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辻村深月&桜庭一樹が描く「恋」がテーマの絵本って?

  • 2019.6.14
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恋愛観や結婚観、ジェンダー観が大きく変化する現代の感覚に合った恋のお話を。そんなコンセプトの〈恋の絵本〉シリーズが創刊。これがはじめての絵本制作となる著者のお二人、辻村深月さんと桜庭一樹さんにお話をうかがいました。

辻村:最初お話をいただいた時、「私でいいのかな」と思ったんです。小説を書く才能と絵本や児童書を書く才能はまったく別物だと思ったので。ただ、同じ出版社から出ている、宮部みゆきさんや恩田陸さんの〈怪談えほん〉シリーズが大好きだったので、憧れはありました。

桜庭:私は一回絵本を作ってみたかったんです。長いお話が一冊に入っている絵本が好きだったし、『GOSICK』というシリーズを挿絵付きで書いていた時、文と絵があってはじめて作品が完成する感覚があって、それは素晴らしい体験だったので、またやってみたかった。

辻村:恋というテーマについては、自分が子どもの頃に抱いていた違和感と向き合うことになりました。

桜庭:辻村さんの『すきって いわなきゃ だめ?』は、小学生のお話ですよね。違和感というのは?

辻村:小学生の頃、女の子が集まると必ず恋の話になりませんでした? 好きな人がいなくても誰が好きか言わなきゃいけない空気があって、言うと「協力する」とか言われて。

桜庭:分かるー。

辻村:いたとしても公にしたいわけじゃないし、つきあうことだけがゴールじゃなくてもいいのに、という気がしていて。当時言語化できなかったその気持ちを絵本にしました。

桜庭:読んで、最後のところでびっくりした! さすがミステリ作家。

辻村:嬉しい(笑)。「どんな恋でも大事にしていい」と分かっていても、人はいろんな思い込みの中で生きているから、最後まで読んだ時により広いところに届くようにと考えました。桜庭さんの『すきなひと』は、街角でもう一人の自分と出会うところから始まって、すごく大きなお話になっていくのがすごい。

桜庭:生きることへの思いや、一人で過ごす時間、神様みたいなものへの思いも“恋”だなという気持ちがありました。きっかけは、体調が悪くて休んでいる時にLINEカメラでお絵描きをしていて…(笑)。

辻村:えっ?(笑)

桜庭:スタンプだと、人物がみんな同じ顔になるので「自分と自分がすれ違う」というイメージが浮かんで、「あ、絵本の話、このシーンから始められる」と気づいてラストまで一気に考えました。

辻村:すごいなと思ったのは、「あさがきて」「よるになって」という文章で、絵ではとてつもない時間が流れているところ。

桜庭:誰に絵を頼むか編集者たちと相談していた時、嶽まいこさんの絵を見て、この人は不思議な絵を描ける! とピンときて。今は、嶽さんに絵を描いてもらってゴールできたという爽快感があります。

辻村:私は、自分の書いた感覚を的確に描ける人は今日マチ子さんしか考えられなくて。実際、心象風景が天気で表されていたり、いろんな奥行きがあったり、ランドセルの色に至るまでその子を正確に分かって描いていて、震えるほど感動しました。

桜庭:水たまりに相手の子の顔が映る絵だけで、視点人物がうつむいているって伝わるところとかも巧い。

辻村:思ったのは、2冊とも「同調圧力に従うことはないんだよ」っていう話だなと思って。

桜庭:ああ、確かに。

辻村:どちらも恋は自分の中で耕していい、その豊かな時間は自分だけのものだって言っている感じがして、それがすごく嬉しい。

桜庭:うん。大人は「子どもには難しいのでは」と言うかもしれないけれど、自分が子どもの頃って、ちゃんと分かって読んでいましたよね。

辻村:そう。子どもは、作り手が子どもを軽んじているかどうか分かる。

桜庭:だから、私も子どもを信じて作りました。

辻村:この2冊も、それぞれの心に何かが残るものになってくれたら嬉しい。このシリーズから今後どんな絵本が出てくるのかも楽しみです。

さくらば・かずき(左) 1999年に『AD2015 隔離都市ロンリネス・ガーディアン』でデビュー。’07年『赤朽葉家の伝説』で推協賞、’08年『私の男』で直木賞受賞。近著に『小説という毒を浴びる』。

つじむら・みづき(右) 2004年『冷たい校舎の時は止まる』でメフィスト賞を受賞しデビュー。’12年『鍵のない夢を見る』で直木賞、’18年『かがみの孤城』で本屋大賞受賞。近著に『傲慢と善良』。

『恋の絵本(1)すきなひと』(左) 桜庭一樹(作)、嶽まいこ(絵)、瀧井朝世(編) 薄暗い街角で、もう一人の自分とすれ違った「わたし」。その子を追いかけ、捜して体験する夢のような時間とは。悠久の時と、深遠なテーマが濃縮された一冊。岩崎書店 1500円

『恋の絵本(2)すきって いわなきゃ だめ?』(右) 辻村深月(作)、今日マチ子(絵)、瀧井朝世(編) 学校で告白が流行中。「すきなひといないの?」って聞かれて、本当はこうくんが好きだけど、でも…。同調圧力を背景に、誰かに惹かれる思いを繊細に描く。岩崎書店 1500円

※『anan』2019年6月19日号より。写真・小笠原真紀 中島慶子(本) 取材、文・瀧井朝世

(by anan編集部)

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