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膝の「過伸展」とは?理学療法士によるアーサナ過伸展チェックポイント

  • 2019.9.19
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それって本当に柔軟性?

一般に関節の可動域が大きいことは「柔軟性が高い」と解釈されます。しかし、異常なほどに関節の可動域が大きい場合でも「柔軟性が高い」と言ってしまうのには疑問を感じます。

確かに、正常な関節には多少の「遊び」(関節のわずかなゆとり)があります。この「遊び」が、静的な安定性と、動的な可動性を兼ね揃えた関節の機能を可能にしています。しかし、この「遊び」が過剰になり、過度な「ゆるみ」となれば、関節の安定性が損なわれて、逆に関節機能に支障をもたらしてしまいます。正常な可動域を越え、関節の動揺性が高まると、関節の固定力が弱まり、軸がブレることによって、力が入りにくい、疲労しやすい、関節の磨耗が大きくなるなどといった問題が起こります。

「過伸展」(かしんてん)とは?

ヨガの時にインストラクターから、肘や膝を「もう少しゆるめて」とか「伸ばし切らないで」といったアドバイスを受けたことはありますか?それはおそらく「過伸展」を注意されています。

過伸展とは、関節が必要以上に反ってしまうことで、「ハイパーエクステンション」ともいいます。この状態でヨガを続けていると、体重がかかることで関節や靱帯に負担がかかり、痛みや故障を招くため危険です。過伸展の原因は、関節に頼った使い方にあります。まるで突っ張り棒のように「関節をロック」する使い方です。本来なら筋肉が負荷や衝撃を吸収するはすが、関節がダイレクトにストレスを受ける状態になってしまいます。

膝の「過伸展」とは?理学療法士によるアーサナ過伸展チェックポイント
ヨガでの過伸展好発部位

ヨガで過伸展を起こしやすい関節は決まっています。それは、「肘」「膝」「手首」「首」「腰」の5か所です。以前、肘の過伸展についてはお話しました。この5つの部位それぞれに、アーサナの時の注意点とポイントがあるのですが、今回は「膝」に注目してみましょう。

女性の柔軟性と競技特性

一般に、男性より女性の方が関節が柔らかいとされています。一説によると、ホルモンが関与しているとされており、月経周期の一部の時期において関節の不安定性が高まるとの報告もあります。確かに、女性の妊娠後期にはリラキシンというホルモンが分泌されて、分娩に備えて関節や靭帯が緩みます。このことからも、月経周期のホルモン変動によって関節の柔軟性に影響を与えることは不思議ではありません。

また、水泳選手やバレリーナ、新体操選手に膝の過伸展が多く見られます。水泳の場合、繰り返されるキック時のフィン動作で、膝は常に完全伸展し、その伸展方向への過剰なストレスが積み重なることで、膝の過伸展が強くなっていくのです。この過伸展は、競技にはプラスでも、傷害発生の観点からはマイナスになります。膝周囲の筋力不足や疲労が起こり、また老化などにより関節の異常な可動域による防御力・適応能力が低下した際には、逆に傷害を起こす可能性が高くなってしまいます。

「膝」の過伸展

では、ヨガの時の膝の過伸展についてお話します。膝の過伸展は、「反張膝」(はんちょうひざ)ということもあります。膝が後方に反ってロッキングしている状態のことをいいます。膝の参考可動域は、屈曲130°、そして伸展0°です。この伸展0°よりも膝が反った状態が過伸展です。膝の過伸展の状態を続けていると、下記のような状態を引き起こす可能性があります。

・膝の靭帯や半月板の損傷
・膝関節の脱臼や変形
・膝の痛み
・股関節や足関節の機能低下(膝の不良アライメントが、隣接した関節への負担を増大して、股関節や足首の不調へと波及します)
・立位でのバランスが取りにくくなる
・体幹機能が低下して姿勢が崩れる
・脚の筋力低下
・血行が悪くなり疲労やむくみが起こる

まず、自分の膝が過伸展かどうかをチェックしてみましょう。ダンダーサナ(杖のポーズ)で膝をしっかりと伸ばそうとしてください。その時に踵が床から浮いたら陽性です。

膝の「過伸展」とは?理学療法士によるアーサナ過伸展チェックポイント
ダンダーサナ

これではちょっと判断しにくい方は、紐(ヒモ)を使ってチェックします。ヨガベルトでもメジャーでも何でも構いません。写真のように片脚を椅子や台に乗せて、その膝をしっかり伸ばしつつ、そけい部から足首の正面にかけて、紐をピンと張るようにあてます。膝が紐に触れずに、写真のように離れている場合は陽性です。

膝の「過伸展」とは?理学療法士によるアーサナ過伸展チェックポイント
過伸展をチェックしよう

ちなみに写真のモデルの私は少し過伸展気味なので、過伸展の例としてちょうど参考になると思います。ヨガのアーサナでは特に、

・ウッティタートリコナーサナ(三角のポーズ)
パールシュヴォッターナーサナ(側面を強く伸ばすポーズ)

の2ポーズで注意が必要です。これらのポーズのように、立位で膝を伸ばした状態で前の脚に体重が乗りやすいポーズは、より過伸展を起こしやすいです。ポイントは、前脚だけでなく後ろ脚にも体重を半分ずつ分けて乗せる意識で、かつ前脚の膝を少し曲げたポジションで保つことが重要です。

・ウッティタートリコナーサナ

膝の「過伸展」とは?理学療法士によるアーサナ過伸展チェックポイント
ウッティタートリコナーサナのNG
膝の「過伸展」とは?理学療法士によるアーサナ過伸展チェックポイント
ウッティタートリコナーサナ

・パールシュヴォッターナーサナ

膝の「過伸展」とは?理学療法士によるアーサナ過伸展チェックポイント
パールシュヴォッターナーサナのNG
膝の「過伸展」とは?理学療法士によるアーサナ過伸展チェックポイント
パールシュヴォッターナーサナ

最後に

膝が過伸展傾向だった方は、これからのヨガで過伸展を気をつけるよう心がけていけば心配いりません。高い柔軟性よりも、その可動性をコントロールする筋力が大切だということは、以前コラムでお伝えした通りです。過伸展の状態まで膝を伸ばしていた方にとっては、最初は膝を緩めると不安定な感覚があるかもしれません。しかし、過伸展を避けることで徐々に膝周囲の筋力がついてくるので、不安定感は解消していくはずです。結果的にそれが、膝関節の故障などを防ぐ助けになります。

ヨガの際、自分のアライメントに疑問や不安のある方は、ぜひインストラクターや理学療法士などの専門家に気軽に声をかけてみてください。ヨガが皆さんにとって、常に健康で安全なライフスタイルの一部であり続けることを願います。

参考
山本利春「測定と評価 現場に活かすコンディショニングの科学」(有)ブックハウスエイチディ,2004

ライター/堀川ゆき
理学療法士。ヨガ・ピラティス講師。抗加齢指導士。モデルやレポーターとして活動中ヨガと出会い、2006年にRYT200を取得。その後、健康や予防医療に関心を持ち、理学療法士国家資格を取得し、慶應義塾大学大学院医学部に進学。現在大学病院やスポーツ整形外科クリニックで、運動機能回復のためのリハビリ治療に携わる。RYT200解剖学講師も務める。

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