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【女の履歴書】Vol.9 映画監督兼ファッションブランドPR穐山茉由「仕事と映画作りの両立に大切なのは“バランス感覚”」

  • 2019.7.17
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GLAM_女の履歴書01
穐山茉由・映画監督兼ファッションブランドPR

1982年生まれ。ファッション業界で会社員として働きながら、30代はやりたいことをやろうと思い立ち、映画美学校で映画製作を学ぶ。監督作『ギャルソンヌ-2つの性を持つ女-』が第11回田辺・弁慶映画祭2017入選。長編デビュー作『月極オトコトモダチ』が第31回東京国際映画祭 日本映画スプラッシュ部門 正式出品作品となり話題を集める。

映画制作を本気で学び始めたのは30歳 「結果もちゃんと残したい」と思っていました

Q.ファッション業界のPRを目指したきっかけはどんなものでしたか?

ずっとファッションがやりたくて、学生の頃から服飾を専攻していました。モノ作りがしたくてOEMの会社に入ったのですが、あまりの激務に半年で辞めちゃいました。次、何をしようかと考えていたときに、やりたいことは服を作ることじゃない気がしたんです。ファッションも含めたカルチャーが好きで、雑誌を読むのも好き。それなら雑誌に関われるファッション関連の仕事だなと、たまたま知り合いにPRの仕事をしている人がいたので、話を聞いてみたところ、興味を持つことができました。23~24歳の頃ですね。

Q.どのタイミングで映画を撮ろうと思ったのでしょうか?

映画を観るのは好きでしたが、自分が撮るなんて考えたこともありませんでした。実際に撮ることを意識したのは、20代半ばで観た井口奈己監督の『人のセックスを笑うな』でした。すごく身近で、私がやりたいことが詰まっていると感じました。日本人の女性監督でもこういう作品が撮れると思ったら、刺激を受けちゃって「私もこういう世界を作りたい」と思ってしまいました。ちょっと気になる映画だと思って観たのですが、その世界に引き込まれましたね。

Q.作りたい! と思っても、映画はそう簡単には作れないですよね。穐山さんが次に取った行動は?

PRの仕事をしていたので、映画を作る人は周りにいないし、話を聞ける人もいない。とりあえずいろいろ検索して、初心者向けのワークショップに参加しました。そこでシナリオの書き方も初めて知って。脚本なんて読んだこともなかったし、見よう見まねでした。プレゼンした企画が通り、10人くらいの参加者の中から監督に選ばれて、短編を撮影しました。失恋した男女の物語だったのですが、初めて作品を撮って感じたことは「自分が観ている映画と全然違う」ということでした。と同時に、映画作りは難しいって思いましたね。

Q.一番難しいと感じたのは?

すべてです(笑)演出のことも何もわからずに、ただ撮りたい画、ストーリーを形にしたという感じです。それでも「形になった」という満足感はありました。でも、「もう少しちゃんとやりたい!」と映画作りにより興味を持ち始めてしまいました。

Q.本格的に映画作りに興味を持ち始め、何をしたのでしょう?

すぐには映画作りに向かいませんでした。実は結婚しようと考えていて。相手の方が割と亭主関白系で、結婚したら家庭に入って欲しいタイプでした。映画は作りたいけれど、それを仕事として本気でやろうという気持ちもなく、趣味程度でいいかなと思っていましたから。

ちょうどその頃、新しいブランドの立ち上げ時期でPRの仕事もとても忙しくなりました。忙しい中で仕事の楽しさも感じていて、ふと冷静に考えてみました。「私のやりたいことはなんだろう」って。社会の中での自分のポジション、やりたいことを見つけることの楽しさを捨ててまで、家に入ることが私にできるのだろうか、と。無理だ、できないって思ったら、結婚をやめていました。その反動で、自分のやりたいことは自分で選べるという事がストンと腹に落ちてきて、今一番やりたいことをやろうという勢いのままに映画美学校に入学しました。最初の映画作りから2~3年後、30歳の頃でした。

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Q.30歳で映画製作を学び始める。ワクワクしていましたか?

それまで映画作りはある程度の枠の中、趣味程度にやっていこうくらいに思っていたので、どこか遠慮していた感がありました。でも、やりたいことはこれだと気づいたら、すごくスッキリしましたね。とはいえ、30歳から学校に行って映画制作を学ぶわけですから悠長にしてられないという気持ちもありました。結果もちゃんと残したいと思っていたので、集中力もすごかったです(笑)

Q.映画に力を注ぐ分、PRの仕事をライトにしようという考えはなかったのですか?

そのときはなかったですね。映画作りというと大ごとな気がしますが、学校は夜間でしたし、仕事帰りに英会話やジムに通うのと同じ時間の使い方だと思います。仕事以外の時間を使ってやりたいことをやる。やりたいことではあるけれど、映画作りを仕事にしようという考えはなかったので。映画作りを学びたいという気持ちで2〜3年通いました。基本的には週に3~4日通っていたのですが、準備などが入ってくるとほぼ毎日ということもありました。

Q.かなり忙しそうですね。

すごく忙しかったですが、自分の意思でやっていることなので、苦ではなかったです。創作の苦しみはありましたが、やりたい事が目の前にあるからやれない方が辛い。どちらかに絞るという考えもなかったです。映画作りと仕事は違うものでもあり、つながっているもののような気がしていました。経済的な安心感はやっぱり必要ですから。それに、PRの仕事をやっていることで、学生をしている同期とは違う視点や経験を作品に取り入れることができる。そういう部分は両立の“うまみ”だと思っています。

Q.両立で大変だったことはなさそうですね。

いえいえ、ありますよ。やっぱり時間的なことは調整が大変です。ですが、会社的にもブランド的にも自分のライフスタイルを充実させることが大事だという考えがあります。働くことと私生活のバランスを取りたいという理想はあるけれど、実現ってなかなか難しいですよね。でも、その現状を変えたいと思っている人は多い。私は映画のために、人によっては自分の子どものために、フレックス制度を使ったり、お互いにフォローし合う良い環境がありますね。その点ではすごく恵まれていると思います。

Q.では映画を作っていることはオープンにしていたのでしょうか?

「学校に行きます!」と早めに退社することもあったので、しっかりバレていました。オープンにしていたことで、楽しく映画制作に没頭できた気もしています。昨年の東京国際映画祭への参加を、思ったよりも周りがよろこんでくれたり、応援してくれたのでとても励みになりました。

脚本制作にはiPadを使用。アイデアが浮かんだら手書きでノートに記入する。台本は現場でガラッと変更することもあるそう。PRそして映画監督としての名刺を2種持ち歩く名刺ケースは欠かせないアイテム。愛用のリングは大きめの“石”付きが多いという。その理由は「テンションが上がるから(穐山)」
Q.作品について伺います。『月極オトコトモダチ』のタイトルを思いついたきっかけは?

「レンタル友達」の話をやりたかったんです。SNSでたくさん友達がいるように見せるために友達を雇っている人がいるというのをネットニュースで見かけて、面白いと思いました。そうまでして友達って必要なのか、そもそもどこからが友達なんだろうといろいろ不思議に思い始めて、友達をテーマに何か撮りたいと。レンタルという言葉を借りる、契約という言葉に置き換える中で、月極にたどり着きました。身近にあるけど、あまり使わない言葉だなと。ただ、月極をタイトルに入れてしまったことで、その後のストーリー作りに縛りができてしまって。自分で自分の首を絞めた感がありました(笑)。

Q映画制作においてのこだわりは?

今回は初めての長編ということもあり、自分の実感に基づいたシナリオにしようと思いました。最後は割とシリアスな展開になるけれど“人間関係”の話にしたいなと。人間関係は常に自分が描きたい、やりたいことのひとつです。それをしんみりしすぎず、ポップな感じで作りたい。その辺のバランス感覚が自分らしさでもあり、守りたいなと思っています。

Q.ファッションの仕事をしている穐山さんならではの衣装の演出はありましたか?

衣装はキャラクターに寄り添う形で選びました。女性キャラクターの衣装はほぼ自分でスタイリングしています。色の表現にはこだわりましたね。

Q.赤が印象的でしたね。

「レンタル友達」業の(橋本淳さん演じる)柳瀬が赤を与える人という設定なんです。最初に主人公の(徳永えりさん演じる)那沙にチェリーをあげるところから始まって、リンゴの皮、スタンプ、マニキュアなど、高揚していく感情の積み重ねが無意識で伝わるといいなと思いを込めました。

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Q.映画を撮る前と後では観る映画のタイプは変わりましたか?

映画を撮る前は、王道ですがフェデリコ・フェリーニの『道』が大好きでした。今ももちろん好きですけど、なぜかイタリア語の響きが好きでよく観ていました。もっと遡ると、学生の頃はスタンリー・キューブリックの『シャイニング』とか、昔の作品を観るのがすごく好きです。映画学校に行くようになってからは、日本人の監督作品も観るようになりました。増村保造監督が好きだなと思ったら、フェリーニに学んでいたことを後から知って、なんか繋がっている気がしました。

Q.好きな世界観はありますか?

女性が生き生きしている作品、嘘じゃない女性が映っている作品が好きです。エリック・ロメール監督の『緑の光線』や『友だちの恋人』も映画学校に行き始めてから観るようになりました。出てくる女の子が本当にリアルで、ちゃんと生きている感じがいいなって思います。

Q.穐山さんにとって“オトコトモダチ”とは?

男女の友情ってよくわからない、だからこの作品を作ってみました。私にも男友達がいるのですが、タイプじゃないから一緒に居られるという関係ではなく、趣味も合うし、恋愛なのかなと感情について考えたこともあります。でもタイミングを逃しまくった結果付き合っていない関係。「恋愛感情を飛び越えろ。」というコピーに込めた思い出もありますね。欲望がなくなって感情を飛び越えたときに固い絆になる気がする。男女の友情ってすごく繊細なバランスで成り立つものだと思います。

Q.今後撮りたいテーマはありますか?

結婚の話を描きたいです。エドワード・ヤン監督の『ヤンヤン 夏の想い出』のような結婚式が出てくる映画が好きなので。大人向けのラブコメとかいいなと思います。結婚式は自分ができなかったことなので、映画にすることで消化したい気がしています(笑)。

Q.今後の目標を教えてください。

映画を撮りながら、会社員もやる。バランスを探れるうちは探っていきたいと思います。やれるなら映画監督にシフトしてもいいという気持ちはありますが、そうはいっても、映画だけでは食べていけないのが現実です。この作品も自主制作で自分で出資していますから。映画ってお金がかかるんですよね~。

【穐山茉由さんの履歴書】

22歳 OEMの会社に就職するも半年で退職
23歳 ファッションブランド・kate spade new yorkのPRとして働き始める
27歳 ワークショップで初めての短編映画を製作
30歳 映画美学校に通い始める
33歳 映画美学校を修了する
35歳 長編デビュー作『月極オトコトモダチ』を製作


『月極オトコトモダチ』
全国順次公開中
公式サイト

(C)2019「月極オトコトモダチ」製作委員会

Photographer/Masakazu Sugino Writer/Shinobu Tanaka

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