親を見る目が変わるかも…生まれ育った家族の話を聞くということ

『負け犬の遠吠え』(講談社)や『男尊女子』(集英社)など、話題作を発表し続ける酒井順子さん。最新刊『家族終了』では、タイトルの通り家族をテーマに、さまざまな角度から変わりゆく日本の家族スタイルについて考察されています。

刊行を記念して、3月26日に代官山 蔦屋書店(東京都渋谷区)にて、ライターの武田砂鉄さんとのトークイベントが開催されました。このイベントの様子を全3回に分けてお届けします。

第1回:逃げ切りおじさんは本当に逃げ切れるのか?

第2回:娘のパンツを洗うお父さん

お母さんをおふくろと呼ぶ瞬間

酒井順子さん(以下、酒井):武田さんは学生の頃、授業参観でお母さんに名前で呼ばれて本気で嫌がったそうですが、お母さんの呼び名は途中で「おふくろ」とかに変わりましたか?

武田砂鉄さん(以下、武田):いえ、変わらないですね。人前では「母親」と言いますけれど。

酒井:「(本名をもじった)ヒロくん」はイヤだけれど、「お母さん」と呼ぶのには抵抗がない?

武田:呼び方を変える場面がなかったんです。むしろ初めて「おふくろ」と呼ぶ瞬間のほうが恥ずかしくないですか? 母親に「うわっ、今、変わった!」って思われるだろうから。

酒井:絶対恥ずかしいと思う。でも、反抗期を境に変える人も多くいますよね。特に昔の男子はたいてい激しい反抗期があって、拳で壁に穴を開けるとか、親と全く話さない期間があって、そこから復活したタイミングで「おふくろ」と言うようになっていたり。武田さんは壁に穴、開けましたか?

武田:まだ開けていないですね。これから開けることもないと思います。自分は年齢のわりに落ち着いていると言われることが多々ありまして、母親からも「あんたは生まれたときから落ち着いている」と。

酒井:人間2週目なのかしら。

武田:母いわく、椅子に座って静かに佇んだりしていたようです。それからずっと、壁に穴を開ける場面は生まれなかったですね。兄は突然「プロのバンドマンになりたい!」と言うなど、比較的夢を追うタイプの人間だったので真逆かもしれない。教師を目指していたこともあって兄の部屋に「金八語録」なる本が置いてあったときには、縁を切るなら今か、と思いましたね……。

身内にダイナマイト自殺した人もいないし

酒井:仲良し家族で育った人は文章を書かないという持論があるのですが、そうでもなさそうですね?

武田:そうですね……。家族の話を書いてほしいと言われると、特に強烈なエピソードはないなと思うことはあります。盛るわけにいかないし、と。

酒井:確かに、仲の悪さのほうが、ネタになりやすいですし。

武田:仲の悪さにもいろんな段階がありますけど、自分が出せるエピソードが兄の部屋で見つけた「金八語録」くらいなことと比較すると、こういう職業としては「家族めっちゃ普通コンプレックス」があるのかも。

酒井:『家族終了』は、生育家族が自分以外に誰もいなくなったので、思い切り書けたという部分はありました。親と兄には申し訳ないのですが、これまでのエッセイなどでは言えずにいたこともあったので、それらを全て出すことができるのはちょっとした爽快感がありましたね。罪悪感がらみの爽快感ですけれども。

武田:忘れていたようなことが思い出されたとか。

酒井:そうですね。特にきょうだいのことは、大人になるとあまり考えなくなる。でも改めて思い出してみると、「ああ、兄はこんな人だったのかもしれない」と、実は兄にも「性格」があったということを、改めて意識しました。

親に会えるのはあと何回?

武田:自分の両親はもう70歳を超えていて、会うのは3ヶ月に1回くらいなんですけど、平均寿命から考えても、あと100回も会わないのかななんて単純計算したことがあって、その少なさにちょっと驚いたんです。カウントダウンが始まっている気がして、あれ、もうそんなに会わないのだろうか、と切なさを感じることがあります。

酒井:そんな武田さんには、親御さんに自分の子どものころの話やこれまでの生涯について聞いておくことをお薦めしたい。子どもは意外に親の過去を知りません。親も、自分の過去について自分から語ることはなかなかないし、子どもは親の仕事の内容すら知らなかったりしますよね。私は以前、自分の祖母にインタビューしてみたことがあるんですよ。祖母が99歳のときで、もう確実に寿命も迫ってきているから今聞かないと何もわからなくなるな、と。そしたら、すごく面白くて。

武田:へぇ。

酒井:だから親にも同じことをしておけばよかったなぁ、と。祖父母より身近にいるぶん、聞きづらくて聞けなかったことが多い。誰とどんな恋愛をしてきたのかも、大人になったら聞けるかもしれません。

武田:そういえば、小学生半ばくらいのときに、父親が夜中に帰ってきて母が泣いていたということがありました。あれ、一体、なんだったんだろう。原因を聞くことはなかったのですが。そういう話は聞いてみたいですね。『家族終了』を読むと、とても小さな点だったかもしれない出来事が、じわっと染み出して思い起こされるような感覚がありますね。

酒井:もう解明しないほうがいいことかもしれないですけどね。

武田:「私の親は円満であった」とストーリーを終えるパターンもそれはそれで。

「おにぎりプレイ」が浸透する怖さ

武田:ところでイチロー選手の引退会見での「(弓子夫人に)おにぎりを3000個握らせてあげたかった」という発言が引っかかっているのですが、酒井さんはどう思いましたか?

酒井:あれは……。おにぎりだったことがグッと来ますね。おにぎりって“魂の食”みたいな部分がありませんか? 以前、高校野球でも女子マネージャーが通算何万個握ったという話がありましたよね。私、あの話がすごく、大好きで大嫌いで。

武田:大好きで大嫌い(笑)。自分が気になるのは、イチロー選手がおにぎりを「握ってほしかった」ではなく「握らせてあげたかった」と言った部分なんです。引退会見の翌日、弓子夫人が飛行機に乗るときに、イチロー選手より数歩下がって歩いていて、これもまた古い価値観を見たような気がしました。

酒井:スポーツ選手の世界ではその手の価値観がまだ多く残っていますよね。ラグビーW杯ブームのときも、五郎丸選手が「好きな女性は、3歩下がってついてくるような人」といったことを言っていましたけれど。こういうことを堂々と言える人が今もいるのか、と驚きました。

そう思うと、ノムさん(野村克也さん)は、「我が道を行く妻についていく夫」という新しい夫婦像を示していた気がするんです。昔のプロ野球選手では意外と多いんですけどね、落合夫妻とか。今のスポーツ選手の妻たちは、あえて古典的価値観に身をおく「おにぎりプレイ」をして喜んでいるような印象があります。

武田:確かにサッチーはおにぎりを「握らされて」はいなかったでしょうね。あえてやっていると思われるその「プレイ」が、無意識に浸透して慣習化するのは気持ちが悪い感じがします。

酒井:無意識のうちに時代が戻って行くのは怖いです。

武田:無理やり現代の政治的な流れと結びつけると、それって政権が目指す家族像とリンクしますよね。

酒井:だから私はこの本で、いろいろな家族があっていいのではないかと言いたかったのです。生活を共にするのは、同性でも異性でもいい。そして同性にせよ異性にせよ、今もしくはかつて性的な関係があった人同士が作るのが家族という認識もありますが、そうとも限らなくなってきました。いろいろな家族形態があったほうがいいという考えにおいては、おにぎりを作らせてやりたい/作りたい人がいるのもまた、自由なわけですが。

本音と建前の社会の中で

武田:自分は今36歳で妻は34歳、2人だけで暮らしている家族構成の中で「少子高齢化は国難だ」とあちこちで言われると、社会からジッと見られている気がするんです。「どうすんの?」って。おそらく妻はその目線をもっと強く感じることが多いのかもしれません。でも、冷静に考えると、なんで、と思う。なぜ個人が少子高齢化という国難に挑まなければならないのかと。政策として社会の仕組みを整えることは彼らがやるべきことではありますが、こちらは少子高齢化解決のために生まれてきたわけではないし、そのために一緒にいるわけではありません。

酒井:もはや「産めよ殖やせよ」的なスローガンは、日本では掲げることはできません。「国が理想とする家族像」を示したいけれど、できないという状態ですよね。してはいけないことについては、国は法律という形で提示できますが、「これをしたほうがいいですよ」ということについては、戦争中のスローガンアレルギーがまだ続いているせいか、堂々と言えないのが日本。だからこそ真綿で首を絞めるような、気持ちの悪いアピールの仕方になっています。

武田:「必ず子どもは産んでください」という看板はたてられないので、街で角っこを曲がったときに見知らぬ人から「おい……産めよ」と囁かれているような気持ち悪さ。

酒井:言われた側も「産めよ!」と殴りかかられるのなら、殴り返すこともできるけど。自分に言ったのかどうかもわからないようなつぶやきだと、反論できないですよね。そんな気持ち悪さに対して「気持ち悪い」と言うことも、必要なのでしょう。

(写真・構成:安次富陽子)

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