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連載第28回 2016年「愛しあってるかい!名セリフ&名場面で振り返る平成ドラマ30年史」

  • 2019.8.20
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名セリフ&名場面で振り返る平成ドラマ30年史
KADOKAWA

元毎日放送プロデューサーの影山教授

2016年―。ピコ太郎のPPAPと星野源と新垣結衣の恋ダンスが大流行し、映画は「君の名は。」「シン・ゴジラ」が大ヒット。ネットを開くと「保育園落ちた日本死ね」が話題になり、ポケモンGOが日本配信開始で盛り上がり、ボブ・ディランがノーベル文学賞を受賞した1年だった。テレビドラマも大豊作。「3年前という記憶に新しいところもありますが、それを差し引いても、大当たり年と言っていいのではないでしょうか」と目を輝かせる影山貴彦氏。「どれをメインに語ろうか、困りましたね、悩みますね」と、嬉しい悲鳴を上げていた!

「逃げるは恥だが役に立つ」の〝生きにくさ″というテーマ

―2016年はすごいですね! 「逃げるは恥だが役に立つ」「家売るオンナ」「ゆとりですがなにか」…、名作と呼ばれるドラマがズラリと並んでいます。

社会現象にもなった「逃げるは恥だが役に立つ」からいきましょう。脚本家は野木亜紀子さん。20代後半から30代前半の、女性の細かな感情を伴った生きる難しさを描くのがとても上手です。「逃げるは恥だが役に立つ」も、根本にあるのは、主役のみくりの働き方や生き方への〝もがき″です。大学院を出ながらも就職難で派遣社員になり、さらには派遣切りに遭ってしまう。星野源さん演じる平匡(ひらまさ)と契約結婚に至ったあとも、契約内容を理論的に分析するも悩み続けます。一番大きなテーマは、「逃げるは恥だが役に立つ」の「逃げる」。みくりはなにから逃げていたのか? そこから見つけた生き方とはなんだったのか、ということだった気がします。

ちょうどこのころは「ドクターX ~外科医・大門未知子~」をはじめ職業ドラマが好調で、若い女性は恋愛ドラマから距離を置いている、などと言われていた時期です。しかし「逃げ恥」は大勢の心に届きました。恋ダンスも流行りましたが、あれはあくまでもサブ。新たな恋愛の距離感を描けば、どの時代も視聴者はしっかりチェックするということですよね。2016年は中谷美紀さん主演の「私 結婚できないんじゃなくて、しないんです」もありましたが、こちらも時代のリアルな結婚事情のリサーチ結果など、情報提示がうまく盛り込まれていました。

―「逃げるは恥だが役に立つ」はキャスティングも素晴らしかったですね。

新垣結衣さんの役作りは絶妙ですよね。受け手側に飢餓感を与える可愛さがあります。冷静に自分の役割を把握して演じて、やり過ぎない。だから「もっともっと見たい」と引き込まれてしまうんですよね(笑)。叔母役をした石田ゆり子さんにも同じ魅力を感じます。そして星野源さんの持つ安心感。いろんな経験や挫折が幾層も重なってできた、強い信念と誠実さが見える方です。良い意味で「一筋縄ではいかないな」と思わせますよね。

職業ドラマでエネルギーの強さを放った黒木華・石原さとみ・北川景子

―「重版出来!」も野木亜紀子さんの脚本でした。

野木さんはこの「重版出来!」で東京ドラマアウォード2016にて脚本賞を受賞されています。私も大好きでした! マンガ編集部、そして出版業界の大変さと希望を気持ち良く描いた快作だと思います。主役は黒木華さん。私は黒木さんが出るドラマは必ずチェックするほど大好きな女優さんですが、個人的に、とても思慮深くて少し影があるイメージがあって。だから「重版出来!」の黒沢心という明るい体育会系のキャスティングは、かなり意外でしたね。石原さとみさんが演じていたらどうなったかな? と思ったりもしました。石原さんはこの年、「地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子」で主演をされています。こちらも出版業界、しかも校閲という繊細な仕事にスポットライトを当てながらも、とても見応えがありましたね。この作品あたりから、石原さとみさんは覚悟を決めた感じが出てきて、より好きになりました。歳を取るほど、魅力が増している俳優の一人ですね。

「家売るオンナ」の北川景子さんも、元来持っているクールビューティーなイメージと、三軒家万智のキャラクターがはまって一皮むけた感じがしましたね。コメディエンヌとしての才能を知らしめたドラマではなかったでしょうか。トラブルメーカーの白洲美加役を演じたイモトアヤコさんの達者さにも驚きました。ああ、こんなにちゃんと崩した芝居ができる人なのだ、と。全体的に女性が引っ張り、男性がオロオロというテーコー不動産株式会社の構図も面白かったです。そもそも、不動産業というものをここまでクローズアップしたドラマは少ない。脚本の大石静さんは本当にすごいですね。この年は石田ゆり子さん主演の「コントレール~罪と恋~」という素晴らしい恋愛ミステリーも書いているんですよ。どのテーマも描き切るその筆力、死角がない。アッパレとしかいいようがありません(笑)。

社会問題を問いかける脚本家たちの覚悟と技術

―2016年は、社会問題を描いたドラマも多かったですね。「はじめまして、愛しています。」は里子問題を取り上げたドラマでした。

脚本は遊川和彦さん。社会性を伴うドラマは、徹底した調査と十二分な気配り、さらには放送されたあとの反響を想定して作らなければいけません。けれど、どれだけ下準備をしても「一部しか見ていない」「そういう風に書いてほしくない」という組織や人は必ず出てくるものです。だからといって、そういったテーマを排除するのは違っていて、時代を映す鏡という役割で、ドラマはちゃんと向き合っていかねばなりません。里子問題というセンシティブで本当に難しいテーマを取り上げた遊川さんの覚悟は素晴らしいですね。

「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」も、月9の恋愛ドラマではありますが、多くの要素が絡んでいて、考えさせられました。介護の難しさや高齢者問題、そして東日本大震災。脚本家は坂元裕二さんですが、そういったテーマをおどろおどろしくではなく、人間ドラマの中に組み込むのはさすがです。私が大好きなシーンにレシートのシーンがあって、高良健吾さん演じる曽田練のおじいさんが亡くなったとき、買い物をしているレシートが残っていて。それを「○月○日…」とひとつずつ読み上げて、こういう物を買っている、これが好物だったんでしょうね、と有村架純さん演じる杉原音が、涙ながらに練に語りかけるんですね。レシートひとつで、その人が送ってきた生活や好きな物がわかるんですよね…。涙しました。あのシーンは、坂元裕二さんの真骨頂といっていいでしょう。

高良健吾さんは文学的なムードがある人。この人の代わりになる存在感を持つ人はなかなかいないのではないでしょうか。知性がある、クラシックな2枚目です。9月13日公開の映画「人間失格 太宰治と3人の女たち」では三島由紀夫 役を演じるのだそうですね。楽しみです! そして、練の友人、中條晴太を演じた坂口健太郎さんもよかったです。人当たりが柔らかくて禁欲的なのだけど、じわっとにじみ出る鋭い哀しさみたいなものがありました。「重版出来!」で、編集に行きたかったのに営業に配属された小泉さん役としても「いるいる!」という感じで。静かながら、ドラマにものすごく大切な彩りをつけている、そんな役者さんですね。

「ゆとりですがなにか」が引っ張り出した本音

そして、最後に語りたいのが「ゆとりですがなにか」。脚本家宮藤官九郎さんのリズム、そして水田伸生監督の心の揺れを捉える演出の見事さで1シーン1シーンが輝いていました。ゆとり世代といっても、決して一括りでは語れません。1987年生まれという設定の主役3人組(岡田将生さん、松坂桃李さん、柳楽優弥さん)と、ゆとりモンスターとして描かれる1993年生まれの山岸(仲野太賀さん)は全然違うわけです。もちろん男性、女性の抱える悩みも違う。しっかり者の安藤サクラさんも加わって、見事にそれぞれの悩みとかこだわりが描かれていました。あえて社会に大声を出して抗わない、けれどモヤモヤした部分をたくさん感じてきた、ゆとり世代の人たちにとって、このうえない応援歌になったのではないでしょうか。モヤモヤしていたものが、ドラマとしてはっきりした形で提供され「そうそう、そういうことを言いたかったんです、思っていたんです!」とわかる。「ゆとりですがなにか」はまさにそんなドラマでした。

「ゆとりですがなにか」を見てつくづく思うのは、よくアンケートでリサーチし、若者が求めているドラマを作ってヒットにつなげるというけれど、そうじゃないんですよね。突然「どんなドラマを見たいですか」と質問されて、「じゃあ」と具体的に書いてくれる人はなかなかいません。そもそも、イメージがまだ頭にないのですから。アンケートで出てこない、心の奥底で求めているものを想像しつつほじくり出すのがクリエイターです。視聴者さえ気づいていなかった好きなものや見たかったことを供給する。とても難しいですが、それがヒット作を作るプロの仕事だと思います。

元毎日放送プロデューサーの影山教授
KADOKAWA

【著者プロフィール】影山貴彦(かげやまたかひこ)同志社女子大学 メディア創造学科教授。元毎日放送プロデューサー(「MBSヤングタウン」など)。早稲田大学政経学部卒、ABCラジオ番組審議会委員長、上方漫才大賞審査員、GAORA番組審議委員、日本笑い学会理事。著書に「テレビドラマでわかる平成社会風俗史」(実業之日本社)、「テレビのゆくえ」(世界思想社)など。

【インタビュアー】田中稲/ライター。昭和歌謡、都市伝説、刑事ドラマ、世代研究、懐かしのアイドルを中心に執筆。「昭和歌謡[出る単]1008語」(誠文堂新光社)。CREA WEBにて「田中稲の勝手に再ブーム」連載。(東京ウォーカー(全国版)・関西ウォーカー)

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