アライアと格安品店Tati、1991年衝撃の出合い。

マレのアズディン・アライア・ギャラリーで、新しい企画展がスタートした。『Another Way to Look at Fashion / 別の視点からファッションを見る』といささか長いタイトルだが、フランスのモード史に刻まれた1ページに出会える。

いまから30年近く前のこと、当時のパリのファッショニスタを大興奮させた出来事があった。憧れのクチュリエ、アライアが格安品を提供する有名なショップTatiとコラボレーションを行ったことである。1991年の春夏コレクションの冒頭で、彼はTatiのトレードマークである白と鮮やかなピンク色のギンガムチェックのプリントを生地にしたボディコンシャスでウルトラセクシーな服を何体も披露したのだ。プリントには白×黒、白×青もプラスされていた。

Tatiおなじみのギンガムチェックを装飾に使用した会場内に、1991年のTatiコレクションを展示。photo : MARIKO OMURA

白と鮮やかなピンクのギンガムチェック。アライアはチュニジアに帰る飛行機で、このチェックが描かれたTatiのロゴつきビニールバッグを持つ大勢の人たちを目にしていたそうだ。photo : Stéphane Aït Ouarab

白と黒、白と青のプリントもコレクションで発表された。いまも魅力的だ。photo : MARIKO OMURA

モード界でまだコラボレーションが珍しい時代、しかもクチュリエと庶民的な店という組み合わせはとても衝撃的。さらに、Tatiの購買層にも手が届くようにとアライアはロゴ入りのショルダーバッグ、エスパドリーユ、TシャツといったTatiで販売するミニAlaïa pour Tatiコレクションもデザインしたのである。これらアイテムを取り入れたコーディネートが、グラムールやエルといったファッション誌で紹介され、パリジェンヌたちのおしゃれ心はおおいに刺激されたのだ。

1991年に発表されたTatiコレクションのランウェイより。このコラボレーションについて尋ねられたアライアは 「これにより多くを学び、ファッションを別の視点から見ることを学んだ」と答えている。photos : Guy Marineau

このコラボレーション誕生の裏側には、アライアの友人である画家ジュリアン・シュナーベルの存在が。Tatiのロゴとして有名な白×ピンクを描いたひさしを入手したシュナーベルが、その上に作品を制作したのだ。それを見たアライアに、そのギンガムチェックのジーンズをデザインするのはどうだろうか、というアイデアが閃いたのである。Tatiが使用を許可する際に、Tati用にもコレクションを！とアライアに希望。プレタでは高価になってしまう。格安の品を提案するTatiはその精神を守るべき、というアライアの願いから、先に述べた安価なAlaïa pour Tatiが作られたのである。ちなみにアライアは、このコラボレーションの過程でTatiのオーナーも彼同様にチュニジア出身であることを発見したそうだ。

会場では伝説のTatiコレクションを展示するだけでなく、ティエリー・ペレーズによるクロッキーも展示。さらに、彼のアニメーションを組み合わせた1991年のショーのビデオ（約4分）、そしてエレン・ヴォン・アンワースによるショーのバックステージ・ビデオ（約9分）も会場で見ることができる。ナオミ・キャンベル、リンダ・エヴァンジェリスタ、ヘレナ・クリステンセンといったトップモデルの時代を知らない世代には貴重な映像だろう。

会場にはアライアにインスピレーションを与えたジュリアン・シュナーベルの作品も展示されている。常にアイデアを求めているシュナーベルがその昔パリでフランス的な要素を探していた時に、みつけたのがTatiの店の格子のひさしだった。かつてビストロだった場所に開店したTatiはテラスのひさしをそのまま使っていたのだ。Tatiはフランスの映画監督の名前でもあるので、シュナーベルはこのひさしの一部を入手するべく奔走。友人のアライアから紹介されたアンドレ・プットマンの介入で、その願いは叶ったそうだ。photo : MARIKO OMURA

壁に並ぶティエリー・ペレーズのクロッキー。photo : MARIKO OMURA

コレクションを着たナオミ・キャンベルをエレン・ヴォン・アンワースが撮影し、ファッション誌を飾った。photo : MARIKO OMURA

1ユーロから買い物ができる庶民の味方であるが、経営不振に陥ったTati。18区バルベスのロシュシュアール大通りの本店だけを残して閉店することが最近発表されたところだ。photo : MARIKO OMURA

『Une autre pensée sur la mode, The Tati Collection』展開催中〜2020年1月5日Association Azzedine Alaïa18, rue de la Verrerie, 75004 Paris開）11時〜19時休）なし料）5ユーロhttps://associationazzedinealaia.org