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数多の困難を乗り越えて夢を実現! 『レディ・マエストロ』

  • 2019.9.17
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ある程度予想してはいたものの、その展開は予想を遥かに超えていた。中盤から、主人公の生き方にも、この映画のおもしろさにもグイグイ引き込まれ、最後にはクラシックの名曲が高鳴る気持ちを盛り上げる。この映画『レディ・マエストロ(英題:The Conductor)』は、女性指揮者のパイオニア、アントニア・ブリコの実話を描いたもので、彼女の夢を諦めない姿は、同じように夢を抱えている観客の背中を強く押してくれるはずだ。その応援歌として流れるのは、マーラー『交響曲第4番』、ドヴォルザーク『ロマンス』、ドビュッシー『夢』、ストラヴィンスキー『火の鳥』、ガーシュウィン『ラプソディ・イン・ブルー』といった名曲の数々である。

1930年にベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の指揮者としてデビューしたアントニア・ブリコ(クリスタン・デ・ブラーン)。

■女性指揮者としての道を切り拓いた、アントニア・ブリコの実話。

舞台は1926年のニューヨーク。主人公のブリコは裕福な育ちではなく、キャリアもなく、何のコネクションもない。しかも音楽そのものを家族から反対され、家のために稼ぐことで精一杯だ。そんな袋小路の彼女が、女性が指揮者になるという夢を見ることさえ許されなかった男性社会の音楽界で、夢を実現させる。また、このサクセスストーリーにはラブストーリーが絡むだけではなく、オランダからの移民としての生活や、出生の秘密、彼女を応援するLGBTの友人の姿などが描かれていく……。

御曹司であるフランク(ベンジャミン・ウェインライト)との恋愛の行方も見どころ。

ブリコの音楽への情熱はものすごく、その熱意に周囲の人たちが動かされていると言っていい。実際、映画の資料によれば、ドイツの巨匠指揮者であるカール・ムックがバイロイトで神聖祭典劇『パルジファル』のリハーサルをしていた時に、ブリコが推薦状を持って突然押しかけ、その熱意に根負けしたムックが彼女にリハーサルの見学を許可したというエピソードが残っているという。

バイロイトといえば、ワーグナーが自作オペラ上演のために、理想の劇場として設立した祝祭劇場があり、バイロイト音楽祭はそこで1876年からスタートした由緒ある音楽祭だ。しかも『パルジファル』は、ワーグナーが1882年にバイエルン国王ルートヴィヒⅡ世のために書いたオペラである。その場でムックがどれほど神経質になっていたか想像に難くないが、そこで許可されたというのだから、相当な熱意だったのだろう。

とにかく、何があっても夢を諦めないブリコの熱意がすごい。

■自分だったらどうする?と考えながら、観ることも。

この映画の楽しみ方はいろいろある。指揮者になるために理解のある師を求めて、アムステルダムからベルリンに向かうなど、どこへでも飛んでいく、そのブリコの行動力。女性であるために下心から寄ってくる師がいるかと思えば、女性の指揮者ゆえのバッシングもあり、そのブリコの対応力。高尚なクラシック音楽社交界での会話や過ごし方の適応力に、結婚を選ぶかキャリアを選ぶかという、いつの世も女性を悩ませる案件での選択力。そう思うと、自分だったらどうする?と考えながら観ることのできるシーンがとても多いのだ。

礼儀作法や家柄を気にする社交の場でも、ブリコは自分を変えない。

脚本と監督を担当したマリア・ペーテルスは、オランダで最も成功した脚本家および映画監督のひとりとして知られ、過去20年におけるオランダ映画のヒット作上位20位に彼女の作品が3本入っているそうだ。アカデミー賞外国語映画賞オランダ代表となった作品『Sonny Boy』(2011年)もある。なるほど、ストーリー展開が巧みだし、女性の心理の描き方も丁寧だなと思った。

女性指揮者の登場は、多くの女性演奏家の励みにもなった。

女性だけのオーケストラには、ビヨンセの女性だけの専属バンド、シュガ・ママを思い出してしまった。今年でアントニア・ブリコ没後30年になるが、このような女性がいたことを知らしめることができただけでも、この映画には意味があると思う。芸術の秋に向けても、とてもオススメの映画である。

『レディ・マエストロ』予告編

『レディ・マエストロ』●監督・脚本/マリア・ペーテルス●出演/クリスタン・デ・ブラーン、ベンジャミン・ウェインライト、スコット・ターナー・スコフィールド●2018年、オランダ映画139分●英題/The Conductor●配給/アルバトロス・フィルム●9月20日(金)よりBunkamuraル・シネマほか全国順次公開http://ladymaestro.com©Shooting Star Filmcompany-2018

*To Be Continued

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