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Happy Birthday エディ・スリマン! エディが見初めた気鋭アーティストたち。

  • 2019.7.5
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Happy Birthday エディ・スリマン! エディが見初めた気鋭アーティストたち。
2019.07.05 08:00
7月5日に51歳の誕生日を迎えたエディ・スリマン。写真家としても活動する彼は無類のアートファンとしても知られ、現在クリエイティブ・ディレクターを務めるセリーヌ(CELINE)の旗艦店では、気鋭アーティストの作品を展示している。中でもエディのお気に入りといわれる3人とは……?

エディ・スリマンが昨年、74年の歴史を持つセリーヌ(CELINE)のクリエイティブ・デザイナーに就任したとき、彼はあるインタビューでこう語っている。


セリーヌ(CELINE)の『新しい章』が始まると考えてもらいたい。このブランドが今まで築いてきたものとは異なる僕自身のストーリー、僕自身の文化、僕自身の表現で、セリーヌに参加する。それにはあらゆる困難がつきまとうだろう。けれど僕は、自分のスタンスはあえて決めずに、僕自身であることが重要だと思っている」


忘れてならないのは、エディはファッションデザイナーであると同時にフォトグラファーでもあるということだ。彼はベルリンのクンスト=ヴェルケ現代美術センターでレジデンスプログラムに参加したことがあり、アルミン・レッシュ・ギャラリーで展示会を開催したこともある。アルミン・レッシュは、リチャード・プリンスとジェフ・クーンズという、存命のアーティストの中で世界的にもっとも高額で取引されている2人や、ファッション界でも人気の肖像画家、クロエ・ワイズなどが所属する権威あるギャラリーだ。だから、エディのセリーヌ参加が発表されたとき、このブランドに対する彼のビジョンにおいてアートが中心的な役割を果たしていくのは容易に想像できた。


そして今年2月、セリーヌは、世界中の店舗に導入する新たなコンセプトに基づいて、イギリス人アーティストのジェームズ・バームフォースにニューヨーク・マディソンアベニュー旗艦店に設置するアート作品の制作を依頼したと発表。その後も、東京にはエレーヌ・キャメロン・ウィアー、パリにはオスカー・トゥアゾンの作品が設置された。エディが自身のヴィジョン実現のために指名した彼ら3人のアーティストに、制作やプライベート、そしてモチベーションの源について話を聞いた。

エレーヌ・キャメロン・ウィアー(Elaine Cameron-Weir)

──活動拠点にニューヨークを選んだ理由は?


アルバータ芸術デザイン大学(ACAD)で1年間学んだあと、バスで72時間かけてオンタリオ州北部を訪れ、夏季植樹という林業の仕事をしたの。19歳のときよ。テントで寝起きして、最低ノルマの2000本の樹を植えたわ。給料は、植樹した樹木1本につきいくら、という設定だったから、植えれば植えるほどお金がもらえた。奇妙な植樹オリンピックみたいだったわ(笑)。その夏の終わりに、私はふと思い立ってニューヨーク行きの電車に飛び乗った。私にとっての初ニューヨークだったんだけど、その時、絶対にニューヨークに住む! と心に決めたの。

──都会で活動するメリットは?


学部課程を修了したあと、23歳でニューヨークへ移り、ニューヨーク大学でスタジオアートの美術学修士(MFA)課程を学んだの。大都市で暮らすのはニューヨークが初めてだったんだけど、特に圧倒されることはなかった。むしろ、凄まじいエネルギーとペースが速さに感心したわ。私は小さな町に生まれ育ったから、もっといろいろなことが起きて、多くの人がいて、多様性があり、私の作品を観てくれる人がいる場所で活動することが大切だと思ったの。

──セリーヌ表参道店の作品について教えてください。


依頼時にまだショップは完成されていなかったけれど、作品に必要な大きさ(9メートル)と、作品がらせん階段のそばに設置されることは決まっていたの。「Snake X」は、私が2016年に制作をはじめた彫刻シリーズの新作。金網上にエナメル加工した銅製のウロコを配置して、蛇の皮のように見せている。私はこれまで、周期的な性質を帯びたものに関心があって、そのシンボルとしての蛇について考察してきた。アダムとイブのような聖書に出てくる寓話や、古代の図像に出てくるウロボロス(自分の尾をかんで環となったヘビの図像。永劫回帰を意味する)など、ヘビはいろいろな場面に登場しているでしょう?

──創作活動のモチベーションはどこからくるのでしょう?


人が、まるで自分たちは自然界とは分離された種であるかのように、あるいは、自然の管轄外であるかのように語ることがある。そこに興味を持ったの。私は、物質の感覚的知識を通してこの種の解離を考えるのが好き。もちろん、すべての物質の源は天然資源で、その一部に、人間が設計したさまざまな処理が施されているだけ。合成と自然、本質や本物と人工物を分かつものが何かということに興味があるわ。

ジェームズ・バームフォース(James Balmforth)

──影響を受けた本、映画、音楽はありますか?


チェルシー・カレッジ・オブ・アーツで学んだことは、何事もそのまま受け取るな、ということ。情報をごちゃ混ぜにすることで、まったく新しい全体像を導くことができる。本、映画、音楽についても同じ。今はイラン出身の哲学者、レザ・ネガレスタニの『Intelligence and Spirit』とマーク・ウィルソン哲学教授の『Physics Avoidance』を読んでいるところ。いつも同時に数冊の本を読むことで、それらから得たアイデアを掛け合わせることができるから。ドキュメンタリー映画では、クリス・マルケル監督の『サン・ソレイユ』(1982年)とヨハン・グリモンプレ監督の『ダイアル ヒ・ス・ト・リ・ー』(1997年)が大好き。結末を自分で導き出すことができるからね。自分のスタジオでは、気が散らないように歌詞のない音楽を聴くことが多い。いま聞いているのは、ボーイ・ハーシャーの『Morphine』。アイデアを発展させ、新しいプロセスを模索するのにぴったりなんだ。

──アトリエはどんな空間ですか?


ロンドンのような大都市では生活費がとても高いから、アーティストをするのは大変。特に、彫刻家である場合はスペースが必要だから。田舎などに引っ越すことを考えたこともあるけれど、僕にはロンドンの創造的なエネルギーが必要だし、ここでしか得られない人脈がある。いまは南ロンドンのペッカムが拠点。非営利団体が持っている空間で、設備の補修管理を手伝う代わりに、作業スペースを借り受けてるんだ。お互いに有益な契約ができてありがたい限りだよ。

──作品制作について教えてください。


僕は自称「欲求不満のエンジニア」。作品では、産業用の技術とメカニズムを用いて、素材を圧力や熱などで極限状態に晒すんだ。最近よく使っているツールの1つは、ランス棒。点火トーチのようなもので、7000度の温度でコンクリートや鋼鉄を燃やすことができ、解体作業に使われている。とても危険な道具だから、使うときは防護服を着て空気呼吸器を装着する必要がある。金属蒸気が発生することがあるので、それを吸い込まないようにするためだ。本来的には、屋外の人のいない場所で使う道具。完成した彫刻も、屋外に設置してもらえるといいと思ってる。現在、僕の作品がいくつか展示されているロンドン郊外のフルマー現代彫刻ギャラリー(Contemporary Sculpture Fulmer)みたいなね。フルマーは、もともと19世紀後半にヴィクトリア女王付き副官だったハリー・ロー卿によって設計された、美しいプライベートガーデンの中にある。ヴィクトリア女王が植樹していた場所なんだ。

──セリーヌ・ニューヨーク店の作品のコンセプトは?


「Surface Response(Stack)」は、2016年に制作しはじめたシリーズの新作で、ステンレス製の立方体4つを縦に積み重ねた、高さ260センチメートルのタワー。各立方体の一面はランス棒で加工してあり、それによって、錆つきの加速と鋼内の鉄の酸化が起こるんだ。結果として出来上がった材質は色が暗くなり、乾いた溶岩のように多孔質になる。その残留物はスラグ(鉱滓)と呼ばれ、通常は産業廃棄物と見なされるんだけど、それに目的と価値を与えるっていうアイデアが気に入ってるんだ。

オスカー・トゥアゾン(Oscar Tuazon)

──エディ・スリマンとのコラボレーションはいかがでしたか?


エディと初めて会ったのは2011年。ベルギー・ブリュッセルのアルミン・レッシュ・ギャラリーで開催された彼の個展「Fragments Americana」に僕も参加しないかと誘われたんだ。そして僕は、3つの彫刻を提供することになった。一週間かけて一緒に働き、考え、設営したよ。エディとは、以来、友人関係が続いている。

──セリーヌ・パリ店の作品アイデアについて教えてください。


ファッションとアーティストのコラボレーションには、ときに危険がともなう。ブランドが、アーティストがやっていいことと悪いことを決めてしまうと、力の不均衡が生じるから。でも、今回のプロジェクトはまったく違った。エディは僕にすべて任せてくれたんだ。僕の近作は、旅に着想を得て、輸送用コンテナやその他の輸送インフラを用いることが多い。セリーヌ・パリ店のための「モバイル・フロア(Mobile Floor)」もそう。鋼鉄、モミ材とオーク材、コンクリート、アルミニウム、そして塗料を使って制作したインスタレーションで、輸送用コンテナの床の形をしているんだ。ショップに来る人々は、服に触れたり体験するために店舗を訪れるわけだから、何かフィジカルなエンゲージメントを誘うような作品をつくりたいと考えたんだ。

──環境問題を喚起させる作品が多い理由はなんでしょうか?


2016年に、アメリカのスタンディングロック・インディアン居留地で行われたダコタ・アクセス・パイプライン抗議デモに参加したんだ。それを機に、水道システムに興味を持つようになった。現在、ミシガン州立大学のイーライ&イーディス・ブロード美術館で展示中の「ウォータースクール(Water School)」プロジェクトの1作品は、水で満たされた大きなガラスのファサード。パッシブソーラーハウス(太陽エネルギーを活用した住宅)の最初期の事例である「ゾーム・ホーム(Zome Home)」(1972)をつくったエンジニア兼発明家のスティーブ・ベイヤーに触発された作品なんだ。

──コラボレーションによる作品制作の醍醐味を教えてください。


創造性と自然界を結び付けることは、とても大切だと思う。建築やデザインには、人間が環境に与える負荷を軽減する力がある。「ウォーター・スクール」プロジェクトは、水や土地の権利、その他の社会環境問題を提起するプログラムや講演会からなる活動。いつもは一人で孤独に作品制作をしているけれど、このプロジェクトを通して人々と協力し、共同体意識を持ち、従来のアートを超えた広がりが生まれたことを非常に嬉しく思っている。シアトル近郊のベルビュー美術館で開催中の僕の個展「コラボレーター(Collaborator)」でも、15人以上と一緒に制作した作品を展示している。その中には、建築家のアンソニー・ロッカと手がけたコンクリート製の炉もあって、それは、暖かい火のまわりで人々を団結させたいというメッセージが込められているんだ。

Text: Liam Freeman

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