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新年の抱負は、なぜ達成できないのか? その謎を解く。

  • 2019.1.11
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新年の抱負は、なぜ達成できないのか? その謎を解く。
2019.01.11 12:00
「新年の誓い」を立てた人のほぼ全員が、それを守り抜くことなく、途中で挫折してしまっているというアメリカの統計がある。達成することが難しいと分かっていても、なぜ私たちは、目標を掲げては挫折し……というサイクルを繰り返してしまうのか? 新しい年を迎えてやる気に満ちている人々が、過度なプレッシャーに押し潰されないためにも、専門家の知見を交えながら、新年の誓いとどう向き合うべきかを考察した。


新しい年が明けると、つい新年の抱負なるものを立てたくなる。けれど、それを一年に渡って実践したり実現するのは、そう簡単なことではない。映画『ブリジット・ジョーンズの日記』の冒頭で、主人公のブリジットが、信念の誓いとして「お酒を減らす。あ、それと禁煙!あとは新年の誓いを守ること」と言って、ため息をつくシーンに共感した人も多いだろう。


年の初めにはいつも、「新しい自分になる!」ことを促すような記事や広告が押し寄せてくる。そうした波に押されて、今年はヴィーガンになる! とか、プラスチックの使用量を減らす! とか、砂糖を摂るのをやめる! とか、今年こそジムの会員になる! といった誓いをつい立ててしまうけれど、それも仕方がない。自己実現や自己改善への意欲は、世界的に見てもさらに高まりを見せているからだ。RunkeeperやMyFitnessPalといったアプリには、数百万人ものアクティブユーザーがいるし、自己啓発本は相変わらずの人気だ。ウェルネス関連のポッドキャストも、新たな黄金時代を謳歌している。


しかし、誓いの意図が素晴らしいほど、結果として生じるプレッシャーに飲み込まれそうになるのもまた事実。ではなぜ、人々は果てしない期待と失敗のサイクルを続けてしまうのだろう?

誓いを立てた数日後に、大勢が挫折している!?


新年の抱負を立てるという伝統は、約4000年前、古バビロニア時代にまで遡る。古バビロニアの人々は、年の初めになると神々に誓いを立てており、ユリウス・カエサル時代のローマ帝国でも、その習慣は一般的だった。キリスト教徒やユダヤ教徒は、年ごとに自己改善を追求していたことから、宗教にも通じるものがあったのかもしれない。この歴史が、現代にまで脈々と受け継がれてきたということになるが、面白いのは、誓いの内容が地域ごとに大きく異なることだ。


Google Mapが2012年に行ったZeitgeistというプロジェクトは、ユーザーに新年の誓いをシェアしてもらい、それを地図上に表示するというもの。結果として、誓いの内容に微妙な文化的差違があることが明らかになった。たとえば、アメリカの回答者は健康にまつわるもの、インド亜大陸の回答者はキャリアアップ、そして、ロシアのユーザーは教育に関連する誓いを立てる傾向があった。しかし、こうした誓いを守り通せる人は、実際のところいるのだろうか?


2012年にJournal of Clinical Psychologyで発表された研究によれば、新年の抱負を立てるアメリカ人は、全体のほぼ半数に上る一方で、実際に守り通せる割合はたった8%だったという。しかも、誓いを守り通せなかった人々の多くが、立てたばかりで躓いてしまったというのだ。また、アスリート向けのソーシャルメディア、Stravaが実施した調査によると、例年、1月12日ごろに、ほとんどの人が新年の誓いを挫折してしまう傾向にあるという。一方、ComResが世界的医療保険会社のBupaのために実施した調査では、イギリス人の43%が、1ヶ月も経たないうちに新年の誓いを破っているという結果が出た。その年に誓いを守り通したイギリスの成人の割合は、わずか12%だった。

いかに気持ちを立て直すか。


アメリカのスクラントン大学の心理学教授であるジョン・C・ノークロスは、その原因は「節制違反」にあると考えている。節制違反とは、自発的に何かをやめた後、もう一度それをやってしまった時に起こるネガティブな認知的反応のこと。ノークロス教授はこう解説する。


「予算の範囲内で6週間過ごした後、予算をオーバーしてしまったとしましょう。その時あなたは、『もうだめ、おしまいだ』と嘆くかもしれませんが、最初の躓きにどう反応するかで、その後、立ち直れるかどうかが大きく左右されるのです」


教授がいうように、「もうだめ、おしまい」と思った人は、そのまま諦めてしまう傾向が強い。事実、新年に壮大な誓いを立てるという習慣は、それを達成できないと自覚することと表裏一体であることが、データからも見えてくる。Bupaが2,000人を対象に新年の誓いを守れると思うかどうかを尋ねた調査で、回答者のうち半数が、できるかどうか自信がないと回答しており、そのうち20%は、ハードルを上げすぎたため、守り通せない可能性があることを自認していた。

放縦と節制を繰り返す私たち。


ここまで聞けば、新年の抱負を立てるという行為自体が、あまりに非生産的に思えてくる。けれどそれは、自己改善に取り憑かれた社会を象徴する一つの兆候とも言えるだろう。今や私たちは、世界中の人々の、理想化され、注意深く選別された日々の断片のイメージをソーシャルメディア上で毎日目撃し、それに感化されて生きている。さらにそれを後押しするように、「Veganuary(ヴィーガンの1月)」や「Dry January(禁酒の1月)」、「Stoptober(禁煙の10月)」に「Movember(運動の11月)」など、絶えざる犠牲と自制を必要とするスローガンが、どこからともなく現れてくるのだ。


『ガーディアン』紙のコラムニストであるブリジ・ディレイニーは、2017年の著書『Wellmania: Misadventures in the Search for Wellness(ウェルマニア:ウェルネスを探求する上で起こりがちな災難)』の中で、不節制と後悔のサイクルについて、こう書いている。


「現代を生きる人々の多くは、退廃極まりない日々を生きていると言える。彼らは、『放縦』と『自発的な節制』のサイクルを目の回るような速さと頻度で繰り返している。たとえば、2月の毒抜きを前提にしたクリスマス休暇の暴飲暴食、あるいは、マルチタスクの合間に、瞑想アプリなどを使って短い休憩を取るなど」

変化とは徐々に起こるもの。


なんとも耳の痛い話だが、結果として、守れなかった新年の誓いは不安の燃料となり、人々は十分に取り組めなかったという後悔に苛まれることになる。こうしたことから、2009年、メンタルヘルスのチャリティー団体であるMindは、年初を誓いでガチガチに固めるのをやめるよう呼びかけた。Mindの最高責任者であるポール・ファーマーは、こう分析する。


「私たちは自分の欠点を自覚し、そのことで自分自身を責め、行動を変えるために非現実的な誓いを立てます。だから、誓いを守れないのは当然のことで、結果的に、誓いを立てる前よりも気分が落ち込んでしまうのです」


もちろん、新年の誓いを立てることが無意味で達成不可能だといっているわけではない。けれど、いまの時代のスピードを考えると、1年という長さではかえって望む結果を得づらいのかもしれない。『The Power of Habit(習慣の力)』の著者チャールズ・デュヒッグは、断ち切りたい悪習があるなら、新年の誓いではなく、もっと長期的な計画を考えるべきだと語る。彼は続ける。


「マラソンを走るというような遠い目標を立てることよりも遥かに重要なのは、今すぐ始められる直近の計画を立てること。変化とは本来、徐々に起きるべきものであり、根拠もなく決めた期限に縛られるべきではないのです」


『ブリジット・ジョーンズの日記』の終盤になっても、ブリジットは飲酒量を減らすことができず、禁煙もできず、目標体重にも届かずじまいだった。しかし、彼女が実際に達成したことの大きさを考えれば、そんなことでくよくよする必要はないのだ。

Text: Radhika Seth

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