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原田マハが語る、大野和士とバルセロナ交響楽団の魅力。

  • 2019.7.5
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来る7月24日、音楽監督を務めるバルセロナ交響楽団とともに来日コンサートを行う世界的な指揮者・大野和士。画家のピカソやチェリストのカザルスなどスペインの芸術家に造詣が深く、バルセロナの文化に親しみを持つ作家の原田マハさんは、今年3月に現地バルセロナで一足早くそのコンサートを聴いた。オフタイムには大野のガイドで街のカフェにも案内され、フレンドリーな音楽家の素顔に感動したという原田さんに、マエストロとオーケストラの魅力を聞いた。

バルセロナでの公演より。

――原田さんはチェリストを主人公にした小説『永遠をさがしに』で指揮者を登場させています。指揮者という存在にはもともと興味があったのでしょうか?

もともとクラシックは好きで、自分なりに気に入っている音楽はありましたが、今回、大野和士さんにお会いしていろいろうかがって、あらためて音楽家の物語をまたいつか書きたい気持ちになりました。指揮者って、音に敏感で神経質なのだろうかと思っていたら、大野さんはとてもおおらかで、本番30分前でもいつもと変わらずリラックスされているんです。コンサートホールのカフェに現れて楽団員と気さくに話したり。音楽というのは人の心の琴線に触れる芸術だから、指揮者自身がそれを伝える優れたメディアなのだと思いました。

――バルセロナではベートーヴェンの『交響曲第9番』を聴きました。いかがでしたか?

オーケストラもお客さんも、国際人である大野さんを指揮者として迎えていることを誇らしく思っているのが、演奏中の集中した雰囲気や盛大な拍手からもうかがえました。バルセロナ市のコンサートホール「ラウディトリ(L'Auditori)」は、モダン建築で音響もすばらしく、客席は超満員です。第九といえば日本では年末によく演奏される音楽ですが、季節に関係なく魂が震える楽曲だと思いました。指揮台に立ったとき、先ほどまでくつろいでいた大野さんの表情がぱっと変わるんです。後からお聞きしたら『演奏中は箱になる』と仰ってました。ベートーヴェンの魂が降りてくるのを受け止め、共鳴させるために『指揮者はただの箱』だと仰るんです。その言葉にとても共感できました。それが閉じた箱であったり、穴が開いていて中身が漏れている箱であったら、オーケストラには伝わらない。極めて清澄でピュアな「無我」の感覚だと思いました。

バルセロナでの公演より。

――バルセロナのオーケストラを聴いて、彼らの特徴を感じることはありましたか?

バルセロナ交響楽団はチェリストのパブロ・カザルスが作った室内管弦楽団が母体となっているオーケストラだと聞きました。私も小説を書くためにカザルスについては多くを調べましたが、ピカソと同様、故郷を去ってから終(つい)に戻ることのなかった芸術家です。彼らが帰ることのできなかった土地に、2015年に大野さんが降り立ったということが、彼らの代わりに戻ってきたかのように思えたのです。ピカソもカザルスも「パブロ」という名前で、カタルーニャ語では「パウ」。“平和な人”という意味ですが、大野さんの和士というお名前も、平和の「和」、人の「士」ですから、彼こそは3人目の「パウ」だと思ったのです。そのことをご本人に伝えたら、とても喜んでくださいましたね。

――なるほど!スペインに詳しい原田さんから見て、バルセロナという街の特色はどのようなものでしょう。

マドリードとも違う、独自の文化と民族性を持った街です。カタルーニャ人は独立精神・自治精神が旺盛で、自分たちで街を発展させていこうという気概があるのですね。そういう街だからガウディのサグラダ・ファミリアのような建築があるのだと思います。大野さんが国際人としてバルセロナで活躍されていることは、この街と引き合う特別な引力があったのだと思います。

原田さん撮影による、「”第九”をリハーサル中のマエストロ大野」。courtesy of Maha Harada

こちらも原田さんが撮影したサグラダ・ファミリアの内部。ここで2015年、大野さんのバルセロナ交響楽団就任記念演奏会が行われた。courtesy of Maha Harada

バルセロナの観衆を魅了した「第九」が日本でも!

国際的名指揮者・大野和士が24年ぶりの来日となるバルセロナ交響楽団を率いて贈る『大野和士 バルセロナ交響楽団 来日公演』(7/24、Bunkamuraオーチャードホール)では、ベートーヴェンの『交響曲第9番』を国内外の精鋭ソリストを迎えて上演。三味線の新境地を開いた吉田兄弟もゲスト出演し、5月にバルセロナで世界初演された新曲を日本で初披露する。

Bunkamuraのオープニング企画、Bunkamuraオペラ劇場『魔笛(まほうのふえ)』にも関わり、その後キャリアの重要なポイントでオーチャードホールに登場してきた大野。クラシック音楽によるカウントダウン・コンサートとしておなじみの『東急ジルベスターコンサート』には第1回から3回まで連続出演し、“曲の終わりと同時に新年を迎える”というアイデアを考案したのも大野だ。強い絆で結ばれたオーチャードホールでの凱旋公演を、お聴き逃しなく!

大野和士|Kazushi Ono東京生まれ。東京藝術大学卒。ピアノ、作曲を安藤久義氏、指揮を遠藤雅古氏に師事。バイエルン州立歌劇場にてサヴァリッシュ、パタネー両氏に師事。1987年イタリアの「トスカニーニ国際指揮者コンクール」優勝。以後、世界各地でオペラ公演ならびにシンフォニーコンサートの客演で聴衆を魅了し続けている。2015年から東京都交響楽団ならびにバルセロナ交響楽団音楽監督。

原田マハ|Maha Harada

東京都生まれ。関西学院大学卒(その後の1996年に早稲田大学卒)。美術館勤務を経て、新規開業美術館のコンサルティングやコレクションの売買、展覧会のプロデュースを行う。1994年に学芸員の資格を取得しキュレーターとしても活動。2005年から小説を書き始め、翌年に『カフーを待ちわびて』で作家デビュー。芸術への深い理解をベースに執筆活動を行う。代表作に『楽園のカンヴァス』『ジヴェルニーの食卓』『暗幕のゲルニカ』『リーチ先生』など。

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