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うつわディクショナリー#44 ふだん使いを美しく、林拓児さんのうつわ

  • 2019.2.1
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古物のような佇まいの、いま使いたいうつわ

土と釉薬の収縮率の違いにより陶磁器を焼く時に生じる貫入(かんにゅう)。その美しさを模様としてカジュアルなうつわに取り込み、料理が映える食器を作る陶芸家の林拓児さん。古き良き焼物の魅力をポットやオーバル皿に写して「ふだん」を美しく彩ります。

 

—初めて林さんの作品を拝見したのは、確か8年くらい前。伸びやかなオーバル皿がなんとも新鮮で手に取りました。

林:作家として益子の陶器市に初めて出した年だと思います。思いのほか、たくさんの人に手にとってもらうことができて、陶芸家としてなんとかやっていけるかなと続けていく力になりましたね。

 

—林さんは、そもそも何がきっかけで陶芸家に?

林:僕は、せともので知られる愛知県瀬戸市の出身で、家業が陶磁器製造でした。陶磁器といっても、いま僕がしている手で作るものではなく、機械を使って作る量産の皿やカップなどです。小さい頃から手伝っていましたけど、ろくろでする陶芸をしてみたくて陶芸教室に行ってみたんです。すると機械でする仕事とは全然違うわけですよ。初めてろくろの上で土を触って「なんて気持ちがいいんだろう」って。教室のオーナーが、何か僕の家業の役に立てばと手伝わせてくれて、毎晩ろくろの練習をしたり、湯呑みをいくつもひいて納品するような“賃引き”という仕事も受けるようになりました。

 

—その時に成形の技術を身体に叩き込んだのでしょうね。

林:そうかもしれません。そのおかげで陶芸に本気になって愛知県の窯業高等技術専門校に入り、釉薬なども学びました。

 

—卒業後にできたのが、オーバル皿?

林:自分の作品として最初に作ったのは、なんでもない丸い皿でしたね。でも、瀬戸は焼物の歴史が長いので古い焼物を見る機会が普通にあったし、古道具店をのぞいて安いけど好きなかたちのうつわを手に入れるのも好きで。オーバル皿は、中近東かどこかのリムが立ち上がっている金属器を何かで見たのがきっかけで「オーバルでこれをやったらかっこいいんじゃないかな」と作りました。

 

—伸びやかなリムの立ち上がりに愛嬌があって、ふぞろいなところにもすごくひかれたのを覚えています。

林:かたちのもととなる型を削るのに時間をかけましたね。粘土の板を型にあててひとつひとつ手でたたいて作るので、時間と手間がかかりますけど、そのやり方がふぞろいな仕上がりに直結するのでやりがいがあります。

 

—瀬戸で昔から作られている石皿のかたちをしたリム皿も、林さんならではです。

林:石皿は、江戸時代から雑器としてよく使われた皿で、骨董や古道具の店などで味のあるものを見かけたことのある人も多いと思います。ある時、リムのある丸皿をなにげなく仕上げて出した時に、地元の友人に「これって石皿?」と言われて。瀬戸で育ったから身体に自然と染み込んでいたかたちだったのかもしれませんね。

 

—見込みの深さもちょうどいい。ごった煮でも簡単なサラダでも上品に盛り付けられます。

林:古い石皿はずっしりと重い印象だけれど、いまの時代の僕が作るのだから、片手で持ってちょうど重さやバランス、見込み深さには気を配っていますね。サイズ展開も盛り皿から取り皿までいろいろ選べるように。

 

—全体に細かい貫入がある作風は、古いもののような佇まいもあって個展を開催している「夏椿」さんのような和の空間にもよく合います。

林:焼いた直後に栃渋(とちしぶ)につけることで、貫入に天然の色を染み込ませています。数年前に岡山に移住しましたが、御深井(おふけ)という現在の瀬戸や美濃地方の釉薬や高杯のような古典的なかたちにも興味がでてきて。どこにいても古き良き焼物から得るものと自分らしさのどちらも大切にして作っていけたらと思っています。

 

※2019年2月11日まで鎌倉の「夏椿」にて「林拓児 個展」を開催中です。

 

今日のうつわ用語【瀬戸物・せともの】

陶磁器の通称として使われているが、もともとは愛知県瀬戸市に産する焼物が国内に広く行きわたり、やがて東日本を中心に陶磁器の総称として使われるようになった。

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