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拡がる「#YouKnowMe」──中絶体験を語りはじめた女性たち。

  • 2019.7.12
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拡がる「#YouKnowMe」──中絶体験を語りはじめた女性たち。
2019.07.11 20:00
今年5月、アメリカ・アラバマ州に続いてミズーリ州でも中絶禁止法が可決されたことを受け、この動きに反対する世界中の女性たちが「#YouKnowMe」というハッシュタグとともに自身の中絶体験を語りはじめた。ここに登場する5人の体験者たちもまた、変化を信じて発信することを選んだ女性たちだ。


今年5月(1973年に米国で初めて中絶が合法化されてから46年後)にアラバマ州とミズーリ州で中絶禁止法が成立すると、国際的な紛糾へと発展。ほぼすべてのケースで中絶を禁止するこの法律は、アメリカ人女優ビジー・フィリップスがスタートした「#YouKnowMe」キャンペーンに共感した数千人もの女性たちが、ソーシャルメディアで自身の中絶体験をシェアする事態につながった。フィリップスは深夜番組で、こう語った。


「この法案を可決した人々の中には、『中絶した女性は1人も知らない』と思っている方もいるかもしれないけれど、実際は、4人に1人の女性が45歳までに中絶を経験している。そしていまや彼らは、(中絶した経験のある)私のことも知っているわ」


フィリップスが強調するように、年齢や居住地、社会経済的な文脈に関わりなく、これは私たちすべてに関わる問題だ。ここで重大なのは、一部の政治勢力が女性の身体や生殖権をコントロールしようとしていること。そして、女性の基本的な選択権が攻撃にさらされているということだ。

中絶の世界的現状。


中絶をめぐる状況は、国によって異なる。日本のようにある条件下での中絶を認めている国の中でも、支援体制や社会受容、医療行為の安全性が確保されているところもあれば、中絶は不名誉なことで実行には危険が伴うという国もある。エジプトやイラク、フィリピンなど26カ国では、中絶はいまだにあらゆるケースで違法だし、さらにメキシコやブラジル、インドネシアなど39の国では、女性の生命が危険にさらされていない限りは違法としている。イタリアや南アフリカでは中絶は合法だが、その利用は制限され、医師は処置を「良心に従って拒否」できる。一方、スペインなど、国の極右政党が中絶の制限を要求している国もある。


進展が見られる国もある。昨年、アイルランドでは中絶禁止が国民投票で覆され、韓国では今年4月、中絶禁止法に違憲判決が出た。アルゼンチンの活動家たちは先月、中絶を合法化する新法案を議会に提出したばかりだ。「#nowforNI(今度は北アイルランドの番)」キャンペーンのおかげで、北アイルランドでも中絶を合法化する機運が高まっている。


こうした動きを推進しているのは、自らの中絶体験を発信する女性たちの存在だ。非常にプライベートな体験を世界と共有することで、彼女たちは、選択できる権利がどれほど重要かを伝えているのだ。私たち『VOGUE』は、世界各地に住む5人の女性に取材する機会を得た。彼女たちの声に耳を傾けてみよう。

カンボジア、ジョアンナ(29歳)


ジョアンナが暮らすカンボジアでは、妊娠12週目までの中絶は合法とされている。彼女が中絶を行ったのは28歳のとき。すでに幼い2児の母であったジョアンナは、経済的な事情もあり、3人目を出産するには時期尚早と判断した。夫や母も彼女の考えを支持してくれたという。


彼女が処置を受けたのは、自宅からバイクで5分ほどの距離にある病院だった。


「数年前に町で配られたチラシにこの病院が掲載されていたので知っていましたが、そうでなければ、中絶できる病院を探し回らなければいけなかったと思います。緊張しましたが、煩雑な手続きもなく、安全に処置を受けることができました。堕胎と避妊インプラントの装着で、20万リエル(約5400円)かかりました」


カンボジアでは、現在のところ中絶についての活発な議論はないが、ジョアンナは、自分のストーリーを伝えることの大切さを実感している。


「同じ状況にある女性の支えになると思うのです。自分には選択肢があり、その選択肢は正しいものだと分かってもらえるでしょう」

インド、アラディヤ(24歳)


アラディヤは22歳のときに中絶した。彼女が暮らすインドでは、妊娠20週目までの中絶は合法とされている。妊娠が分かったとき、彼女とその夫にはすでに生後10カ月の赤ちゃんがおり、家族と相談した結果、赤ちゃんがもう少し大きくなってから2人目を生むのがベストと判断、中絶を決断したのだという。


彼女が内服薬による中絶の処置を受けたのは、サービスや費用の面で評判の高かった『Family Planning Association of India(インド家族計画協会)』の病院だ。費用は1000ルピー(約1600円)ほどだった。


「多少の不快感と痛みがあり、出血もありましたが、順調でした。幸運なことに、私の場合は家族の理解もあったので、後ろ指を指されるようなことはありませんでした。中には、『あなたは妊娠できて幸運だった。10年頑張っても子どもができない人がいる』とか、『妊娠を続けたくないなら離婚すべき』などと言ってくる人もいますが、インドで中絶が認められているのはいいことだと思いました。妊娠の継続を望むかどうかにかかわらず、女性に選択肢があるということですから」

ボリビア、アナ(45歳)


「妊娠したとき、私はまだ19歳の大学生でした。ボーイフレンドと避妊具なしでセックスしたのですが、学生の私には赤ちゃんを迎える準備がまだできていなかったので、とても怖くなったのを覚えています。私にはライフプランもあったので、中絶を決めました」


しかし、アナの母国ボリビアでは、レイプや近親相姦、女性の命が危険にさらされる可能性が高い場合を除いては、中絶は違法だ。そこで彼女はいとこになりすまし、医療施設に相談の電話をかけた。


「電話に出た職員に、『中絶を望むなんて普通じゃない。絶対にすべきではない』と諌められました。何か方法を見つけなければと、私は、中絶経験のある女性の友人と知り合いだった(本当の)いとこに頼み込み、紹介してもらいました。これは、他の誰にも知られてはいけない、女性たちのあいだの秘密なんだと理解しました」


こうしてアナは、ボーイフレンドとともに病院を訪れた。そこは清潔とは言い難い場所で、処置に関してとくに詳しく説明されるわけでもなく、彼女は不安と恐怖に慄いた。


「あとから、処置の間に死ぬ可能性もあったことが分かりました。普通の麻酔が使われましたが、途中で歯の詰め物がとれて窒息しそうになりました。処置後の2日間は大量の出血があり、とても不安でしたが、もうあの病院には戻りたくありませんでした。悪いことをしたのだから、痛みや苦しみは当然だと自分に言い聞かせました」


中絶が合法ではない宗教色の強い国に住んでいることで、罪悪感が増幅したと彼女は考えている。「シングルマザーの娘はシングルマザーになる」というようなことがまことしやかに言われる国で、ひとり親であった母親に打ち明けることもできなかった。この経験を通じて彼女が心に負った負担は、時間が経っても軽くはならなかった。


「あれから26年が経ちますが、この国の(中絶に関する)状況は変わっていません。今でも、私と同じ不安を味わっているティーンエイジャーがいます。私の話をすることで、私の体験が良い結果につながることを願ってやみません」

ベルギー、ローラ(37歳)


ベルギーに住むイタリア人のローラは、妊娠20週目のときに受けた定期検査で、胎児に3カ所の心奇形があることを知った。妊娠12週目までの中絶が認められているベルギーでは中絶できないため、彼女は母国イタリアに戻ることにした(イタリアでは、中絶が認められる妊娠90日を超えた後でも、女性の生命が危険にさらされたり、胎児に深刻な奇形が見られる場合は認められる)。しかし、イタリアでも医師が良心に従って中絶処置を拒否することができ、実際にそういったケースは少なくない。ローラの場合は、イタリアに住む義理の母がたまたま婦人科医だったことも、中絶に安心して踏み切れた理由だ。


「3週間後に結婚式を控えた、人生初の妊娠でした。心奇形が見つかったとき、医師から非常に深刻な状態だと聞かされました。仮に無事誕生できたとしても、すぐに心臓手術が必要となり、その後のさらなる手術で脳にダメージを負う可能性があると言われたのです」


ローラと同じくらい難しい状況に直面しながら生む決断をする人々がいることは、よくわかっていた。けれど彼女は、自分の子どもだからこそできなかったという。


「中絶に関する会話においてはつい法律ばかりに注目しがちですが、サポート体制の重要性も、もっと話し合われるべきです。私はその意味で、とても恵まれていました。心理療法士を含めた医師のチーム全員が一貫してそばにいてくれたし、あらゆる選択肢を説明してくれました」


しかし、だからといってすべてが快適だったわけではない。ローラは中絶を決めたとき、「子どもを持つことで女性として精神的・身体的に傷付くために、中絶する」という趣旨の書類にサインしなければならなかった。たとえ、ほかの然るべき理由があったとしてもだ。


「私には別の理由があったし、すでに苦しんだり、痛みを感じたりしているときに署名しなければいけないのは、とても辛い経験でした。世界のすべての女性が中絶する権利を認められるべきです。中絶は、それを実行するか否かにかかわらず、人生を変える大きな体験。私たちのように後悔がなくても、一生忘れられない体験になるのは確かです。仮に中絶しなかったとしたら、私はきっと、自分の子どもの一生のあいだ、それが正しい選択だったのかどうかを問い続けていたと思います」

北アイルランド、ナオミ・コナー(46歳)


ナオミ・コナー(46歳)は、40歳のときに中絶した。北アイルランドでは女性の生命が危険にさらされたり、精神・身体の健康に永久的もしくは深刻なリスクがあると判断された場合を除いて、中絶は違法だ。


「北アイルランドの法律には厳しい制限がありますから、私は中絶手術を受けるためにイギリスのマンチェスターまで行かなくてはなりませんでした。北アイルランドに住んでいながら、自分が実際に経験するまで、中絶がいかに制限されているか知りませんでした」


こう語る彼女は、情報収集のために、まずマンチェスターの「Family Planning Association(家族計画協会)」を訪れた。そこで抗議運動をしていた中絶反対派の人々は、彼女にこう語りかけてきたという。


「彼らは『あなたくらいの年齢の女性が中絶すると、乳がんになることは知っているでしょう!?』と言ってきました。これは抗議を超えた感情的操作であり、感情的虐待だと感じました」


しかしナオミの決意は固かった。その日のうちに帰宅できる中絶手術を受けた彼女は、病院を出て空港へ向かう途中、激しい腹痛に襲われた。中絶に限らず、術後すぐに移動すれば誰でもそうなる可能性は高いが、ポイントは、彼女が「移動せざるをえなかった」という点だ。


「いつも思い出すんです。病院で、何台か向こうのベッドにいたもう1人の女性を。彼女と私は同じ日に手術を受け、同じ便で帰国の途につきました。彼女も私も、時折お互いに視線を向けながらも、自分たちが中絶手術のためにここにいるということを認めたくなかった。どこか汚名を着せられているような後ろめたさを感じていたんです」


当時、彼女には協力的なパートナーがいたし、十分な収入もあり、障壁になりそうなものはほとんどなかった。中絶にかかった費用は、手術と旅費を合わせて1000ポンド(約13.5万円)ほど。現在では、イギリスに行けば無料で処置が受けられるが、当然、移動費は自己負担だ。


「(中絶法が変わることに)期待せずにはいられません。ここ2年間で、人々が気付きはじめているのを感じます。『Alliance for Choice』といった中絶擁護団体が女性が中絶体験を語るための場所を提供するなどして女性たちは結束しあっていますし、状況は、ずいぶん改善されつつあると実感しています」

Text: Emily Chan

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