1. トップ
  2. 小さな“君”と歩んだ日々…母の日にこそ読み返したい号泣必至の名作『君の春』

小さな“君”と歩んだ日々…母の日にこそ読み返したい号泣必至の名作『君の春』

  • 2019.5.10
  • 63903 views



春は旅立ちのとき。

新生活を迎え、まだ体になじまない制服姿やスーツ姿の学生や新社会人を目にするたびに、当時、不安と希望を胸に抱いた若かりし日々の自分を思い出す大人たちも多いかもしれません。

目の前に続く未来への道を進むのに、精一杯だった青春と呼ぶべきひととき。

背中を見送る親の気持ちを想うより、未来が待ち遠しかったあの頃。

しかし、年月を経て、「見送られる側」から「見送る側」の親の立場となったとき、ワクワクしたはずの”旅立ちの春“は全く違う光景として目にうつるのです。

そんな親目線の“春の旅立ち”を描いたにしむらアオさんの漫画『君の春』は、母親として子を想う気持ちとともに、自分自身の旅立ちを見送ってくれた母親への想いが不思議と交錯するストーリーに仕上がっています。

■なんてことのない日々のぬくもり…君がくれた幸せのかけらたち

『君の春』は、巣立っていくわが子を前に、親子で共に歩んできた日々を振り返る母親のモノローグから始まります。

「子どもなんてそんなに好きじゃない…」、そう思っていた昔の自分を見事に裏切ってくれた“君”との出会いから始まった母親として生きるステージ。




自分以上に大切な存在と巡り合えた幸せをかみしめながらも、初めての育児に戸惑い、迷い、そのなかで変化していく母親の心情や親子の距離感が印象的に描かれています。

はかなくて、壊れそうだった小さな“君”をただただ守ってあげたいと願っていた日々。

しかし成長するにつれ、そんな親心がもしかしたら間違っているのでは…と気づき、少しずつ手を離し、見守ることを学んだ時間。

どれも“君”がくれたかけがえのない経験だったのです。




「小さな君を抱っこして眠れなかった夜」も、「小さな君の手を引いて歩いた道」も、あとですごく大事になる、そしてうんと懐かしくなることを、育児に奮闘する今の自分に伝えたいメッセージのように心に響きます。



赤ちゃんと2人で過ごす生活のなかで、ときに孤独や不安といった感情に支配され、ままならない育児に心が砕けそうになるだってあります。

だけど、何気ない日常の隙間に、そこはかとなく輝く、まるでギフトのような瞬間が母親の心が救うこともまた事実なのです。




小さなわが子を胸に抱いて感じた幸福のひととき。

今まで知ることもなかったような穏やかな幸せが、確かに母親の心に刻まれていくのです。

■「私が君を守る」そう思っていたけど…母の手を離れて旅立つ君へ

いよいよ息子が家を出る引っ越し当日、息子と笑顔で別れる母親。



ガランとした子ども部屋に春の空気が流れ込み、やわらかくゆれるカーテンを見て、母親のまぶたの裏に浮かんだのは、小さな“君”を胸に抱いて、お昼寝をしたあの日の風景。



ほんのり暖かくて心地よい春の風、静寂の中やさしく響く飛行機の音、やわらかな光にゆれてキラキラ輝くカーテン、そして、甘い香りを放つ赤ちゃんだった“君”、そのすべての感覚がよみがえります。

やわらかな君の頬に自分の頬をすりよせて、愛おしさで胸がいっぱいになったあの日の気持ちも、

熱を出した君をたまらなく心配したことも、学校に出かける君を毎朝見送った日々も、すでに過ぎ去ったものばかりだけど、母親の胸に大切にしまっておきたい大切な宝物。

しかし、そんな切ない想いを胸に閉じ込めて、笑顔でわが子を送り出したいのも親心なのかもしれません。




「自分がいなければ…」と必死で育児に臨んだ時間のなかで、抱きしめたらすっぽり包み込めるほど小さかった君が、

歩き、話し、学び、自分の考えで自分の人生を選択し、いつの間にか大人になっていたことにあらためて気付かされる旅立ちの春。

当時、若すぎて知るよしもなかったわが子を見送る母親の心情が、気づけば自分自身のなかににじみだす…。

あのころ、言えなかった母親への「ありがとう」と育児の喜びを運んでくれたわが子への感謝の想いが交錯する、そんな温かくて切ない感情を呼び起こす季節が春なのかもしれません。

にしむらアオさん
自身の経験にもとづいて描いた漫画『君の春』がTwitterで大反響を得て、各メディアでも取り上げられ話題沸騰中!

●ツイッター:@nishimura_ao

(倉沢れい)

元記事で読む
の記事をもっとみる