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【GLAMなオトコ】Vol.25こんな1着が欲しかった! ユーモラスなのにスタイリッシュ。「編み物☆堀ノ内」に見るニットの可能性

  • 2019.8.2
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GLAM_編み物★堀ノ内01

思わず目を奪われずにはいられない、エッジィとユーモアの効いたニット作品を生み出しているアーティストが、「編み物☆堀ノ内」の堀ノ内達也氏。以前、ジョニー・デップの編集後記で彼のニットベストを取り上げたので覚えている方もいると思います。ミュージシャンや映画の中のキャラクターを大胆に編み込んだシグネチャーセーターの人気は日本国内にとどまらず、海外にもファンを拡大中です。

2019年からは「BE@RBRICK」でおなじみの「メディコム・トイ」でニットブランド「Knit Gang Council」をスタート。7月末には東京・表参道で開催された「メディコム・トイ」の新作展示会“MEDICOM TOY EXHIBITION ’19”にも参加し、数々のコラボアイテムを発表。高いクオリティとインパクトが同居するニットの存在感と可能性を追求し続ける堀ノ内氏に、製作に関するアレコレから、GLAM(魅力的・幸せ)まで語っていただきました。

GLAM_編み物★堀ノ内02
Q. 堀ノ内さんの作品はとにかくインパクトがあり、モチーフもエッジィが効いていて素敵でいくら見ても飽きないのですが、モチーフはどのようにして選ばれているんですか?

自分が好きな人、興味がある人です。そのほうが自分の中のモチベーションがあがって楽しく作れますから。例え「今この人がキテるから」「売れそう」となっても、自分がぐっとこなければ作る気がしないんですよね。あとはやっぱり見ている人たちが人選を面白がってくれたらいいなと思って考えたりしています。

Q. もともとグラフィックデザイナーのお仕事をされていて、編み物経験がまったくないところから始めたという経歴にも驚かされましたが、なぜ編み物をやろうと思ったのでしょうか?

本当に、どうかしてますよね。最初はネットでロックミュージシャンの顔をモチーフにしたセーターを作っている人を見て、面白いなと思ったんです。そんなときに小説家の橋本治さんが1983年に出版された「男の編み物・橋本治の手トリ 足トリ」という本に出会い、衝撃を受けました。そこには山口百恵さんやデヴィッド・ボウイの顔が編みこまれたセーターが載っていて、すごくカッコよかった。それを見て、僕もこういうのを編みたいと思って編み物を始めました。編み物の教則本としても、圧倒的にわかりやすかったですね。橋本治先生は、僕の編み物の師匠の1人だと思っています。

Q. 最初は趣味感覚で始められたのですか? あるいは最初から仕事にしたいと思っていた?

仕事になったらいいなと思っていましたけど、どういう形で仕事になるかは想像がつかなかった。ただ、もしかしたら話題にはなるかなとは思っていましたね。そういう下心がなかったらやらないですよ。面倒臭い作業ですからね(笑)。

Q. いえいえ、それでも突然始めようと思ってできることではないです。編み物の一番の楽しみはどこにあるのでしょうか?

完成したときですね。作っているときは本当に地味で退屈な作業ですから(笑)。編み物をやっている人たちの中には編むことが好きだったり、手を動かしていると無心になれるから好きという方が大勢いると思うんですけど、僕はまったくそんなことがなくて、どちらかというと「早く終わらないかな」と思ってやっているので、出来上がった瞬間が一番楽しいです。それから、デザインを考えるのも楽しいですよ。グラフィックを作るのは本業なので。

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Q. 作りたいけど複雑だから躊躇してしまっていたり、作りたいけどまだ作れないでいる作品というのはあるんですか?

色数も絵柄の複雑さも無限に形にできるようになったので、絵柄的にできないものはないんです。それよりも、「何を作ろうかな」という方で悩みますね。僕は映画が大好きで、なかでも人生で一番観ている大好きな作品が『タクシー・ドライバー』(76)。100回くらい観ていると思います。でも、じゃあ『タクシー・ドライバー』の何かを僕がわざわざ作らなくてもいいかな? と。他の誰かが作ればいいと思うんですよね。

Q. セーター1枚の製作時間は、集中すれば約1週間とおっしゃっていましたが、これまで製作した中で一番大変だったのは?

エイミー・ワインハウスのミニドレスです。面積がセーターよりも大きいのと、総柄なのでとても手がかかり、完成まで2週間かかりました。

Q. 最新作には映画『クルーレス』(95)の主人公のシェールのバッグがありますね。

最近アルゼンチンの方にスージー・アンド・ザ・バンシーズのスージー・スーや、キュアといったゴス・ロックのミュージシャンたちをモチーフにした作品を続けて5点オーダーしていただいて、それをせっせと編んでいたんですけど、全体的に色もトーンも暗いから、終わったら反動でポップで明るい作品を作りたくなってしまって、「クルーレス・バッグ」を編みました。

Q. インスタグラムでは堀ノ内さんご自身が矢沢永吉さんのセーターを着てコンサートに行かれたり、萩原健一さんの『傷だらけの天使』セーターなど、日本のアーティストをモチーフにした写真もアップされていますね。

僕、矢沢永吉さんの大ファンなんです。それで自分用に編んでコンサートに着て行ってるんですけど、矢沢さんのファンって年齢層が幅広くて年配の方も多いので、おばさまたちがものすごく反応してくれて。「やだ、それ手編み~?」「すごー、上手ねー!」って褒めてくれて楽しいんですよ(笑)。『傷だらけの天使』はショーケンさんがすごく好きだったので、亡くなられすぐに追悼の意味をこめて編みました。

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Q. 7月に開催された「メディコム・トイ」の新作展示会“MEDICOM TOY EXHIBITION ’19”ではコラボアイテムを発表されていましたが、どのようないきさつで参加されたのでしょうか?

メディコム・トイ社の社長の赤司(あかし)さんが、僕のSNSを見てコラボ・ブランドを始めてみないかと声をかけてくださり、2018年にニット・ブランド「ニットギャングカウンシル」をスタートしました。今秋冬は2シーズン目です。僕が個人的に作る作品は基本ハンドメイドですが、それだと時間もコストもかかってしまうため、「ニットギャングカウンシル」ではニット工場さんにお願いして量産しています。19年秋冬に発売するコレクションはスタンリー・キューブリック監督の『時計じかけのオレンジ』や『シャイニング』の登場人物をモチーフにし、セーターやブルゾン、マフラーなどをラインナップしています。キューブリック監督の作品をモチーフにしたのはメディコム・トイさんのご提案ですが、僕のなかでも特別な作品をオフィシャルで編ませていただけるようになるとは……と感慨無量です。※「ニットギャングカウンシル」の19年秋冬コレクションはZOZOTOWNやセレクトショップにて2019年10月ごろより発売

Q. 堀ノ内さんにとって究極の1点は?

難しい質問ですね。僕の編み物は、人から「いい」と思ってもらって初めて価値が生まれると思っています。自分では「これ最高でしょう?」と思って発表してもさほど反応がなかったり、反対に「どうなんだ?これは?」と思いながらおそるおそる発表したものに大きな反響があったり……どれに価値があるのか、僕にはよくわからないんですよね。今年、天皇が即位され、「めったにない出来事だから」と、普段と変わらないトーンで天皇皇后両陛下をモチーフにしたセーターを編んだら、SNSなどでの反響が自分史上MAXを軽く超える大きさで。こっちはこんなに受けて、オレが本当に好きなものは無風? みたいな感じのことが多いんですよ。だから「究極の1点」が何なのかは、やはりわからないですね。

Q. あなたにとってのGLAMな時間(キラキラ輝く瞬間・幸せな時間)とは?

時間のかかる編み物を始めてから労働時間が今までの倍になってしまい、キラキラタイムというものがあまりないのですが、なるべく自分の刺激やインプットなるような本を読んだり、美術展に足を運ぶようにしています。先日の東京都現代美術館のアートブックフェアは内外の若い作家さんの作品を沢山見ることができてとても楽しい時間でした。今、世田谷区文学館で開催されている原田治展も感動でしたね。圧倒的な質と仕事量を見て「自分ももっと頑張らねば!」と思わされました。あとは、なんといっても映画を観ることです。1800円を払えば大スクリーンで2時間たっぷり楽しませてもらえるなんて、なんと素晴らしい娯楽なんだろうといつも思います(笑)。映画館は私にとって最高の至福タイムかもしれません。時間さえあればもっともっと行きたいです。

【プロフィール】
編み物★堀ノ内/“狂い編みサンダーニット”こと「編み物☆堀ノ内」。グラフィックデザイナーとして働く傍ら、小説家・橋本治先生の編み物作品集&教則本「男の編み物・橋本治の手トリ 足トリ」に衝撃を受け、編み物を習得。2014年より編み物作家として活動開始。ハンドメイドで作品を作りつつ、岡村靖幸のツアーグッズセーターや中村達也ブランド「GAVIAL」とのコラボニット等も手がける。昨年からはメディコム・トイとのニットブランド「Knit Gang Council」もスタート。


Photographer/Masakazu Sugino Writer/Rieko Shibazaki

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