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“泊まれる本屋”ができるまで 「ブックアンドベッド」大阪進出までの半年間(後編)

  • 2018.12.18
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不動産会社のアールストアが運営する“泊まれる本屋”「ブックアンドベッドトウキョウ(BOOK AND BED TOKYO)」が13日、大阪・心斎橋(大阪府大阪市中央区東心斎橋1-19-11 ウナギダニスクエア 3階)に大阪初店舗をオープンした。京都と福岡、東京の3店舗(池袋・浅草・新宿)に次ぐ6店舗目で、価格はシングルが5200円〜、ダブル8400円〜、スーペリアルーム1万2000円〜。今回も「シブヤ パブリッシング アンド ブックセラーズ(SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS)」が選書を担当し、カフェのメニューを「sour」と共同開発した。今でも過去5店舗が満室も出る人気ぶりという「ブックアンドベッド」の成功の秘けつを探るため、事業を担当する力丸聡アールストア新規事業部部長の大阪進出半年間を追ったコラムを前後半に分けて紹介する。(前半の記事はこちら)

“泊まれる本屋”に欠かせない、コラボパジャマ制作秘話

前編で紹介した本の選定とともに「ブックアンドベッド」に欠かせないコンテンツが、店舗ごとに異なるコラボパジャマだろう。「ブックアンドベッド」では6店舗とも全て「ノウハウ(NOWHAW)」というブランドとのコラボで宿泊者用のパジャマを製作してきた。店舗ごとのコンセプトに合わせてデザインが全て異なり、限定数の販売を行えば毎回完売する状況だ。

打ち合わせ予定時間に着くやいなや「もう終わりました!」と力丸聡・新規事業部部長。カフェでは「ノウハウ」を手掛ける十河幸太郎デザイナーと妻の十河美紀プロデューサー、そして2人の子どもたちが迎えてくれた。なんと5分で会議が終了したらしい。やはり、早い。

「ノウハウ」は6年前に十河夫婦が立ち上げたパジャマブランド。読書が好きな十河デザイナーが本の収まるポケットのついたパジャマを作ったという経緯もあり、両者が意気投合したところからコラボが実現したという。力丸部長は、「基本的に僕はYESマン。信頼度が高く、どんなものを作るかは彼に任せているから打ち合わせもすぐ終わるんです(笑)」と話す。大阪店でのパジャマは東洋らしさを取り入れた“オリエンタル2”というパジャマをベースに、阪神タイガースから着想を得た(?)ストライプ柄をのせる予定だそうだ。一方の十河デザイナーも、「力丸さんはPRの天才。われわれはモノ作りのプロだけど、彼はきちんとバズらせる方法をわかっています。商品ができた後の撮影のアイデアは彼に任せています。あと、最初から無理をしないというのが僕らのルールです」という。

なぜ、ホテルごとにオリジナルのパジャマを作り続けるのか。十河デザイナーいわく、「コラボのいいところはお互い、ある種“相手のせい”にできるところなんです。普段ブランドとしてはしないような打ち出し方も特別なコラボならできる。例えば“外でも着られるパジャマ”というのは『ブックアンドベッド』とのコラボだからこそ出てきたアイデアです。普段のブランドでは部屋着を想定しているので、そんなことを考えることはありませんでしたから」。

力丸部長は、「コラボパジャマの値段は2万円。泊まってくれた人はこれを着ることができるんですが、いつも宿泊者に『このパジャマ2万円もするんですよ』と伝えるよう現場に言っています(笑)。宿泊代よりパジャマの方が高いって、面白くないですか。いいものを着て寝るというのはいい体験になります。『ブックアンドベッド』はただの寝る場所ではなく、眠りの体験をきちんと作りたかった。だからこうしたコンテンツを作るんです」。

いよいよ内装が完成、最後の要はSNSを使った採用活動!?

11月になると、力丸部長からオープン日が決まったと連絡をもらった。内装も無事完成したようで、今回はこれまでの木目調のイメージとは全く異なる、真っ白の空間になったという。「僕はブランドイメージを作る際に、いつも相手の頭の中で何が起きたら楽しいかを考えていて、ある程度驚きがあることが大切だと思っています。今回もその驚きという点で、思い切って方向性を変え、真っ白にしてみました」と力丸部長。内装最大の特徴は、初めて併設されるバルコニーと建物中央に作られたピラミッド状の本棚だ。「山に登ることってすごくワクワクしますよね。てっぺんで本を読むのって楽しいはずだと思って、ピラミッドを作りました。大阪ならこの突拍子もないアイデアを受け入れてくれるかなと思って(笑)」。

オープン前、力丸部長がとにかく力を入れたのは採用だった。「採用はブランドの世界観を表現する上で内装以上に重要なこと。公募もしたんですが、実は半分以上は僕がインスタグラムで見つけた子たちに直接ダイレクトメッセージで声をかけました。インスタグラムってその子の服装や雰囲気を見られるだけじゃなくて、コメントをきちんと返していたり、マメに投稿していたりすれば、見られることを分かった上での表現ができそうだとか、接客ができそうとか、そういうものがわかるんですよね。多分大阪のインフルエンサーは全員知っているんじゃないかというくらい、100時間以上かけてインスタグラムをチェックしました(笑)」。

インスタグラムを採用に使うことにも驚きだが、理由を聞けばたしかに納得で、実際にこれまでの店舗でもSNSを活用した採用活動は行ってきたらしい。採用時にフォロワー数は意識しないが、こうしたマメな運用ができる子にはファンがつきやすいらしく、結果として大阪店に勤める子たちのフォロワー数は合計15万を超えたという。

こうして4カ月におよぶ密着もいよいよ終了ということで、13日のオープンに合わせて大阪店を訪れた。これまでの店舗とは異なる真っ白な内装も違和感はなく、非常に居心地よく感じた。また、SNS採用のおかげもあってか、店員は皆気さくでコミュニケーション力が高く、訪れる外国人ともすぐに打ち解けている様子が印象的だった。過去の店舗と比べても、内装・店員の方向性・ブランディングがしっかり統一されているようだ。半年間見てきた力丸部長の気さくな人柄がそのまま店舗に反映されているような気もする。

オープンは平日にも関わらず、お昼時にはカフェに多くの人が訪れていた。しかも、アジアからの旅行客が大半を占めている。一番人気は特製の“こぼれるラテ”(税込550円)と“こぼれるフルーツサンド”(同580円)。話を聞くと、彼らはSNSを見て来店するのだという。連泊予約をする外国人旅行客も多いらしく、オープンしたばかりにもかかわらず、海外からこれだけの信頼と注目を集めるブランド力はさすがだなと感じた。今後はSNSを通じてさらに口コミが増えるだろうし、そのためのコンテンツも従業員も抜かりなくそろっている。振り返ると、今の時代らしい店舗というブランドの作り方のヒントがいくつも見えた半年間だった。

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