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KAWS HOLIDAYが日本に上陸! 彼が駆け抜ける、現代アートの“ストリート”とは。

  • 2019.7.17
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KAWS HOLIDAYが日本に上陸! 彼が駆け抜ける、現代アートの“ストリート”とは。
2019.07.16 17:00
今、現代美術界で最も注目されるアーティストのひとり、KAWS(カウズ)。この夏、日本の富士山を背景に巨大なパブリックアートを設置する彼が、拠点とするニューヨークのスタジオでプロジェクトについて本誌に語ってくれた。


ブルックリンのウィリアムズバーグ地区にあるスタジオ、片山正通がデザインしたという広々とした空間には現在制作中の作品がずらりと並んでいる。カウズはここに「毎日9時には来て、6時まで仕事している」という。「まるで日本のサラリーマンみたいに真面目にね」というとニヤッと笑った。


実際、彼と日本の繋がりは深い。ストリートでグラフィティを描いていたスケーターボーイが日本を初めて訪れたのは90年代半ばのこと。「96年だったと思います。それまでは特に日本のカルチャーにコンタクトがあったわけではないのだけど、すぐにいろんな友達ができて」。藤原ヒロシNIGO®アンダーカバー(UNDERCOVER)の高橋盾と出会ったのもその頃だ。そして99年には日本のアパレルブランド、バウンティハンター(HUNTER)からビニール製のフィギュアをリリースした。これが彼の出世作「コンパニオン」の誕生である。


そして2019年。この20年のうちにコンパニオンはもとより、カウズ自身も飛躍的に成長した。この夏には過去最大のスケールとなるコンパニオンが日本の富士山に上陸する。サイズについては「特に大きなものを作りたかったという意図はなくて、作品を展示する空間に合わせているだけ。空気を抜いたらしぼんじゃうしね(笑)」と気負いはなさそうだが。


これは韓国、台湾、そして香港に続いて企画されるパブリックアートのプロジェクト「KAWS:HOLIDAY」の一環で、今回やって来るコンパニオンは片肘をついてゆったりと寝転んでいる。そのコンセプトやメッセージとは? 「キャンプ場の中に作品が設置されるから、みんなコンパニオンの周りでテントを張ってキャンプができるんだ。ピースフルで澄んだ空気の環境で、これまでとは全く違った見え方になると思う。この『ホリデー』のシリーズは、毎回リラクゼーションをテーマとしているんだ。今はいろんな意味で緊張感の高い時代だから、コンパニオンと一緒にハングアウトすることで、みんなリラックスしてほしいな」


“仲間”という意味を持つコンパニオンの名の通り、この作品も、現在は友達や家族も増え、子どもたちの姿も見かけるようになった。最初は小さなおもちゃのような存在だったが、今ではブロンズや木材といった多様な素材とサイズで作られ、“アート”としての価値も高まっている。


「こんなに長く続けるとは思ってなかったんだけど、次第に人々に共感してもらえるキャラクターになり始めた。最初は個体としての彫刻だったのが、だんだん“仲間”が増えるうちにコンパニオン同士でのコミュニケーションや交流も芽生えだしたんだ。そして、そのスケール感も大きくなっていった」。カウズ自身、家族ができ(妻はアーティストのジュリア・チャンでふたりの娘がいる)、アーティストとしてみるみる成長していく過程は本人の生き様にも重なってくる。

原点は先駆者たちのグラフィティ。


スケボーカルチャーが隆盛した90年代、ジャージーシティから大都会ニューヨークにやって来たひとりのスケーターは、アーティストとしての今の成功を夢見ていたのだろうか?


「当時の自分はリアルにアーティストになりたいというより、まずは独立して世界に飛び出したい、自分が描いたグラフィティをより多くの人に見てもらいたい、それだけだったね。当時は自分たちがストリート系だとは思ってなかった。ほかの奴らもそうだと思うよ。時間がある程度経って、ほかの誰かが僕らをまとめてそう称しただけのこと」


ストリートを出自とするアーティストとしては80年代に活動したジャン=ミシェル・バスキアらが美術界では有名だが、カウズは「自分が初めてアートとして興味を持ったのは、70〜80年代に活躍したグラフィティの先駆者たち。Dondi White(ドンディ・ホワイト。ヴァージル・アブローが手がけるオフ・ホワイトの2019年春夏メンズコレクションのインスピレーションでもある)やZephyr(ゼファー)、Futura 2000(フューチュラ2000。同じくヴァージルが手がける2019年秋冬ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)のショーではライブペイントを披露した)とかね。


特にフューチュラは90年代に日本で会ったことがあるけれど、初期の頃からアンダーカバー(UNDERCOVER)に作品を提供したり、Mo' Wax(音楽レーベル)ともコラボレーションしていたから影響を受けたね。あとはキース・ヘリングがニューヨークのソーホーでやっていたPOP SHOPとかにも関心があった」と振り返る。


カウズの作品もまたコラボレーションすることで、大きな反響を得てきた。そもそも、初めに彼の名前が知られるようになったのは電話ボックスやバス停の作品だ。そういった公共の場に設置されたカルバン クライン(CALVIN KLEIN)DKNY(DKNY)などの広告にカウズがつくったキャラクターを忍び込ませる、というゲリラ的な“コラボ”である。


ブースの広告を管理する会社に勤めることで、ガラスケースの南京錠をこっそり取り替えておく、という確信犯的な手法で制作された。

コラボレーションで増やす “仲間”たち。


その後はファレル・ウィリアムスカニエ・ウェストらヒップホップ系のミュージシャンたち、インテリアプロダクトデザイナーのカンパーナ兄弟などそれぞれの業界のトップランナーたちとも繋がり、多彩なコラボレーションを行ってきた。ファッションの分野では最近、キム・ジョーンズが手がけるディオール(DIOR)の2019年春夏メンズコレクションに作品を提供している。


「キムがまだルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)をやっていたときから、何かやりたいね、という話をしていた。コラボレーションは多くの場合、自然発生的に始まることが多いけど、一緒にものづくりをすることで、ほかの人たちのやり方や会社の内部を知ることができて面白い」と話す。


この春夏はユニクロでもセサミストリートのキャラクターを使ったトリプルコラボを発表して話題になったが「自分の作品はいろんなオーディエンスに見てもらいたいと思っている。だからあえてディオールのようなハイブランドのコレクションを発表するのとほぼ同時期に、マスマーケットのユニクロからTシャツを出した。


以前もコム デ ギャルソンと同じ週にサムスンとの製品を発表したこともある。ペインティングなどオリジナルのアート作品は多くを届けるのがなかなか難しいけど、なるべく沢山の人に作品を見てもらいたい、ということはいつも考えている」


というのも、カウズのアート作品は、ここ数年価格が急上昇しているのだ。今年4月には、香港のサザビーズでNIGO®が所有していた「THE KAWS ALBUM(2005)」がオークションにかけられ、予想価格の約15倍、14.7ミリオンドル(約16億4700万円)で落札された。これは彼の作品としては過去最高額である。


これについて彼は「オークションのセール結果によって作品の本質が変わることはない。作品がこのスタジオを出た瞬間から、それはほかの人たちのビジネスになっていく。値段が高いから、そのアーティストが素晴らしいというわけでもないしね」と冷静だ。


そもそもはストリートの落書きと見なされたグラフィティは違法行為でもあり、アートなのか? という議論も付いて回るが、カウズの前ではそんな質問はもはや野暮にも思えるほど。彼の作品が美術史に残るアートとして価値づけられ、アート界での成功者となった今でも、彼はこう語る。「作品のスケールや見る人の数は変わったとしても、自分は、今興味があることにこだわって、作品をつくるだけ。昔、グラフィティを描いていた頃の気持ちとそんなに変わりはないよ」


そして彼は明日もまた、朝9時にはスタジオに来て制作を続ける。

世界が注目するアートイベントが、日本で開催!


アートファンを夢中にさせたこのイベントが、2019年7月18日〜24日の期間に遂に日本に上陸! ポストカードのイラストにもあるリラックスしたポーズの巨大アートワーク「COMPANION(コンパニオン)」が、日本のシンボルでもある富士山を一望できる静岡県富士宮市麓にあるキャンプ場「ふもとっぱら」に出現する。


全長40mとなる「COMPANION(コンパニオン)」はKAWS史上最も大きい作品。アートを眺めながらキャンプを楽しめるという新しいアウトドア体験ができる催しとしても話題沸騰中だ。


詳細は、http://kawsholidayjp.dingdongtakuhaibin.com/jpまで。

KAWS(カウズ)


1974年ニュージャージー州生まれ。90年代のスケートボード、グラフィティカルチャーの寵児であり、現在は現代美術家としても成功。ニューヨークのSVA(スクール・オブ・ヴィジュアルアーツ)ではイラストレーションを専攻し、卒業後はディズニー映画などのアニメーターとしても活動した。本名はブライアン・ドネリー。

Photos: Dean Kaufman Interview & Text: Akiko Ichikawa Editor: Gen Arai

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