1. トップ
  2. 沸き起こる想像力。調香師、ジャック・キャヴァリエの新たな挑戦。

沸き起こる想像力。調香師、ジャック・キャヴァリエの新たな挑戦。

  • 2019.1.11
  • 280 views


沸き起こる想像力。調香師、ジャック・キャヴァリエの新たな挑戦。
2019.01.11 17:00
2016年に誕生。早くもラグジュアリー・フレグランスを牽引する存在となった、ルイ・ヴィトンの香り。優雅かつ時代をとらえた香りを創るのが、名調香師、ジャック・キャヴァリエだ。来日したキャヴァリエに、彼のクリエイションの秘密を聞いた。

感情を記憶し、香りという形に昇華する。


祖父の代から調香師の家系に生まれ、数々の名香を生み出してきたジャック・キャヴァリエ。

「子供の頃から香りに関する教育を受けて育ちましたが、とりわけ幸運だったのは、クリエイティビティについて、『あなたにも何か新しいものを創り出せる』と指し示してもらえる環境にいたこと。さらに、多くの出会いがあったこと。出会いのひとつは父。父からは、勇気を持って挑戦せよ、常に自分らしくあれ、と教えを受けました。またもうひとつの印象的な出会いが三宅一生さん。彼からはクリエイティビティについて、実に多くの影響を受けましたね」


そんなキャヴァリエがルイ・ヴィトンのインハウス・マスター・パフューマーに就任して、まもなく7年を迎える。「ルイ・ヴィトンのフレグランスは、常に最高水準の原料を用いています。その原料を用いて、ボトルを開けたときサプライズを感じるような香りを創りたいというのが私の望みです。とはいえ、万人に気に入られるものを、と思っているわけではありません。すべての人に好まれるようにと考えれば、結局、誰の心にも通じない香りになってしまうからです。私たちのフレグランスには、ひとつひとつに際立った個性があります。そうした個性をみなさんに発見してほしいし、『やめられない、中毒になる!』と思うくらい愛してほしいのです」


キャヴァリエがクリエイションの際に重要視しているのは、インスピレーションを受ける力だ。

「いつも目を開き、嗅覚を解放し、脳をオープンにして、時々に覚えた感情を自らに記録しておくのです。たとえば街で素敵な女性を見かけたら、彼女のシルエットや魅力をイメージとして自分の中に刻み込んでおく。そのイメージは、どんな形でかはわからないけれど、あるとき現実の形、フレグランスという形をとることになる。つまり抽象的なものが物質的な香水として再構成されるわけです」

コントラストこそが、フレグランスの洗練の源。


彼の創る香りは、相反する要素を含むものが多いようだが……「相反するというよりは、コントラストですね。日本料理で、魚にワサビというように、淡白な素材にスパイシーな素材を合わせるのと同じです。その好例がアトラップ・レーヴというフレグランス。カカオにほんの少しのジンジャーでスパイシーさや爽やかさをプラスし、そこにレモン、柚子を加え、さらにピオニーというフローラルを入れることでコントラストが生まれます。こうしたコントラストによって、香りが洗練され、忘れられない経験に高められるのです」


デビューして2年、日本でも愛用者が多いルイ・ヴィトンのフレグランス。日本の女性は香りに対して消極的と言われるが、と問いかけると「日本人の嗜好も変化していると感じています。確かに以前は爽やかな香りや、ある種均一な香りが好まれていました。でも最近では、どこかに爽やかさがありつつも、ユニークさ、個性が求められる。この傾向は若い人に顕著で、フレグランスを楽しむというトレンドが生まれてきているように思います。香りにルールはありません。昨日もアポジェというフローラル系のフレグランスをつけている男性にお会いしましたが、素敵だと感じました。その香りが好きなら、自由につけてよいのです」


インタビューを終えようとすると突然、「フレグランスに『カワイイ』の要素は絶対に必要なんですよ」と言い出したキャヴァリエ。

「アジア人はカワイイが好きだけど、私たちもそう。特に最近、世界の世相が暗いですよね。今は、フレグランスから呼び起こされる優しい感情が必要とされている時代なのです」


洗練、個性、そして“カワイイ”を含む、さまざまな感覚。多様さを内包するラグジュアリー、それがルイ・ヴィトンのフレグランス。彼の言葉と香りから、それがダイレクトに伝わってくる。

Text: Nobuko Irie photos: Ko Tsuchiya Editor: Toru Mitani

元記事で読む
の記事をもっとみる