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女性の発達障害、生きづらさのきっかけは「就職、結婚、出産」【もしかして? 大人の女性の発達障害 第1回】

  • 2019.6.23
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時に、コミュニケーション障害と言われることもある、発達障害。「空気が読めない」「相手の気持ちがわかりにくい」などの特性は、人づきあいでのトラブルを招きやすく、「愛想が悪い」「気が利かない」など、性格の問題にされてしまうことも少なくありません。

また、発達障害は男性に多いとされてきましたが、実は、大人になってから発達障害が表面化する女性は少なくありません。発達障害のこうした特性は、男性よりも女性同士のつきあいに重視されがちだからです。

女性のコミュニティは、より「空気を読みあう」ことで成り立っていることが多いため、子どもの頃から女同士の友だちつきあいがうまくいかず、ずっと悩んできたという女性も多いそうです。

女性の発達障害特有の生きづらさとは? どうしたら少しでも楽に生きられるのでしょうか?

発達障害当事者であり、言語聴覚士として支援者でもある村上由美さんに、発達障害の女性特有のコミュニケーションにおける苦労や悩み、周囲とうまくつきあっていくためのポイントをうかがいました。

お話をうかがったのは…
村上由美(むらかみ・ゆみ)さん


言語聴覚士。上智大学文学部心理学科、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院(現・国立障害者リハビリテーションセンター学院)聴能言語専門職員養成課卒業。重症心身障害児施設や自治体などで発達障害児、肢体不自由児の言語聴覚療法や発達相談業務に従事。著書に『アスペルガーの館』(講談社)、『声と話し方のトレーニング』(平凡社新書)、『ことばの発達が気になる子どもの相談室』(明石書店)、『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に暮らすための本』(翔泳社)などがある。




■女性の発達障害「就職、結婚、子育て…」人生の転機に生きづらさが表面化

――今まで、発達障害は男の子が圧倒的に多いと言われてきました。実際、私が息子の療育センターに通っていた頃も(息子は自閉スペクトラム症)、グループのお友だちは男の子ばかりでしたが…。

村上由美さん(以下、村上さん):発達障害は男の子の方が発生率が高いとされ、療育センターなどに通う子も、男の子の方が圧倒的に多いのは事実です。その理由は、男の子に表れる発達障害の特性の方が見えやすく、問題視されやすい傾向にあるからです。

例えば、ADHD(注意欠陥・多動性障害)の男の子の場合は、「多動性」や「衝動性」が目立ちます。教室で立ち歩いたり、衝動的に暴力をふるったり、周囲に迷惑をかける行動が多いので、早めに気づかれるケースが多いのです。

――これが女の子だと、どう表れるのでしょう?

村上さん:同じADHDでも、女の子の場合は「不注意」が目立ちます。ミスが多かったり不器用だったり、本人はできないことを悩むのですが、周囲に迷惑をかけるようなことが少ないので、問題が表面化しにくいのです。

また、最近になって、そもそも発達障害の診断基準が少し男性寄りにできているのではないか? という議論も出てきています。男性と違って、女性の発達障害の場合は「受動型」の特性が多いので、現在の診断基準となる症状に当てはまりにくいのではないか、と。

最近は変わりつつありますが、少し前の教育では、女性は控えめであることが美徳とされていました。「受動型」という女性に多い発達障害の特性と、社会が求める理想の女性像が重なり、さらに見えにくくなってしまった面もあると思います。

そのため、発達障害の女性はひとりで悩みを抱えたまま、大人になってしまうケースも多いのです。

――幼い頃から感じてきた違和感が、明らかな生きづらさとして表面化するのは、いつ頃なのでしょう?

村上さん:就職、結婚、子育てなどの時期です。それまでの学校生活は、ある程度の枠組みが用意されていて、先生に言われた課題をこなしていれば、そこそこうまくやっていけるのですよ。

でも、自分の意思を持って主体的に行動しなければならないライフステージにくると、うまくいかないことが増えてきます。

また、特に女性は、結婚などのライフステージの変化によって役割が増大します。妻として家事をこなし、夫のサポートをし、義理家族と良好な関係を維持し、仕事をし、母親として子育てをし、園の父母会や学校のPTAの役割をこなし、ママ友やご近所づきあいもそつなくこなす…。

さらに、介護まで加わってくるケースも! つまり、女性はものすごいマルチプレーヤーになることを求められるわけです。

――確かに、結婚後、男性に比べると、女性は求められる役割の幅が広がる気がします。

村上さん:でも、そもそも発達障害の特性として、複数の作業を並行して行うマルチタスクは苦手なのです。

また、一般的に女性は「愛想がいい」「気が利く」「何でもそつなくこなす」ということがよしとされている風潮があり、家庭でも職場でも、煩雑で細かい仕事を任されるのは女性の方が多い傾向にあります。しかも、それをにこやかに、周囲へ気を配りながら行うことが評価されます。

ですが、発達障害の特性はこれらとも真逆。男性よりも女性の方が、この特性が問題視されてしまうのです。不公平だと思いますが、残念ながら、ジェンダーの差があるのが現実なのです。

――社会が求める、いわゆる「女性らしさ」が、発達障害の女性をますます苦しめているのですね。

村上さん:さらに、男性より女性に対しては、生活のこと(家事全般)ができて当たり前という期待値が高いのです。それもまた、発達障害の特性とは真逆なのに…。

加えて、日本の家事レベルはものすごくハイレベルですよね。子どものお弁当ひとつとっても、栄養のバランスを整えて、彩りもきれいに、さらに子どもが喜ぶように…と。さらに、おやつも園グッズも手作りで、などなど…!

最近は、家事代行サービスを利用する方も増えてきましたが、ひと昔前は「そんなの子どもがかわいそう! 手抜きはダメよ!」というような風潮がありました。

発達障害の方は基本とてもまじめなので、周囲の言葉通りに「全部やらなければ」と追い込まれてしまいます。でも、うまくできず、燃え尽きてしまうのです。





■「できないこと」より「できること」 苦手から逃げる勇気

――ちょっとマイナスな面ばかりうかがってしまいましたが、プラスの面はありますか?

村上さん:見方を変えれば、その特性が良い方向に向かうこともたくさんあります。例えば、「空気を読まない発言が多い」ということも、「慣習にとらわれず、世の中の動きにあった提案ができる」というふうにとらえることもできます。

もし今、生きづらさを感じている方がいたら、できないことではなく、できることに目を向けてください。もし、周囲にあなたを責めたり攻撃したりしてくるような人がいるなら、そういう人とは距離を置くのもひとつの手段です。


また、自分を知ることもとても大切です。発達障害の人は、自分への信頼がとても低いという傾向があります。ですから、「自分がどれくらいできるか」という見積もりを、社会が求めている尺度では考えないこと。

「がんばればできる」という見積もりは、実はすごく危険です。がんばり続けたら、たいていの人は燃え尽きてしまいますから。特に発達障害の人は、「がんばらなくてもできる」「がんばらなくても続けられる」というところを探っていくという発想が必要になります。

――専門家などの相談機関とつながっておくことも大切でしょうか?

村上さん:相談機関とつながりを持つことは心強いと思います。お子さんが小学生なら学校のスクールカウンセラー、就学前なら保健センターなど、身の回りに専門機関はたくさんありますから、上手に人を頼りましょう。

最近では、「自己責任論」がよく取り沙汰されるので、福祉などに頼るのは恥ずかしいことと思ってしまう方もいるかもしれません。でも、もともと人間はひとりでは生きられない生き物なのですから。

診断を受けて合理的配慮を得るには、自分の障害を開示しなければならないので、抵抗がある方もいるかもしれません。しかし、それを上回るメリットはあると思います。

まず、自分が楽に生きられることを探しましょう。診断を受けるのも、合理的配慮を受けるのも、自分が楽に生きるため。最近、楽に生きると言うと「なまけているんじゃないか?」などと非難される風潮もありますが、人生は修行ではないのですから。

もちろん、がんばることは悪いことではありませんが、そもそも何のためにがんばっているのか? それは自分にとって大事なことなのか? そこをしっかり考えることも大切なのだと思います。






■「生きづらい…」苦手が多いママ、3つのケースと対応法

――村上さんが支援現場で、ママからよく聞く悩みはなんですか? また、それぞれ上手な伝え方や対応法を教えてください。

村上さん:ママ友、子ども、夫、それぞれに対して、よく聞くお悩みを3つあげてみました。「これならできそうかな?」と思うものから、少しずつ無理ない範囲で試してみてください。

ケース1:ママ友との雑談が苦手。何を話したらいいのかわからなく、その場にいるのが苦痛…。


村上さんの回答:発達障害当事者にとって、実は一番難しいのが雑談です。話が飛んで主語がなく、時系列も変わる会話を文脈に落とすのは、定型発達の方には想像がつかないくらい、非常にハイレベルな作業なのです。

これはもう、自分がどのくらいそこに参加したい状況なのかを見極めることが大切。社交辞令レベルの関係なら、ヘンなことを口走るよりも、黙っていた方が無難な場合も少なくありません。

むしろ、人間観察のつもりで参加していても良いかもしれません。そのうちに、中には自分のつきあいやすい人が見つかるかもしれませんよ。

ケース2:仕事や家事や学校の雑用が山積みで…。いつも余裕がなく子どもにあたってしまう。


村上さんの回答:子育てにかかる手間は、以前よりずっと増えていると感じています。課されていることのすべてを完璧にするのは、まず無理と心得ること。得意と苦手を把握し、苦手なことには目をつむり、赤点ギリギリでいいと割り切りましょう。

もし、子どもを相手に感情がエスカレートするようなら、トイレにこもる、近所を一周散歩するなど、クールダウンする方法を決めておきましょう。自分だけが背負い込まず、夫やほかの家族に頼り、周囲に助けてもらうことも大切です。

ケース3:夫に対してつい感情的になって、いつも夫婦ゲンカに。自分の感情をうまくコントロールできない。


村上さんの回答:感情的になるには、たいていステップ(段階)と一定のパターンがあります。家事がたまっている時、仕事が忙しい時など、自分がどういう状況で感情的になりやすいのかのフローチャートを作ってみると良いでしょう。

そして、甘いものを食べるなど、自分がイライラした時に感情をうまく逃せる方法を、日頃からリストアップしておいてはいかがでしょうか。イライラしたときこそ、切り替えることを意識して。

また、もともと夫婦は他人なので、気持ちをわかりあうのはとても難しいものだと思った方が気楽です。

「自分を知ること」「できることに目を向けること」、これらは発達障害の取材をしていると、必ず言われる言葉です。そして、これは自分自身に対してだけではなく、他人を見る時も同じなのだ、と。

「いろいろあるけど、でも、あの人のここはすごい」というふうに、常に人の得意なところ、良いところを見つける姿勢は大切だと感じるインタビューでした。

次回は、もし身の回りに発達障害傾向のママがいた場合、どう対応するのが、自分のためにも相手のためにもベストなのか? お互いを尊重して生活していくための対応法についてうかがいます。

参考図書:
『発達障害の女性のための人づきあいの「困った!」を解消できる本』
(PHP研究所)


発達障害当事者である著者が、発達障害を持つ女性特有のコミュニケーションにおける苦労や悩み、問題の原因を解説し、周囲とうまくつきあっていくためのポイントを場面別に紹介。著者が医療や福祉、発達相談の現場などで相談を受けた中で、特に多かった日常の場面を取り上げ、うまくいかない原因と上手な伝え方や切り抜け方のポイントを掲載し、発達障害を持つ方の支援者や家族に知っておいてほしいことについて解説。

取材・文/まちとこ出版社N

(まちとこ出版社)

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