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リアーナはいかにして21世紀最大の歌姫になったのか。

  • 2019.6.13
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リアーナはいかにして21世紀最大の歌姫になったのか。
2019.06.13 19:00
先日、『フォーブス』誌が選ぶ「世界で最も裕福な女性ミュージシャン」ランキングで、マドンナやセリーヌ・ディオン、ビヨンセを押しのけ堂々一位(総額資産6億ドル=約650億円)』に輝いたリアーナ。その少し前には、LVMHとのコラボブランド、フェンティ(FENTY)がローンチしたばかりだ。イギリスのカルチャーライターで有名ポッドキャスターでもあるキャロライン・クランプトンが、この誰もが認める越境的スーパースターのデビューから現在までを振り返る。

「らしさ」獲得までの道のり。


私はリアーナの音楽業界デビューストーリーが大好きだ。


カリブ海バルバドスに住む10代の歌手だったリアーナは、休暇で彼女の実家近くに滞在していたアメリカ人のレコードプロデューサー、エヴァン・ロジャースに出会った。そこから彼女はアメリカへ飛び、デフジャムレーベルの新任プレジデントだったジェイ・Zを含む幹部たちに紹介されることになる。

リアーナの情熱と野心に際限はなかった。ジェイ・Zリアーナとの契約書を作成しているあいだに他のレーベルに横取りされるのを防ぐため、彼女をオフィスに閉じ込めたほど、その才能に心酔した。


「ここから出るには2つの方法がある。この契約書にサインしてドアから出て行くか、窓から出て行くか……」

ジェイ・Zは当時17歳のリアーナにこう言ったと伝えられている。オフィスは29階にあった。幸い、リアーナジェイ・Zの戦術を「とても光栄」に思い、彼女のキャリアの土台となるパートナーシップが築かれたのだ。


それから10年以上の月日が経ち、リアーナは世界的スーパースターになった。アルバム売上枚数5400万枚、シングル売上枚数2億1000万枚を記録(現在も記録更新中)、9つのグラミー賞を受賞し、計り知れない文化的影響力を放っている。彼女がスーパースターの地位に上り詰める一助になったのは、その卓越した自己管理能力と存在感だ。同時に、リアーナにはあらゆるチャンスをものにする才能があり、新たなチャンスがあれば決してそれを逃さない。そして、必要なときには直ちに軌道修正できるアジリティも備えている。


現在、私たちが知るリアーナはマイペースなスーパースターだが、キャリア初期からそうだったわけではない。彼女のデビューアルバム『ミュージック・オブ・ザ・サン』から生み出されたヒットシングル「ポン・デ・リプレイ」のミュージックビデオを見れば、リアーナの初期の音楽がよくわかる。このMVでリアーナは、腰履きのローライズフレアジーンズにクロップトップを纏い、さながら、「アイム・ア・スレイヴ・フォー・ユー」時代のブリトニー・スピアーズのようだ。さらにMVでは、不自然に人気の少ないクラブのステージで、控えめにダンスする姿を見ることができる。この曲は、ダンスホールビートとポップなボーカルに、ほんの少しレゲエをミックスしたキャッチーな仕上がりではあるが、リアーナらしさをあまり感じられるものではなかった。

ありふれたR&Bシンガーからの脱却。


しかし、こうした初期の成功によって、リアーナは自らの芸術性を自由に表現する免罪符を手に入れた。そして、彼女の音楽はより影のあるロック調に変わっていった。ソフト・セルの大ヒット曲「汚れなき愛」をサンプリングしたシングル「SOS」や、ソウル調の「ウィ・ライド」などのスムーズでセクシーなヒット曲は、意外なグランジ風に取って代わられ、リアーナをありふれたR&Bシンガーだと思っていた批評家たちを驚かせた。その変化は、2007年のアルバム『グッド・ガール・ゴーン・バッド』の発売ですぐに明らかになる。リードシングルとなる「アンブレラ」のミュージックビデオでは、革のセクシーロンパースとチェーンを身につけ、ロード・レイジ(Road Rage=あおり運転)を歌った「シャット・アップ・アンド・ドライブ」では、重低音とギターのクランチサウンドを使ったコーラスを取り入れた。


このアルバムでリアーナは、一気にスーパースターの座に上り詰めた。「アンブレラ」は世界各地のチャートで1位を記録し、全米ではダブルプラチナを記録した。そのジャンルを超越した先鋭的な表現は、ネリー・ファータドやアヴリル・ラヴィーンのような当時ヒットチャートのトップに君臨していたほかの女性アーティストと一線を画し、彼女のプロデューサーや共同制作者には、ジェイ・Z、ティンバランド、ニーヨなどの大御所が名を連ねた。

その声、そのアティテュード。


小さなことにこだわらない豪胆なかっこ良さ(と、それに一致する歌詞)に、ファンは群がった。リアーナの歌声の素晴らしさは疑いようがないが、ビヨンセレディー・ガガのように、声に個性や感情をのせて歌うことはほとんどない。ゆえに批評家は、彼女の声には「ナイフの刃のような鋭い空虚さがあり、その機械的精度には実際の感情が強引に入り込む余地がほとんどない」と評するのだ。

リアーナの声が心に響くのは、その超然とした雰囲気のおかげだと私は思う。しかしだからこそ、彼女は、固定観念にとらわれることなく、さまざまなジャンルに挑戦できるのかもしれない。リアーナは間違いなくフックを聞き分ける耳を持ち、しなやかで魅力的なパフォーマンスを披露する術を知っている。


映画界、ファッション界、およびビューティー界で成功を収めても、リアーナはあくまでミュージシャンだ。新曲発表が世界的なイベントとなるアーティストは片手で数えるほどしかいないが、リアーナは過去10年間に渡って間違いなくその1人であり続けてきた。

リアーナの歌に共通するのは、その挑戦的かつ平然とした態度だ。比較的シンプルな2016年のアルバム『アンチ』でさえ、彼女はつかみどころがない。2015年の「ビッチ・ベター・ハヴ・マイ・マネー」の復讐ファンタジー風MVでは、「忘れたフリしないでよね。どうするかは私次第」と歌うのだった。


さて、彼女の9枚目のアルバムが、いよいよ2019年に発売予定だ。噂によればレゲエ・アルバムになるとか。アリアナ・グランデが過去の恋人たちについてのアップテンポなポップソングを歌い、カーディ・Bが90年代をプレイバックする中、衝撃を与える最高の選択だ。

Text: Caroline Crampton

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