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うつわディクショナリー#43 マダムたちが見守る今井律湖さんのものづくり

  • 2019.1.21
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うつわを飾ることも、使うこと

マダムがドレスをまとったような人型の蓋物(人ポット)で人気の陶芸家、今井律湖さんは、イギリスの大学で陶芸を勉強し、現在は益子で作陶。

さまざまな人種が集まる異国でものづくりを経験した彼女のうつわは、和でも洋でもあり、使うものでも飾るものでもある、自由な発想による表現が魅力です。

 

—ひとつひとつ顔の違う人型のポットは今井さんの代表作。気の抜けた顔、空を見つめた表情など、ちょっぴりシュールなところにひかれます。

今井:笑顔だけではない表情に親近感を感じられるのかもしれませんね。私はイギリスの大学で陶芸を学んだのですが、移民との文化の違いから起きる社会問題を日常的に見聞きしていて「なぜ人は自分と違う存在を受け入れることができないのか」と虚しい気持ちになることがあったんですね。それがきっかけで人をモチーフにした作品を作った経験がこのポットに繋がっているんです。

 

—いろいろな顔があってこそ世界は成り立ち楽しみもある。エキゾチックな絵皿にもそんな今井さんの思いが感じられますね

今井:幼い頃から絵を描くことは好きだったんですが、思い返せば「色の使い方が素敵だね」と褒められることが多かった気がするんです。自分が得意なものを知り、それを認めてもらえた記憶って大人になってもどこかで自分にとっての拠りどころになっていたりするんでしょうね。うつわを作るようになった時、絵を飾るような感覚で使うお皿があってもいいのではないかと考えるようになって、絵柄や色を工夫するようになりました。

 

—オリエンタルなマーケットにありそうな絵皿です。こだわっているところは?

今井:古代オリエントと言われる紀元前のエジプトやイラン、シリア、イラクの美術がすごく好きで、それらに登場する動植物のモチーフを私なりにアレンジして自由に描いています。

 

—人ポットも絵皿も、飾って楽しみ、使って便利なアイテムです。今井さんの中で使うことと飾ることの間に境界はありますか?

今井:一見、境界がないように見えるかもしれませんが、絵皿は飾ってもらうことを第一に。「もしよかったら食卓でも」という意識で作っています。イギリスに滞在中に、何度かマナーハウスやお城を見学したんですが、キッチンやダイニングには、必ず、絵皿を見せながら収納できる棚がありました。私の絵皿をきっかけに、うつわを飾りながら楽しむことを始めてもらえたら嬉しいですね。反対にオーバル皿や小皿は、完全に日本の食卓で使われることを意識して作っています。

 

—作品の中には、オーバル皿も数種類あるので和洋の垣根はないのかと思っていましたが……。

今井:おっしゃるように、私の中でうつわに和洋の垣根はないんです。でも和洋に関わらず使いやすさについて、日本人はとてもシビアだと感じているので、日本の食卓で使いやすい形や大きさになっているか、特に軽さには気を配っていますね。日本には、手持ちが軽いということについてポジティブなイメージを持つ人が多いような気がします。個人的には、古い陶器にあるようなすこし重いくらいのうつわも好きですが、作る時は、使う方の気持ちに立って考えることを大切にしています。

 

—うつわを通して何をしていきたいですか?

今井:陶芸には、直接土を触って頭の中にあるイメージをかたちにできる自由さがあります。土の種類も成形の技法もさまざまで、表現の可能性が無限にあるように思えてなりません。だからこそ、やりたいことにどんどんチェレンジしていきたいですね。そうやってポジティブに作っていると、自分では予想もしなかったお声がかかって作品の幅が広がっていく。私が作るもので、面白いことが起こり、人が繋がっていくきっかけになるのも嬉しくて、これからもいろいろなものを作っていきたいと思っています。

 

※今井さんの作品は、オンランショップIBEや益子陶器市(5月、11月)ほか、ギャラリーの個展にて購入することができます。

 

今日のうつわ用語【古代オリエント・こだいおりえんと】

現在の中東地域に興った古代文明。古代エジプト、古代メソポタミア(現在のイラクやシリア)、古代ペルシア(現在のイランやアフガニスタン)など、紀元前4世紀から紀元前4世紀頃までをさす。

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