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連載第15回 2003年「愛しあってるかい!名セリフ&名場面で振り返る平成ドラマ30年史」

  • 2019.2.19
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名セリフ&名場面で振り返る平成ドラマ30年史
KADOKAWA

元毎日放送プロデューサーの影山教授

最高のドラマは一作だけじゃない

2003年、アメリカを主とする有志連合軍がイラクへの攻撃を開始し、フセイン政権が崩壊。日本では新型肺炎SARSが流行するなど、ザワザワと不安が多かった年である。しかしエンタメはストレートに感動できる作品が多く生み出され、音楽では「地上の星」と「世界に一つだけの花」が大ヒット! 「NHKのBS-2で『冬のソナタ』が放送され、人気を集めはじめたころでもありますね。日本のドラマも大当たりの年です。うーん、どれから語ればいいか迷いますね」。悩むポーズを取りつつも、影山貴彦氏が身を乗り出しチョイスしたドラマは、今年、テレビ朝日60周年記念ドラマとしてもリメイクされる「白い巨塔」だった!

身を滅ぼすような野心に震える「白い巨塔」

―唐沢寿明さん主演の「白い巨塔」は2003年、フジテレビ開局45周年記念ドラマとして半年間も放送されていたんですね。そのせいか、大河ドラマを観ているような迫力がありました。

人間の持つ業みたいなものが、見事に出ていたドラマでしたね。舞台は、関西一の大学病院である浪速大学病院。そこに勤める、唐沢寿明さん演じる天才的な医師の財前五郎が、教授の地位を狙い権力闘争に飛び込んでいくというものです。彼に嫉妬する石坂浩二さん演じる東貞蔵教授から様々な妨害を受けるのですが、それがもうドロッドロで(笑)。毎回ゾクゾクしながら観ていました。

子どもの頃はテレビや映画の悪役に感情移入することはほとんどなく、正義の味方を「負けるな、頑張れ!」と応援したものですが、40を過ぎると悪役にも共感するんですよ。歳を取るというのは、こういうことなのでしょうね(笑)。「白い巨塔」も良心的で正義感の強い医師の里見(江口洋介)より、野心家で手段を選ばない財前に肩入れしてしまいました。それだけじゃなく、一番のヒールである、財前に嫉妬を燃やし嫌味を連発する東教授も応援したくなった。権力の亡者みたいな人物像の裏にある様々な葛藤や苦労などを想像させた、石坂浩二さんの演技は大きかったですね。覚えてらっしゃる方も多いと思いますが、東教授の名シーンがありまして、財前を教授にさせないために別の候補を立てるのですが、これがうまくいかない。トドメには東都大学の教授に、呆れたように「あなたは甘いお方だ」と言われてしまうんです。彼を最敬礼で見送ったあと、東はコートが鉢植えの枝に引っかかったのをきっかけに、押さえていた感情が爆発。鉢植えを端からウワーッと蹴り倒すんですよ。あの石坂さんの取り憑かれたような熱演は今でも忘れられません。震えましたね。

2003年はスーパー時代劇ドラマ「大奥」も放映され、その後シリーズ化するほど人気となりましたが、考えてみれば「大奥」と「白い巨塔」は似ていますよね。大奥は女の壮大なケンカ、白い巨塔は男の壮大なケンカ。野心を叶えんがための人間の欲深さや後ろ暗さが出るドラマは、怖いけれど「のぞき見したい」とそそられるものです。人間の永遠のテーマですから。「白い巨塔」の原作者・山崎豊子さんは、それを掬い取るのが最高にうまい。だからこそ何度もリメイクされ、その度に高い評価を得ているのでしょう。

山崎豊子さんの原作は「白い巨塔」のほかにも、テレビ東京開局55周年特別企画として「二つの祖国」が小栗旬さんとムロツヨシさん主演で放送されることが決まっています。こうして見ていくと、山崎豊子さんの原作は開局記念作品として大人気ですね。すごいことです。

―日本でのテレビドラマ化は今年で5度目だそうです。財前役は岡田准一さんですね。

リメイクが繰り返され受け継がれていく名作は、それぞれの世代で思い入れがあるのも面白いですよね。「私の時代の財前五郎」がいるわけです。田宮二郎さん、佐藤慶さん、村上弘明さん、唐沢寿明さん、そして岡田准一さん。岡田さんが財前のズルさ、暗さをどう演じるか楽しみです。続々と主要キャストが発表されていますが、里見役が松山ケンイチさん、東教授役が寺尾聰さんとのこと。いいじゃないですか! 素晴らしい配役だなと、興奮しています。しかも今回は、2019年に舞台を移すらしいので、最新の現代医療やスマホなどのデジタル機器も取り入れられ、それによってどんな教授戦が繰り広げられるのか…。新しい「白い巨塔」となりそうですね。楽しみです。

柴咲コウのしなやかな強さ、小林聡美の〝普通力〟

―2003年、印象に残っている俳優さんは誰でしょう。

同じ医療ドラマでも「白い巨塔」と逆ベクトルにあった「Dr.コトー診療所」。島の診療所で患者と向き合う医師の奮闘を描いた作品ですが、看護師の星野彩佳を演じた柴咲コウさんが、本当に強くしなやかで美しくて。やはりこの年放送され、年間視聴率トップに輝いた木村拓哉さんの「GOOD LUCK!!」でもヒロインを演じていましたが、整備工という設定が彼女の男前でツンデレな魅力を引き出していてよかったですね。どんな役をしても、頭の良さと上品さを感じる俳優の一人です。

もう一人、「すいか」で主役を演じた小林聡美さんの存在感も素晴らしかったです。彼女と脚本家の木皿泉さんの緩やかで優しい世界観は本当に相性がよくて。「すいか」のじわーっと奥深いところから滲み出てくるような感動は、派手に話題になるタイプではないですが、ファンの思いの深さはすごくて、一生忘れられない。そんな作品ですよね。小林聡美さんは普通にゆっくり流れる時間を、とても温かく伝えてくれる人。映画「かもめ食堂」や「めがね」もとても良かったです。彼女が出る作品は絶対面白い、という信頼感があります。

命を題材にする重み

男性で印象深かったのは、2003年「僕の生きる道」で主演をされた草彅剛さんです。私は、草彅さんには役者としてすごい可能性を感じているんです。派手なカッコ良さではなくても、日常をドラマチックに見せることのできる数少ない役者さんですね。悪役や特徴のある役は印象に残りやすいので演じやすいですが、草彅さんのように〝普通であること〟を魅せるのは難しい! その類稀な才能を花咲かせたのがこの「僕の生きる道」だったと思います。余命1年という重いテーマだったですが、ドラマの設定という事を忘れて悲しくなったり、応援したくなったりしましたから。

命をテーマにしたドラマということで、連続ドラマではないですが、どうしても一つ語りたい作品があります。太平洋戦争を描いたスペシャルドラマ「さとうきび畑の唄」。現在「ハケン占い師アタル」が好調な遊川和彦さんが脚本で、主演は明石家さんまさんでした。沖縄が舞台なのですが、大阪の写真館で修行していたという設定で、さんまさんのセリフは関西弁で通しています。そのせいか、とても自然でプライベートのさんまさんと家族の会話をそのまま見ている感じがしました。だからこそ、「私はこんなことをするために生まれてきたんじゃないんですよ」。この台詞が本当に悲しく重かった。私はこれを毎年夏になると学生に観せていますが、その度に、戦争の悲惨さや生きることについて考えさせられます。

今がダメでも見直される日が来る。「美女か野獣」と「WATER BOYS」

―2003年ドラマの中には、影山さんが勇気をもらえるベストシーンもあるのだとか。

「美女か野獣」の第6話「2月14日の奇跡」ですね。ハードディスクに保存していて、落ち込んだりした時は、いまだに見返して元気をもらっています。「美女か野獣」は、松嶋菜々子さん演じる敏腕プロデューサーと福山雅治さん演じる報道部ディレクターが、人気のなくなったニュースショーを立て直していくドラマです。私が大好きな第6話は、今は亡き児玉清さん演じる大ベテランキャスター桜木のエピソード。視聴率アップのためにタレント的なキャスターが起用されることになり、桜木さんは降板させられそうになるんです。ところが、突如立てこもり事件が起こり、3行程度しかない原稿を読むことしかできないタレントキャスターに対し、桜木はとっさの判断や機転を利かせて報道し実力を見せつける。これが本当にかっこいいんですよ! リアルタイムで事件が起きているので、アナウンス原稿にできる情報はごくわずか。その状態を毅然と「よろしいでしょう」と受け入れ、流れてくる映像を見て対応する児玉さんの演技は、今思い出しても涙が出ます。

この年には、男子高校生のシンクロナイズドスイミング…、今ではアーティスティックスイミングと呼ばれるようになりましたが、その実話をもとにした「WATER BOYS」もありました。こちらは若者の青春ドラマですが、格好ばかり気にせず練習を積み重ね、技術をつけた者たちが周りの評価を変えるという点では、「美女か野獣」のエピソードと通ずるものがありますね。最初はみんな冷笑していたり諦め気味に思っていたりしたものに、だんだん人が集まり、最後には拍手喝采を送るという。「美女か野獣」の児玉清さん演じるアンカーもそうですが、「今注目されていない」とか「今イケてない」とか、人はその時の一瞬で勝手に評価や印象を決めてしまう。けれど人生は点じゃないんです。線、もっと言えば面。勝負は長いですから。だからこそ若者はやりたいことに情熱を注ぎ経験を重ね、ベテランはその長年重ねた経験・知恵で乗り越える。すると、ちゃんと報われる日が来る。そんなメッセージがシンプルに伝わってくるドラマが、私は一番好きです。もがきながら必死に生きることを肯定してくれているようで、何度見返してもパワーがもらえます。

元毎日放送プロデューサーの影山教授
KADOKAWA

【ナビゲーター】影山貴彦/同志社女子大学 学芸学部 メディア創造学科教授。元毎日放送プロデューサー(「MBSヤングタウン」など)。早稲田大学政経学部卒、関西学院大学大学院文学修士。「カンテレ通信」コメンテーター、ABCラジオ番組審議会委員長、上方漫才大賞審査員、GAORA番組審議委員、日本笑い学会理事。著書に「テレビのゆくえ」(世界思想社)など。

【インタビュアー】田中稲/ライター。昭和歌謡、都市伝説、刑事ドラマ、世代研究、懐かしのアイドルを中心に執筆。「昭和歌謡[出る単]1008語」(誠文堂新光社)。CREA WEBにて「田中稲の勝手に再ブーム」連載。(東京ウォーカー(全国版)・関西ウォーカー)

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