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ステレオタイプに負けるな! ハリウッドに変化をもたらす気鋭の女性監督たち。

  • 2019.2.26
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ステレオタイプに負けるな! ハリウッドに変化をもたらす気鋭の女性監督たち。
2019.02.26 12:00
アカデミー賞の90年にも及ぶ歴史の中で、女性監督たちは十分に評価されてきたと言えるだろうか? 答えはノーだ。歴代の最優秀監督賞にノミネートされた女性監督は、たったの5人。2000年以降は、ソフィア・コッポラとグレタ・ガーウィグだけだ(いずれも受賞を逃している)。2019年のアカデミー賞でも、女性監督は誰一人としてノミネートされていない。歴史的に男性優位であった映画産業に風穴を開けるべく挑戦を続ける、3人の女性監督に話を聞いた。


2018年は女性映画監督の活躍が目立った1年だった。にもかかわらず、それが2019年のアカデミー賞候補者リストに反映されることはなかった。最優秀監督賞の候補者5名は、またも全員男性。過去を振り返っても、アカデミー賞の90年の歴史の中で監督賞にノミネートされた女性監督は、わずか5人だ。『セブン・ビューティーズ』のリナ・ウェルトミューラー監督(1977年第49回)、『ピアノ・レッスン』のジェーン・カンピオン監督(1994年第66回)、『ロスト・イン・トランスレーション』のソフィア・コッポラ監督(2004年第76回)、『ハート・ロッカー』のキャスリン・ビグロー監督(2010年第82回)、そして『レディ・バード』のグレタ・ガーウィグ監督(2018年第90回)だ。さらにいえば、実際に最優秀監督賞を受賞した女性監督は、アカデミー史上、キャスリン・ビグローただ一人という状況だ。


映画芸術科学アカデミー会員の監督部門の大半が男性であることも影響しているが、これはアカデミーに限らず、映画業界全体の問題だ。最近、テレビ・映画業界の女性研究センターが行った調査では、2018年の興行収入トップ250本の映画の中で、女性監督による作品が占める割合はわずか8%という結果が出た。大手映画会社は女性監督を起用することが少なく、女性監督の作品はキャンペーン予算が限られているため、映画賞から締め出されてしまうことが多いのだ。すなわち、高評価を受けたリン・ラムジー監督の『ビューティフル・デイ』(2018年)やクロエ・ジャオ監督の胸に突き刺さる西部劇『ザ・ライダー』(日本未公開。2018年)、カリン・クサマ監督ニコール・キッドマン主演の『Destroyer(原題)』(日本未公開。2018年)、サンダンス映画祭ドラマ部門でグランプリを受賞したデジレー・アカヴァン監督の『ミスエデュケーション』(日本未公開。2018年)といった作品が、アカデミー賞で認知されることは稀ということ。


しかし、映画業界には、受賞に値する才能あふれる女性監督がたくさんいる。2月24日(現地時間)のアカデミー賞授賞式を前に、これからのハリウッドをリードするだろう、注目の女性監督3人を紹介しよう。

『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』 by ジョージ・ルーク


『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』(2018年)は、ロンドンの名門劇場ドンマー・ウエアハウスの芸術監督として知られるジョージー・ルークの監督デビュー作。シアーシャ・ローナン演じるスコットランド女王メアリーと、マーゴット・ロビーによるエリザベス1世との確執を描いたドラマ作品だ。ルーク監督は、徹底的な女性視点と優雅なビジュアルを武器に、本作で国際舞台へ躍り出た。


彼女が演劇と出会ったのは、ケンブリッジ大学在学中。彼女は大学卒業後にロンドンに移り、ドンマー・ウエアハウスでキャリアを積んだ。その後、ロイヤルコート劇場やブッシュシアターを経て、2011年にドンマー・ウエアハウス初となる女性の芸術監督に就任した。


その5年後、彼女に映画製作の話が舞い込んだのだ。


「話を聞いたとき、絶対にやるべきだと直感した。すでに脚本があったけれど、一からつくりたいと思ったの。当初の脚本では、エリザベス1世は登場しないのだけど、メアリーとエリザベスは出会う必要があると確信したわ。ルネサンス期の火花散る女の戦いを描きたかった」

「人々の認識に挑むのが、アーティストの責任」


2人の架空の対立を描くというルーク監督の決断は、物議を醸した。なかには、映画の予告編を見て、ツイッターで異議を唱える歴史学者もいたし、肌の色を無視した配役(「ハードウィックのベス」ことエリザベス・ハードウィック役にジェンマ・チャン、ランドルフ卿役にエイドリアン・レスター)を、「史実に反する」と指摘する声もあった。


「物事の見方を見直す必要があるということを、視覚的に訴える手段よ。これまでも、演劇では何度も取り入れてきた。数年後には、これが普通になるといい。人々の認識に挑むのが、アーティストとしての私たちの責任だと思っているわ」


メアリーに関する記録を見直すことも、ルーク監督にとって非常に重要なミッションだった。


「メアリーは、女王には向かない感情的過ぎる女性として描かれてきた。でも、実際はとても聡明な女性だったの。これまで、本作ほどに女性を丁寧に描いた歴史物語はなかったと思う」


今春、ルーク監督はドンマー・ウエアハウスの芸術監督を退任し、映画監督業に本腰を入れる予定だ。


「映画界は、いまだに圧倒的に男性優位な場所。もっと女性を起用する必要があるし、俳優よりも監督が上位であるという考え方にも、風穴をあける必要がある。少なくとも、まずはそうなった背景に目を向けるべきだと思う。かつては劇場も同じような状況だったけれど、私たちは、この10年で多くのことを変えてきたわ」

『Leave No Trace(原題)』 by デブラ・グラニック


2018年、サンダンス映画祭でプレミア上映されるや否や、評論家と観客から高い評価を集めた『Leave No Trace(原題)』。手がけたのは、55歳のデブラ・グラニック監督だ。


「映画会社のシステムに頼らず製作した場合、作品を公開できるかすら見当がつかない。宣伝費用は当然ないし、屋外広告もゼロ。でも、口コミだけでここまで来られたのはうれしい驚きだった。本作は、社会の現実を淡々と描いているだけで、明確な悪役は登場しないし、爆発シーンもない。代わりに、人生で直面する解決し難い数々の問題を描いているの」


ピーター・ロックの小説『My Abandonment』が原作の本作は、イラク戦争から帰還した退役軍人ウィルと13歳の娘トムの人生の旅を描いた作品だ。PTSDやホームレス化、官僚主義などの複雑な問題を扱いながら、グラニック監督は繊細かつ巧妙に物語を進めていく。主人公の父娘を演じたベン・フォスターとトーマサイン・マッケンジーの演技は、高い評価を受けた。


グラニック監督は、非営利団体のために権利擁護を訴える映像制作を経て、ボストンでドキュメンタリー映画監督を指導する機会に恵まれた。そこでの経験を糧に、彼女は劇映画に挑戦するようになった。


そうして2004年、薬物依存を扱ったヴェラ・ファーミガ主演の『Down to the Bone(原題)』を発表。その後、2010年にジェニファー・ローレンスの出世作となった『ウィンターズ・ボーン』を、2017年に『Leave No Trace(原題)』を制作した。

「人生のグレーゾーンでこそ、最高の物語が見つかる」


「なぜ人は、別の生き方を選ぶのか? 社会として、それにどう対応すべきなのか?という原作の問いに惹かれたの。こうした内容は、私が得意な低予算プロジェクト向きね(笑)」


グラニック監督は、アメリカ合衆国退役軍人省の取り組みを支持している。退役軍人省は膨大な未処理の案件を抱えてはいるが、彼らに医療サービスと福祉手当を提供し、「世界最大の自殺防止機関」として機能しているからだ。


「もっとも困難で複雑な状況、つまり人生のグレーゾーンでこそ、最高の物語が見つかると信じているわ」


グラニック監督は、次回作で自分のルーツであるドキュメンタリー製作に立ち返る予定だ。ニューヨーク州の刑務所で、長期間を過ごしてきた男女を描いたものだ。


「刑務所を出所以降の彼らの5年間にわたる生活を記録した。彼らのような元受刑者は、出所してからも高潔に貧しく暮らすべきだと考えられている。これまで何度となく語られてきたテーマだけど、実際の刑務所を出た男女が自ら語ることに、価値があると思っているわ」

『Can You Ever Forgive Me?(原題)』 by マリエル・ヘラー


2015年に『ミニー・ゲッツの秘密』で長編映画デビューを果たしたマリエル・ヘラー監督の最新作が、『Can You Ever Forgive Me?(原題)』(2018年)だ。本作は、1991年のニューヨークを舞台に、アッパー・ウエスト・サイドに住みながら1日中バーに入り浸る、気難しいレズビアンを描いている。伝記作家から転落し、有名人の手紙を偽造するようになったリー・イスラエルの自伝が原作で、主役のリーをメリッサ・マッカーシーが、リーと秘密を共有する謎めいたジャックを、リチャード・E・グラントが演じている(本作でメリッサ・マッカーシーはアカデミー賞主演女優賞に、リチャード・E・グラントはアカデミー賞助演男優賞にノミネートされている)。


舞台俳優としてキャリアをスタートしたヘラー監督は、グラフィックノベル『The Diary of a Teenage Girl』を映画化した『ミニーゲッツの秘密』(2015年)で、脚本家・映画監督デビューを果たした。本作の実現までに、実に6年もの月日を費やしたという。撮影当時、妊娠していたヘラー監督は、サンダンス映画祭でのプレミア5週間前に無事出産した。


「女性監督は、2作目をつくるのに苦労するという統計がある。男性監督が2作目を発表するまでに平均3年かかるのに対し、女性監督は約8年。そんなに長く待ちたくないと思ったわ」


しかし幸運なことに、『ミニー・ゲッツの秘密』公開から1年後、『Can You Ever Forgive Me?』の話が舞い込んできた。


「私はミニーのように、観客にほんの少し不安を抱かせるキャラクターが好き。人々は、十代の女の子たちのセックスへの関心に恐れを感じるけれど、同じように、子どものいない50歳を超えた未婚女性に対しても、恐れを感じる。最新作の主人公であるリーは、とても聡明な女性だけど、それゆえに社会から相手にされない。私は、そのキャラクターに魅力を感じたし、リーとジャックのプラトニック・ラブにも惹かれたわ」

「世の中をどうにか生き抜こうと模索する人々を描きたい」


同作は、撮影期間28日という低予算プロジェクトだったが、次回作『A Beautiful Day in the Neighborhood(原題)』は、大規模なプロジェクトになりそうだ。トム・ハンクスを主演に、アメリカのテレビ司会者フレッド・ロジャーズを描いている。これまでの作品とは趣が異なるように思えるが……?


「どれも、人を描いた作品よ。世の中をどうにかうまく生き抜こうと模索する人々についての物語という意味で、共通しているわ」


4年で3作品をつくり上げたヘラー監督は、統計で示された女性監督のステレオタイプを打破したといえる。それに同意しながらも、彼女は首をかしげる。


「2018年は、多くの女性監督が素晴らしい作品を発表したのに、アカデミー賞ではまったく取り上げられていない。いいペースで仕事ができることはとても恵まれていると思うけれど、見渡せば、改善すべき点が数多く残っていると気づかされるわ」

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