1. トップ
  2. 赤ちゃんの目「いつから見えてる? 視力はどうはかる?」【榊原先生、教えて! 子どもの体の不思議 第1回】

赤ちゃんの目「いつから見えてる? 視力はどうはかる?」【榊原先生、教えて! 子どもの体の不思議 第1回】

  • 2019.1.27
  • 22027 views



子どものお世話をしていると「子どもの体って不思議だなあ」と思うこと、たくさんありますよね。

例えば、赤ちゃんの目。顔をのぞきこむと、こちらをジッと見つめているような気がしてきます。そんなときに思うのが「赤ちゃんはモノがどのくらい見えているんだろう?」という疑問ではないでしょうか。

赤ちゃんの視力はどのくらいあるのか、また言葉を話せない赤ちゃんの視力をどうやってはかるのか。そうした子どもの体にまつわる疑問に回答してくださるのが、小児科医でありお茶の水女子大学名誉教授・榊原洋一先生です。

今回は、榊原先生に「子どもの目」にまつわる不思議を教えてもらいました。


お話をうかがったのは…

医師・お茶の水女子大学名誉教授
榊原洋一先生

お茶の水女子大学人間発達教育研究センター教授。東京大学医学部卒業。専門は小児科学、小児神経学、発達神経学など。小児科医として発達障害児の治療にかかわる。著書は『大人が知らない子どもの体の不思議』(講談社)など多数。



■赤ちゃんの視力はどのくらい?

――榊原先生、本日はどうぞよろしくお願いいたします。早速ですが、生まれたばかりの赤ちゃんの「目」に関する疑問があります。ママなら誰しも思ったことがあると思うのですが、顔を近づけると、ジッと見つめているようなときもあるし、見ているのか、見ていないのか分からないときもあって…。赤ちゃんはどのくらいモノが見えているのでしょうか?

榊原洋一先生(以下、榊原先生):生まれたばかりの赤ちゃんは人の顔やおもちゃが目の前にきても追わない、焦点があっているように見えないので「目が見えない」と信じられていたんですね。

でも、近年の行動観察などによって、目の前から大体数10cm程度のものは「ぼんやりと見えている」ことが分かってきました。

――自分に近い距離にあるものは、ぼんやり見えているんですね…。

榊原先生:そうです。生まれてすぐのころは近視に近い感じなのですが、生後5~6カ月を過ぎると、ぼやっとした輪郭のようなものが見えてくるようです。

――生後5~6カ月くらいで輪郭のようなものが見えるようになるんですね。視力であらわすと、大体どのくらいになりますか?

榊原先生:出生時の視力は0.02~0.03といわれています。それが1歳ごろになると、0.2~0.4くらいになる。そして3歳ごろには1.0以上になると考えられています。もちろん輪郭だけではなく、赤ちゃんは色も見えていますよ。

■赤ちゃんの視力、どうやって調べるの?

――3歳くらいで1.0くらいの視力になるんですね…! ちょっと疑問なんですが、赤ちゃんの視力ってどうやってはかっているんでしょう? 私たちが視力をはかるときは、アルファベッドの「C」がいろんな方向を向いた表を使って、Cにすき間が開いている部分を「右」「斜め左」などと伝えて視力を検査しますよね。でも赤ちゃんは言葉が話せません。一体どのような方法で調べられているのでしょうか?

榊原先生:視力は「赤ちゃんならではの性質」を利用して測定されています。

――赤ちゃんならではの性質…?

榊原先生:そうです。赤ちゃんは何も書いていない紙より、縞模様が書いてある紙のほうをよく見つめる、という性質があるんですね。この性質を用いた視力の調べ方を紹介しましょう。

まず赤ちゃんに2枚の紙を見せます。片方は灰色の紙、もう片方は縞模様が描かれた紙です(いずれも明度は同程度)。当然、赤ちゃんは縞模様の紙を長く見つめますよね。

――…はい。

榊原先生:そこで見せる縞模様の幅を段階的に、だんだん狭くしていくんです。各段階で縞模様の紙を見つめている時間も、それぞれ記録します。そして、灰色の紙を見つめる時間と比較してみるのです。

――なるほど! その差を見ることで、視力をはかるということですね。

榊原先生:そうです。当然最初は縞模様を見つめる時間のほうが長いですよね。でも縞模様の幅を狭くしていくうちに、見つめる時間が短くなってくる。大人も縞模様がどんどん細かくなっていくと、模様がだんだん見えなくなって、ただの灰色の紙のように見えてきますよね。

赤ちゃんも同じで、縞模様を模様として判別しなくなってくる。縞模様を見つめる時間と灰色の紙を見つめる時間が同じになったときが、赤ちゃんの「視力の限界」を示すことになるのです。

――考えた人、すごいです…!

榊原先生:そうして調べたことで「新生児の視力は0.02~0.03くらい」というような具体的な数値が分かるようになったんですね。

――「赤ちゃんは無地より縞模様をよく見る」という性質があるなんて、おもしろいですね…!

榊原先生:縞模様もそうですが、赤ちゃんは人の顔を一生懸命見る特性があるのも分かっているんですね。

縞模様と顔を見せると、顔のほうをよく見るんです。だからお母さん、お父さんのなかには「こっちをよく見るな~」と感じる人がいるかもしれませんが、顔や目元、口元をよく見るというのは本当。実験結果でもそうした特性があることは分かっていますね。

――赤ちゃんは人の顔をよく見るなと思っていましたが、それも赤ちゃんならではの特性だったんですね!





■赤ちゃんの白目「青く見えるのはどうして?」



――先生、目に関することでほかにお聞きしたいのが「子どもの白目が青く見える」ことです。何か理由があるのでしょうか?

榊原先生:ではまず、目の仕組みについて少し説明しましょう。白目は結膜という透明な膜でおおわれています。そして、結膜の下にはさらに強膜という膜がある。さらにその下には脈絡膜というのがあって、細い血管が網の目状に走っています。

――白目の部分って、いろいろな膜が何層も重なっているんですね。

榊原先生:そうですね。乳児の白目の強膜には、ある特徴があります。それは「大人と比べて厚さがとても薄い」ということです。だから強膜の下の脈絡膜を流れる血管の色が透けて見えるんです。これは静脈ですね。だから、白目の部分が青く見えるんです。

――なるほど! 青く見えているのは、血管の色が透けていたからなんですね。でも大人になっても白目が青い人ってあまりいない気がします。子どもならではの現象なんでしょうか?

榊原先生:大人になると、白目はやや黄色くなってきます。これは年齢とともに、肌のシミと同じ物質が沈着していくからです。

――シ、シミ…! 目にも沈着するんですね(焦)。

榊原先生:はい。それで、加齢と共に白目はやや黄色味がかってくるんですが、子どもの場合はまだ沈着がないので、大人に比べると青っぽく見えるようですね。

小児科医である榊原先生のもとには、子育ての悩みや行動に関する相談がたくさん持ち込まれるそうです。それは、子育て経験の豊富な人がまわりにいなかったり、子育てや子どもの病気などを気軽に聞くことができなかったりする環境にある家庭が多くなっているからかもしれません。

榊原先生は、そうした現状を踏まえ、子育て中の親が抱くであろう子どもの体と心に関する「答えが見つかりにくい質問」に真摯に向き合っています。

今回は、子どもの「目」にまつわる疑問についてうかがいました。赤ちゃんならではの性質を知ることは新鮮であり、ちょっとした疑問も答えが分かることで「そういうことだったのか」と子どものことを理解できたような気がします。

次回は、「子どもの頭はなぜ大きい?」「顔つきが変わるってどういうこと?」など、子どもの顔や頭に関する疑問について、榊原先生にお話をうかがいます。お楽しみに…!

参考図書:
『大人が知らない子どもの体の不思議』(講談社)
榊原洋一著


子どもと大人はどう違うのか。それは単に大きさだけの違いではありません。どうして夜泣きをするの? どうして寝相が悪いの? どうして落ち着きがないの? 子育て中に親が抱く「答えが見つかりにくい質問」にエビデンスの精神で解答することを試みました。子どもの心と体の不思議を理解する、手助けとなる一冊。



(すだ あゆみ)

元記事で読む
の記事をもっとみる