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連載第24回 2012年「愛しあってるかい!名セリフ&名場面で振り返る平成ドラマ30年史」

  • 2019.6.25
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名セリフ&名場面で振り返る平成ドラマ30年史
KADOKAWA

元毎日放送プロデューサーの影山教授

このドラマ、失敗しないので!

2012年—。東京スカイツリーが開業して、東京がさらににぎやかになったこの年。ロンドンオリンピックが開催され日本選手団がアテネオリンピックを超える史上最多のメダルを獲得し、ノーベル生理学・医学賞を京都大学教授山中伸弥が受賞するという華々しいニュースも飛び込んできた。テレビをつけると「ワイルドだろぉ?」というスギちゃんのギャグが常に聞こえ、ドラマではあの決め台詞が!「『私、失敗しないので』は一世風靡しましたね。第一弾はこの年でしたか。これは語らねばいけませんね」。影山貴彦氏が挙げたタイトルは、そう、あの女医のドラマ!

―「私、失敗しないので」が流行語にもなった「ドクターX~外科医・大門未知子~」は7年前なんですね!

米倉涼子さん演じる大門未知子はフリーの外科医で、なれ合いが大嫌い。ズバズバと言いたいことを言い、難しい手術を成功させていく一匹狼キャラクターです。ただ、決して彼女の孤独を描いているわけではなく、根底にあるのはあたたかな人と人とのふれあいでしたね。命の不安を前にしている患者にとって、「失敗しないので」と断言してくれるその絶対的な安心感は誰もが求めること。ドラマといえど、それを叶えてくれる大門未知子に、憧れと願いのようなものを見ていたと思います。手術が成功した後、彼女が患者にやさしく手を添え、何かを心でつぶやいているシーンも、良かったですね。

このドラマの一匹狼というスタンスは、決して病院の闇を暴いたり、その力関係にメスを入れたりするのではなく、「私は私の方法で必ず助ける、邪魔をするものは許さない」ということです。人を蹴落とすことではなく、命を守るため。どこか劇画チックで、田口トモロヲさんのナレーションも、そのムードを高めていました。そんな彼女に影響を受け、周りがどんどん協力していくのも理想的な展開で、見ていて爽やかな気分になったものです。そしてなにより、彼女の師匠、神原晶役の岸部一徳さん。物語の最後の彼の請求書、メロン、スキップをなくしてあのドラマは語れませんよね(笑)。

このドラマの脚本家は中園ミホさん、プロデューサーは内山聖子さんです。NHKの朝のトーク番組「あさイチ」に米倉涼子さんが登場した際、内山さんがVTRで登場し、米倉さんの人となりを、強気なようでいて繊細、本当に不安がりで……、とにこやかに愛を持って語っておられたのが、とても印象に残っています。この中園さん、内山さん、米倉さんという3人があればこそ、ここまでの完成度となったのだろうと思いますね。テレビ朝日は、この「ドクターX」を筆頭に、中高年層を中心としてシリーズ化できるフォーマットづくりがとてもうまい局です。今、それが理想的な形で回転し、ヒットの連鎖を生み出していますね。「ドクターX」は今年秋に続編がスタートするということで、楽しみです!

―この年の「リーガル・ハイ」も、「ドクターX」の「失敗しないので」というスタンスと共通しているところはありましたね。

はい。堺雅人さんが、変わり者だけれど腕はめっぽう良い弁護士、古美門研介を演じていました。周りにおもねることなく、情も挟まず、依頼人を勝たせることにこだわる姿勢は、確かに大門未知子の「私失敗しないので」と共通するところはありますね。そこに翻弄される新垣結衣さんは、コメディエンヌとしての素質を見せました。堺さんは膨大なセリフ量をマシンガンのように喋るのですが、とにかく言葉一つ一つがはっきり聞こえる滑舌の良さに驚きました。あの迫力は相当な努力の上に成り立っていると思います。翌年の2013年には、「半沢直樹」「リーガル・ハイ2」が続きます。彼の躍進については、次回じっくり語ろうと思いますが、「半沢直樹」で彼を好きになり、この2012年の「リーガル・ハイ」を後から追いかけた人も多いのではないでしょうか。

「最後から二番目の恋」と8050問題

―この年は「最後から二番目の恋」もありました。緩やかで、とてもいいドラマでしたね。

大好きです! 脚本は岡田惠和さん。聞き逃そうと思っても、聞き逃せないセリフがそこにある。彼のそんな絶妙な持ち味が、このドラマでも炸裂していました。まずはこのタイトルです。「最後から二番目」! このフレーズはなかなか出てこないですね。しかも小泉今日子さん、中井貴一さん、そして鎌倉の美しい風景。すべてのバランスが最高でした。小泉さんはドラマプロデューサーという役柄で、益若つばささん演じる若手脚本家に振り回されるシーンもありましたが、あえてリアルには描かず、デフォルメされていました。たまにドラマで〝職場のシーン″が描かれると、リアリティを求めて「この仕事はこんなんじゃない」「こんなことありえない」と、細かく指摘する人もいます。けれど忘れてはいけないのは、あくまでも「ドラマ」だということです。ドラマの内容によっては、あえてフィクション色を強くすることで、意味が出てくることもある。重箱の隅をつつくような指摘をせず、寛容な気持ちで見てほしい、といつも思います。

また、このドラマは誰も不幸にならない。それが素晴らしいところの一つでした。坂口憲二さん演じる長倉真平が難病を患っているという設定もありましたが、続編でもとても穏やかで幸せな形で、病気ゆえの悩みを乗り越えていきます。坂口さんの笑顔には癒しパワーがありますね。同性ながら、彼を見ると心がふんわりと柔らかくなったものです。坂口さん自身も、現在難病と闘っていらっしゃるとのこと。芸能界活動休止をしていますが、あの笑顔を待っています。強さとやさしさを兼ね備えた、素晴らしい俳優だと思います。

そして、彼の双子の妹、万里子を内田有紀さんが演じていました。万里子は繊細で、35歳にして引きこもりという役です。しかし小泉さん演じる千明が、彼女の観察力を見抜いて脚本の世界にスッと引っ張り出すんですよね。そして、いろいろ書く機会を与えることによって、彼女は社会復帰を果たします。現在、大きく取り上げられている「8050問題」と少しつながりますね。引きこもりが長期化し、親も子どもも高齢となり、様々な事件が起きています。もちろん、ドラマと現実は違う。そんなにうまくいかないよ、と思う方もいるでしょう。でも、ドラマだからこそ希望を描くことができます。誰にも相談できず行き詰った状態にいる人が、気持ちを変えるきっかけになるのは、テレビで見た、明るい未来を描いた1本のドラマかもしれない。もっと言えば、たった一言のセリフかもしれない。それができるからこそ、私はエンターテインメントが好きだし、ドラマが大好きなんです。

2012年は、やはり東日本大震災からわずか1年ということもあり、底抜けに明るいというよりも、まだ明るさで突き抜ける時期ではなかったことが伺えます。「ドクターX」や「リーガル・ハイ」もテンションは高かったのですが、そこに求められていたのは「失敗しない、裏切らない」という願いだったと思います。「最後から二番目の恋」も、とてもあたたかなドラマですが、ハッピーなだけではない、様々な絆が描かれていました。

作り手と俳優が「転機となる作品」と出会える奇跡

―2012年、心に残った俳優の方はいらっしゃいますか。

土曜の深夜枠で「高校入試」というドラマに出演していた長澤まさみさん。2012年は、「都市伝説の女」もありましたし、俳優として一つの枠を越え、彼女の自由奔放さが垣間見えてきたころでもあります。良い意味で、「こんな切り口のドラマにも挑戦し、しかも成り立たせるパワーもあるんだな」という可能性の広がりを感じました。また「高校入試」は、湊かなえさんが脚本を担当しています。湊さんは、このシナリオをもとに改めて小説として書き下ろしています。それ以前から小説の名作はたくさん出されていますが、「小説を書くうえで、次のステージにいくことができた」と語っています。こういった運命の作品に出会えることは、誰にでもあることじゃない。本当に幸せだと思います。この年の「主に泣いてます」は、菜々緒さんをドラマの魅力に引きずり込むきっかけになった作品なのだとか。今でも制作スタッフと交流があるそうです。彼女は2014年、「ファースト・クラス」で本格的にブレイクします。

「平清盛」で見せた松山ケンイチの凄み

この年、NHK大河ドラマで主演を果たした松山ケンイチさんも、「平清盛」が大切な作品だと語っておられるインタビューがありました。「平清盛」は惨敗と評されましたが、すごく面白いと絶賛する人も多かったし、いまも熱いファンがついている名作なんですよね。あの独特の野心渦巻く世界観は、なかなか作れない。ただ、どうしても視聴率だけで測られてしまう。その傾向が残念でなりません。現在放送中の大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」もそうですが、数字だけを見て安直に面白くないという評価とつなげて報道するのは、もう「いじり」を超えてメディアの「いじめ」です。ドラマの評価は、もちろん人によっていろいろあると思いますが、あまりにもずさんな尺度でそれを決めつけ、活字にすることは、エンターテインメントへの冒涜になる、と私は思います。

私は松山ケンイチさんの演技、そして彼が出る作品が好きです。最近では「白い巨塔」の里見准教授も素晴らしかった。ストイックなのだけれど自然。見ているこちらに、変な力を入れさせないんです。けれど、その姿を追っているうちに、しっかりと感動にたどり着く。これは、すごいことです。そして、彼ほど役者としてドンとした存在感がある人は、偏った批評に絶対潰されない。これからもどんどん名作を生みだしてくれるでしょう。私は松山さんの作品を見ていきますし、楽しみしかありません。

元毎日放送プロデューサーの影山教授
KADOKAWA

【著者プロフィール】影山貴彦(かげやまたかひこ)同志社女子大学 メディア創造学科教授。元毎日放送プロデューサー(「MBSヤングタウン」など)。早稲田大学政経学部卒、ABCラジオ番組審議会委員長、上方漫才大賞審査員、GAORA番組審議委員、日本笑い学会理事。著書に「テレビドラマでわかる平成社会風俗史」(実業之日本社)、「テレビのゆくえ」(世界思想社)など。

【インタビュアー】田中稲/ライター。昭和歌謡、都市伝説、刑事ドラマ、世代研究、懐かしのアイドルを中心に執筆。「昭和歌謡[出る単]1008語」(誠文堂新光社)。CREA WEBにて「田中稲の勝手に再ブーム」連載。(東京ウォーカー(全国版)・関西ウォーカー)

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