかわれやすいタイプだったところもありますか?

監督 そうですね。そのことはこの作品のなかでも触れていますが、いわゆるいじめという形ではなくても、人はつらく感じることがあり得るということ。たとえば、ボコボコにされたり、ロッカーに閉じ込められるようないじめは僕からすると、昔のいじめ方だけど、いまのいじめというのはもっとさりげないものだったりするんじゃないかなというのを描いたつもりです。

―そこについてはSNSも大きく関わってきますが、もし監督がこれだけインターネットやSNSが発達したいまの時代に13歳だったら、どういう学生生活になっていたと思いますか?

監督 僕が学生だったころは、インターネットもかなり初期の時代だったから、想像もできないし、そこで生き残れたかすらわからないですね。大人になったいまでさえ、ちょっと過剰だなと思うし、うまく付き合っていくのが難しいと感じているくらいだから、いまの子どもたちは大変なんじゃないかな。「もし自分が子どもだったらどうなっていたんだろう」と考えてしまいます。

―いまおっしゃっていたように、子どもはもちろん、大人でも大きな影響を受けていますが、監督が思うSNSやインターネットのメリットとデメリットを教えてください。

監督 僕は、良いところも悪いところもたくさんあると思っています。まず良いところは、いままで見えていなかった人たちに自分を見てもらえるし、自分を発信できる場を持てるということ。そして、世界中で自分ひとりかもしれないと悩んでいたことでも、自分と同じ思いを持っている人がこんなにたくさんいるんだと知ることができることも大きいと思います。そんなふうに自分を表現できるのは良いことだし、健康的なことですよね。

あとは、いろいろなシステムのチェックもできるようになったこともメリットのひとつ。たとえば、アメリカでは警官による暴力が問題になっていますが、最近は警官が体につけたカメラの映像が公開されているので、それが戒めの効果を持つようにもなっています。

いまは、いろいろなところでさまざまなことが起きていますが、前からあったこともインターネットによって視覚化されるようになったのは大きな変化といえますよね。

良くも悪くも人が感情的になりやすくなっている

―どれもインターネットがない時代には考えられなかったことですよね。

監督 逆に悪いところは、常に自分についてまわるところ。あとは、なかなかルールを作ることができないし、ビジネス的な考え方をする人たちによって多くのユーザーたちが動かされてしまうことも不健康なことだと感じています。

子どものころ、「テレビばっかり見てると脳みそが溶けるよ!」みたいなことを親に言われたと思いますが、メタファーとしてはその通りなんじゃないかな。インターネットばかり見ているからこそ生まれてしまう不安もあるし、社会的なぎこちなさや居心地の悪さを感じている人も多いはずです。

たとえば、普段はそんな人じゃないのに、インターネット上でひどいコメントを書いたり、アバターを通して冷酷なことができてしまう人がいるんですよね。良い意味でも悪い意味でもみんな感情的になりやすいところはあると思います。あと問題なのは、中間がなくて、すごく良いかすごく悪いかのどちらかしかないというところですね。

―主人公のケイラは、自撮りした動画で自分の本心を打ち明けていますが、日本ではシャイな女の子がそういう行動を取るというのは、あまり多くはないと思います。アメリカではよくあることですか?

監督 どちらかというと、ケイラは日本の女の子に近いタイプなんだけど、インターネットの文化とアメリカの文化が自己表現しないといけないと、彼女の背中を押した結果、ああいう形で発信することになっているんです。

というのも、アメリカでは「あなたは自分の人生のスターである」とか「自分の人生は自分の物語」といった考え方があり、これはすごくアメリカ的。でも、先進国の子どもたちにも同じような影響を与えているはずだから、いまの日本の子どもたちも、実はケイラと同じように発信しているかもしれないですよね。

子ども特有の問題ではなく人間の本質を描いた

―ちなみに、ケイラが日本人に近いと感じる理由は、どんなところですか?

監督 日本に来ていろいろな人と話をしながら、多くのことを学んでいるところなんですけど、日本のみなさんは不思議なくらい僕が意図していた部分をまっすぐに感じ取ってくれているからです。

もしかしたらSNSには、アメリカの文化の一番悪い側面を助長させるようなところがあり、それによってケイラのような子の気持ちを考えることすらしなくなっているのかもしれません。

だから、取材を受けていても、こういう話になるような質問は一切出ないんですよ。それは、おそらくアメリカでは取材する側の人間もちょっとしたセレブみたいな人たちばかりになっているから、そういう感覚がわからなくなっているんだと思います。

それに比べると、日本のみなさんは僕が考えていることや表現したいことをすぐにわかってくれているので、本当に健康的だなと感じているし、これほどまでにみなさんにわかってもらえることが信じられないくらいです。

―確かに、これまで描かれていた典型的なアメリカのティーンに比べると、内向的な性格を含め、日本人が共感しやすいキャラクターだと思います。日本の観客にどういう部分を感じて欲しいですか?

監督 僕自身もみなさんと同じように、苦しみや葛藤を味わってきたことがありますが、この映画で描いているのは、13歳の少女特有の問題ではなくて、何千年にもわたる人間の本質。子どもだけでなく、大人でもそういうつらさを感じているからこそ、人類史においてさまざまな詩やアートが生み出されてきたんじゃないかなと思っています。

―実は、日本では夏休み明けの9月前半に若者の自殺が増加するというのが社会問題にもなっていますが、その裏には子どもでも大人でも人間関係に悩みを抱え、孤独を感じている人が多いのが現状です。それだけに、ケイラの姿に勇気づけられる人はたくさんいると思うので、最後に監督からメッセージをお願いします。

監督 僕が自分の経験を通して見つけた唯一の解決策というのは、葛藤や苦しみを言葉にして表現していくということ。僕自身も不安や心配をずっと抱えるなかで、「言葉にするのはダサい」とか「口にすべきじゃない」とか「どうせ誰も気にかけてくれないだろう」と思い続けていたタイプでした。でも、本当はケイラみたいに言葉にするのがよかったんだといまは思っています。

別にケイラと同じように映像を作る必要はないですが、誰かに話してみるとか、セラピーに行ってみるとかでもいいから、まずは言葉にすることが大切。だからといって、すぐにつらい気持ちが変わるわけではないかもしれないけれど、僕はずっと戦い続けているなかで、言葉にした瞬間に肩の荷が下りるのを感じました。それは、自分の体のなかから言霊として外に出したことで気持ちが軽くなったからです。

そういうときに自己表現をしたり、思いをシェアできたりするのは、ネットの特性でもあるので、「自分だけがこんなに苦しんでいて特別なんだ」と思うのではなく、すべてを解き放つことで、自分はひとりじゃないと知ることが解決につながると感じています。

大人にこそ響く珠玉のストーリー!

自分のなかに不安や葛藤を抱えていると、自分の分身のようなケイラを見るのはちょっぴり胸が痛いところもあるけれど、健気に立ち向かう姿は愛おしくてたまらないと感じるはず。変わりたいのに変われない自分と決別したいのなら、ケイラと一緒にそんな生活から卒業し、新たな自分と出会ってみては?

クールな予告編はこちら!

作品情報

『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』
9月20日(金) ヒューマントラストシネマ有楽町、シネクイントほか全国ロードショー
配給:トランスフォーマー
© 2018 A24 DISTRIBUTION, LLC

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