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愛を渇望するまなざしがせつない…『存在のない子供たち』が描く子どもたちの“強さ”と“もろさ”

  • 2019.7.24
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4月に中国で公開されると、いきなり興行収入ランキング1位の『アベンジャーズ/エンドゲーム』(19)に次ぐ、初登場2位というヒットを記録するなど、大きな話題を集めたのが、レバノン映画『存在のない子供たち』(公開中)だ。

【写真を見る】レバノン出身の美貌の才媛、ナディーン・ラバキー監督が本作への想いを語る<写真15点>

物語の主人公はわずか12歳で両親を訴えた少年、ゼイン
[c]2018MoozFilms

中東の貧しい人々や難民問題にスポットを当て、その底辺社会で出生届を出されることもないまま、つらい生活を強いられる子どもたちの過酷な体験と心の成長を描くヒューマンドラマ。昨年の第71回カンヌ国際映画祭では、コンペティション部門審査員賞とエキュメニカル審査員賞をW受賞し、さらに米アカデミー賞とゴールデン・グローブ賞の外国語映画賞へのノミネートも果たした。

「耐えがたい状況に置かれている10億人もの子どもたちがいます」

監督、脚本、出演を務めたのは、本年度のカンヌ国際映画祭“ある視点”部門審査員長にも就任した、レバノン出身の美貌の才媛、ナディーン・ラバキー。おりしも“子どもの権利条約30周年”を迎える今年、初来日した彼女は、本作の制作にいたった理由について「私がリサーチ期間中に出会った何百人という子ども以上に、世界中には同じような耐えがたい状況に置かれている10億人もの子どもたちがいます。感覚が麻痺したままの子どもたちが大人になった時、この世界はどうなるのだろう?と考えざるを得ませんでした」と語る。

【写真を見る】レバノン出身の美貌の才媛、ナディーン・ラバキー監督が本作への想いを語る<写真15点>
KADOKAWA

「彼らの人生の物語や経験をそのまま作品にもたらせてほしかった」

貧困、ネグレクト、虐待、親から子、そしてまたその子どもへと続いていく負の連鎖などは、世界中で実際に起こっている普遍的な問題だ。決して他人事ではすまされない身近なテーマが、多くの人の心を揺さぶり、深い共感を呼び起こす。

ラバキー監督が本作を撮るうえで強く意識したのは、なによりも「リアル」であるということ。フィクションでありながら、物語には3年間ものリサーチ期間中に監督自身が目撃し、経験したことが盛り込まれた。また、弁護士に扮した監督以外、主人公の少年ゼインをはじめ、ほとんどの登場人物は、役柄とよく似た境遇の素人が演じている。

ゼインたちが経験したことを作品に映しだそうとする
[c]2018MoozFilms

デビュー作の『キャラメル』(07)でも、ラバキー自身が扮した主人公以外のほとんどのキャラクターに、プロの役者ではなく、それぞれ別の仕事を持つ素人を起用。相手に寄り添い、リアルな演技を引き出す演出の手腕は、彼女の優れた才能の一つだ。

「本作では特に、彼らの人生の物語や経験をそのまま作品にもたらせてほしかったんです。いわば、彼らのリアリティを、私の作ろうとしているフィクションに寄せていくという作業ですね。彼らにはいわゆる演技をしてほしくなかったので、彼らが緊張しないように、自然な環境の中で撮るようにしました。ロケーション、光、小道具など、すべてが本物。壁の落書きにいたるまで、実際にアパートに住んでいる子どもたちが描いたものです」

難民の女性・ラヒルに拾われ、彼女の子ども・ヨナスと仲良くなるゼイン
[c]2018MoozFilms

「撮影中はゼインのことも自分の息子のように感じて」

ラバキーがスタッフに与えたミッションは、いまの社会のシステムの中で“見えざる者”として扱われている出演者たちに「光を当て、可視化する」こと。大勢の人がごった返す市場やストリートでのロケでは、スタッフそれぞれが目立たないように人混みの中にまぎれるという手法を取った。そうした彼女ならではの撮影方法は、とりわけ子どもたちの自然体かつ観る者の胸を打つ健気な姿、子どもの本質である強さともろさをヴィヴィッドに映し出すことに成功している。

仲良しの妹・サハルの存在がゼインの唯一の支え。しかし、両親はわずか11歳の彼女を結婚させてしまう
[c]2018MoozFilms

「主演のゼインと私の息子は、撮影期間中すごく仲良くなりました。ゼインは息子より何歳も年上なのですが、栄養不足のせいで、外見的にはほぼ同い年に見えたんです。だから撮影中はゼインのことも自分の息子のように感じて、すごく心がザワザワしました。劇中の赤ちゃんを演じたトレジャーも、撮影当時、私が出産したばかりの娘と同じ年齢だったので、まるで娘のように思っていました。不思議なくらい、映画の世界と実生活を鏡で映したような感じでしたね」

出生届を出されていない“存在のない”子どもたちの生きる姿が激しく胸を打つ
[c]2018MoozFilms

大人たちに見放され、どんなに辛い人生を送っていても、一生懸命に生きようとする幼い子どもたちの純粋な欲求。鋭くも不安に揺れ、心の底では愛を渇望する彼らのまなざしが印象的だ。「子どもたちは生まれてくることを自ら選べなかったわけだから、最低限の権利、せめて愛される権利を親に要求できるべきだと思う」というラバキーのせつなる願いと未来への希望が込められたラストに、胸がぐっと熱くなる。(Movie Walker・取材・文/石塚圭子)

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