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『VOGUE』文庫:フェミニズムの潮流を変えた5冊。

  • 2019.7.3
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『VOGUE』文庫:フェミニズムの潮流を変えた5冊。
2019.07.03 19:00
映画、音楽、芸術、そしてもちろんファッション……。世界中のさまざまな分野で、いまだかつてないほど男女格差是正を求める声が大きくなっている。女性権利拡大に寄与したシモーヌ・ド・ボーヴォワールの『第二の性』(1949年)から、フェミニスト=男嫌いという先入観払拭に貢献したチママンダ・ンゴズィ・アディーチェによる『男も女もみんなフェミニストでなきゃ』(2014年)、そして隣国・韓国の現代フェミニズム運動のきっかけとなった『私たちにはことばが必要だ フェミニストは黙らない』まで、いま改めて読みたいフェミニズム本を紹介する。

『第二の性』シモーヌ・ド・ボーヴォワール著


現状を痛烈に批判した『第二の性』は、1949年に発表されると即座にベストセラーとなり、論争を巻き起こした。本書の中でシモーヌ・ド・ボーヴォワールは、歴史的な例を用いて社会がどのように変化して女性を第二級の市民にしたのかを示した。


この本が出版される5年前までフランスでは女性に投票権が与えられていなかったことを考えると、ボーヴォワールの主張を裏付けるものはたくさんある。論争がないわけではなかったが、ボーヴォワールは、確固たる自分を持った女性だった。哲学者のジャン・ポール・サルトルのパートナーであったが、二人が結婚したり同居することはなく、ボーヴォワールはレズビアンとしての恋愛も秘密にしなかった。


しかし何より、ボーヴォワールの『第二の性』が画期的な作品とされる所以は、ジェンダーアイデンティティを探求したことにある。男と女は、成長するにつれて女らしくまたは男らしく行動するようになっていくのだと論じることによって、ボーヴォワールは、男女の性別による役割は持って生まれた特性であるという考えに異議を唱えたのだ。

『私たちにはことばが必要だ』イ・ミンギョン著


著者のイ・ミンギョンが本書の筆を執るきっかけになったのは、女性嫌悪による殺人事件として韓国社会で大論争を巻き起こした江南駅殺人事件(2016年に韓国・ソウル)だった。「すべての女性が被害者たり得た」この事件は、現代韓国のフェミニストムーブメントに火をつけ、多くの女性たちを結束に向かわせた。連綿と韓国社会に根付いてきた家父長制が招く男尊女卑に断固と「NO!」を突きつけながら、しかし彼女のアティテュードは性差別に「戦い」を挑むものではない。自らの経験をもとに、冷静に、スマートに、いまだ性差別が残る社会やコミュニティにおける人との関わり合いの中で、ジェンダーマイノリティーたちが言葉によって「自分の身を守る」術を説くのである。


面白いのは、タイトルに「ことばが必要だ」としながらも、フェミニズムにまつわる議論に必ずしも「みんなで力を合わせて勝とう!」と呼びかけるわけではないところ。あくまで本書の主眼は「自分を守る」ことなので、不当な扱いを受けたときや不毛な議論に発展したときには、「あなたには答える義務がない」と諭すのだ。もちろん、「相手の話が聞こえないフリをしたり、会話を避けたりするだけでは、無知の権力を助長するだけ」なので、気が進まない会話を阻む自由が保証されていない状況を改善するために、どうすればうまく会話を終わらせ、かつ、相手に考えるきっかけを与えられるかを教えてくれる。その意味で本書は、性差別のみならず言葉の暴力に直面したときにどう対処すべきかという指南書ともなり得るといえるだろう。

『新しい女性の創造(改訂版)』ベティ・フリーダン著


初版が出版された当時のアメリカ人女性が欲しいと思っていたもの、つまり、夫や家、子ども、そして家計の安定を手に入れてもなお不幸であった理由について論じた記事を書籍化したのが本書。著者のベティー・フリーダンはジャーナリストだが、記事を出版してくれる版元が見つからなかったため、最終的に自費出版することに決めたという経緯がある。


本書が出版されたのは、メディアと広告が「主婦であること=女性の幸福」と信じて疑わなかった1963年。そんな時代に、フリーダンは女性が家で自分自身を失っていることを発見し、思考を巡らせたのだ。彼女は、女性は家の外で目的を見つける必要があり、仕事をして、より大きな社会に参加することを必要としていると述べ、アイデンティティは自律的に獲得されるものでも、生物学的に決定されるものでもないと主張している。


そして彼女は間違っていなかった。本書はアメリカにおける第二次フェミニズム運動の引き金となり、同一賃金を求める法案にも影響を与えた。ムーブメントの加速によって女性の社会進出は進み、男女平等に向かおうとする現在に引き継がれているのは確かだ。一つ残念なのは、本書の対象があくまで家にいる経済的余裕のある裕福な白人女性がターゲットで、社会的に疎外されたグループや下層階級については語られていないということ。彼らの大部分はすでに労働市場に積極的に参加していた。それでも、その読みやすくわかりやすい文章のおかげで、この作品は女性の権利向上に導き、フェミニズムを気高く合理的なものに変えた功績はあまりに大きい。

『男も女もみんなフェミニストでなきゃ』チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ著


本書と同じ「We Should All Be Feminists(男も女もみんなフェミニストでなきゃ)」という題名のTEDxの講演をきっかけに人気に火がついたナイジェリア人の作家、チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ。本人も「こんなに人気がでるとは思わなかった」と驚くほどに、同講演は世界中で何百万人もの人々がオンライン視聴し、講演をそのまま文書化した本書が出版される運びとなった。彼女の影響力はファッションやカルチャー業界にも飛び火し、ディオールは本書のタイトルをプリントしたシャツを発売、また、ビヨンセは自身のアルバム「レモネード」にも引用したほどだ。


『男も女もみんなフェミニストでなきゃ』は、フェミニズムが本当に意味するもの、平等の要求について現実的に考察するものであり、男性と女性の両方がこの言葉を受け入れるためのスローガンとなっている。アディーチェは、家父長制度が何世代にも渡って男女を苦しめたことを認めながら、現状を変えることができないと無力感に苛まれる必要はないと勇気づける。むしろ、それを変えるためには反乱が必要だと説き、次のように書いている。


「文化が人々や民族を作るわけではありません。人々や民族が文化を作るのです。もしも女性に十全な人間性を認めないのがわたしたちの文化だというのが本当なら、わたしたちは女性に十全な人間性を認めることを自文化としなければなりませんし、それは可能です」

『黄金のノート』ドリス・レッシング著


1962年に出版された『黄金のノート』で綴られるのは、1960年代ロンドンを生きるある女性の猛烈に率直で個人的なストーリーだ。主人公は、自らの経験を色分けされた4冊のノートに振り分けて記述することで、自分の生活を分別しようとしている作家のアンナ・ウルフ。本書では、母性、性の解放、人種差別、植民地主義、共産主義、精神病などさまざまな題材が取り上げられており、出版から50年以上経ったいま読んでも、ほぼすべての点で進歩的かつ刺激的だ。出版当時、批評家たちはレッシングを「男性嫌悪主義者」「要求が過激な狂った女」と叩いたが、当時の女性たちはこの小説に共感し、その結果、本は大成功を収めたのだった。


近年、強い女性の人気が高まっているが、『黄金のノート』がほかのフェミニズム本と異なるのは、ウルフが必ずしも、誰もが好感を持てる女性ではないという点だ。これによって、ウルフは微妙なニュアンスを持ち、簡単に定義できないヒロインとなり、時代を経てもなお新鮮に感じられるのだ。

Text: Nanna Arnadottir

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