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恋する資格と幽霊部員【彼氏の顔が覚えられません 第18話】

  • 2015.3.12
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何を考えているのかわからないたくさんの顔に、一斉に見られているという状況。あまり気持ちのいいものではなかった。いや、表情が読めた方が、よほどプレッシャーなのだろうか。

どちらにしても、正直に言うしかなかった。

「私はべつに、先輩のこと好きじゃありません」

堂々と、2年の先輩の告白を台無しにしてしまう言葉を。

ドッとわく宴会場。「うわ、フラれた!」「まじダッセェ! 最高!!」「ひーっ、ひーっ、腹イテェ!!」。

当事者である2年の先輩も、次の瞬間、へなへなへな、という感じに肩を左右に揺らしながら、膝を曲げて縮こまった。やがて上体が後ろに倒れ、背中がぴったり床にくっつく。完全に崩れ落ちている。そのコミカルな動きは、さらに周囲の笑いを誘った。

ちょっとホッとした。これでなんとなく、丸く収まった気がした。

宴会が終わって寝室に戻る。女子同士、4人の部屋。クジで決まっただけのあまり馴染み無いメンバーだったし、午前3時くらいだったから、「いい加減寝なきゃ」って言って。特にガールズトークをすることもなく、歯磨きをして布団に入り、電気を消して。

すでに2人が寝息を立て始め、私もだんだん意識が途切れかかっているとき。急に肩を揺すられ、一気に目が覚めて。

「うん…なに?」

そう言いつつ目を開けると、相手の顔は異様な近さにあって。小さな電灯が点いていたから、髪が長いのと、浴衣を着ているのはわかった。でも、失顔症の私でも区別できるそれらの情報は、この場では全く意味をなさなかった。

髪が長いのは、ふだんツインテールにしている子も、ポニーテールの子も、ストレートな子も、みんな寝る前にほどいていたから区別のしようがなかった。浴衣だって、二色分かれていたはずだけど、暗くて何色なのか判断ができかねた。

誰だかなんて、わかるわけなくて。ただ、彼女が抱えている重々しく恨み深い感情だけは、その声から伝わってきた。

「なんであんたみたいなのがモテるわけ。あんたなんか、恋する資格もないクセに…よくもまぁ堂々と、○○先輩のことフッて…それで平気な顔していられるもんだわ」

○○先輩というのが誰のことか、一瞬よくわからなかった。その日、私からフラれた2年の先輩のことだと気づいたときには、彼女の手に首をしめられていた。

死を悟るようなものすごい力。わけがわからぬまま、私は逝ってしまうのだ。

でも次の瞬間、部屋の扉がコンコン、と鳴って。首をしめる手の力は急になくなり、本人も慌てて私から離れ、ガサゴソと自分の布団の中に潜っていった。

どっち方面の布団に潜ったか見ていれば、まだ犯人を特定することはできたかもしれない。けれど私は放心中で、それどころじゃなかった。

扉の向こうからは、「ねぇ、だれかまだ起きてないのー」という女性部員の声が聞こえた。その直後に、「ホラ、もうみんな寝てるって。無理に後輩たち起こしちゃかわいそうだってばー」という別の声も。

声の主たちは、じきに去っていった。そして首をしめた部員も、もう襲ってくることはなかった。犯人も詮索できないまま、私は意識を落としてしまった。

なんとか命は助かった。けれど、そんな危険な目にあった上で、それ以上部活に身を置いておきたいとは思わなかった。

それ以来私は、部活に顔を出さなくなってしまった。人間としてしっかり生きてはいるけど、部員としては完全に死んでしまった。幽霊部員になってしまったのだ。

(つづく)

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(平原 学)

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