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津南・ゆきんこ遊びのあとは、温泉でぽっかぽか

  • 2015.3.8
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二十四節気の啓蟄(けいちつ)を迎え、そろそろ地中から虫も這い出してきそうな気配ですが、雪国といわれる地域はまだまだ冬景色。世界有数の豪雪地帯である新潟県中魚沼郡津南町は、今年も多い所で3mを越える積雪になりました。2015年3月のことりっぷweb連載「暮らしと、旅と...」は、春の訪れを待つ津南町へ豪雪地の暮らしと文化を体験しに出かけます。見渡す限り真綿に包まれたような白色。上越新幹線越後湯沢駅からは車で1時間弱のところにある津南では、連綿と続く雪国の暮らしを体感できる場所がありました。

「積雪量の多さで毎年必ずどっかで全国放送や全国紙に出るべ。そうすると、どっこへも出らんねぇと思ってる人が多いみてぇだども、そーでもねぇんだどものし(訳:積雪量の多さで毎年全国メディアに出てしまうため、どこへも出られないと思っている人が多いみたいだけど、そうでもないわよ)」とは、津南のお母さん方談。私が訪れた2月中旬は快晴で、空は青く広がり、白い雪とのコントラストがなんともいえず美しかったのでありました。このような景色に旅人はうっとりとしてしまうのですが、地元の人たちはせっせと雪かきに精を出しています。住む場所が違えば、違う風景が見られるのも、暮らしの視点で旅する醍醐味。津南町や十日町、湯沢町あたりは、冬は「雪国観光圏」として雪国ならではの文化体験をする旅ができるのです。 道中、車の外を眺めて驚いたのが雪かきに菅笠をかぶっている人の多いこと!現代においてまだまだ菅笠が現役だなんて。スゲで編んだ菅笠は、日よけ、雪よけ、通気性も抜群、オールシーズン使える優れものだと地元の人はいいます。津南町の繁華街にある商店の軒先には普通に菅笠が並んでおり、観光客が気に入って試し、買って帰る人も多いのだとか。津南では一家に2、3つはあるそうだから、これぞ暮らしの道具といったところなのでしょう。

津南では、今年から菅笠や民具として使われていた蓑やすげぼうしなどをつけて、雪道を散歩する「津南ゆきんこ散歩」が始まりました。ゆきんこ姿で雪のなかを歩くワークショップも開催され、参加した外国人の皆さんに大変好評だったとか。日本の雪国ならではの装束で異国情緒をたっぷり感じられるとなれば、外国人だけではなく観光客のSNSネタにもってこいでしょう。冬の北越地方について描かれている江戸期の名著「北越雪譜」に「わらは寒をふせぐもの」と書かれていますが、ワラならぬ水に強いタヌキラン(カヤツリグサ科スゲ属の多年草)で出来たすげぼうしを実際に着てみるといったいどんなだろうと私も興味を持ちました。

早速、津南ゆきんこ散歩を行っている信濃川の河畔にある温泉宿「しなの荘」へ。入り口に蓑、すげぼうし、かんじき一式が置いてありました。 まずはすげぼうしを頭からかぶり、ボタンなどがないので風に吹き飛ばされないよう、片手でしっかりとぼうしの端をあわせて持ちながら歩きます。「しなの荘」の女将さんが描いた地図を持って近所を散策すると、「お~やってるね~」と通りすがりのおじさんに声をかけられました。「おじさん、これ、小さい頃にかぶっていた?」と聞くと、「小さい頃、傘は高級品だったからね~。冬は毎日これで学校に行ったよ~」と懐かしそうな表情を浮かべました。津南の家庭では、すげぼうしを玄関口に置いておき、外に出るときにさっとかぶって近所や学校まで出かけるために使っていたのだとか。雪はぼうしを伝って滑り落ち、少々濡れても素材が乾きやすいので天然の雨具はとても優秀です。

「すげぼうしはをかぶって歩いているとあったかいので防寒着にもなります。冬の変わりやすい天候もこれか蓑があれば気にならないんですよ」というのは、津南ゆきんこ散歩の発案者であるクリエイティブディレクターのフジノケンさん。東京から津南町に移住して7年目。毎年、雪が降るとニュースで大雪だという情報が流れ、どちらかといえばネガティブな情報として広まるのに不思議に思っていたそうです。なぜなら、フジノさんは日頃から豪雪地でもそこまで不便にならず、むしろ冬を楽しく生活できると感じていたから。

昨年末、またしても大雪報道がありました。それを見て、雪で何かグッドニュースを作れないだろうかと町の観光協会と教育委員会と旅館組合に相談。すると教育委員会のほうで2010年に廃校になった学校に活用民具が保管してあることがわかりました。郷土資料館や博物館に置かれている「保存民具」ではなく、第三者が使ってもよい「活用民具」であったこと。これは観光に使える!と津南ゆきんこ散歩を提案し、年明けすぐに実験的にすげぼうしを観光客に貸し出そうということになったわけです。

奇しくも、ゆきんこ道具一式を置くことになった「しなの荘」は、集落のなかの温泉宿という散歩にぴったりのロケーション。地図を片手に雪道を歩けば、集落が白い迷路のようになり、ちょっと迷ったとしても地域の人たちとの出会いが楽しい。車が走行する道路はアスファルトがむき出しになっており、道路を歩く分はかんじきいらず。実際に私も歩いてみましたが、すげぼうしの香ばしいにおいと、昔と変わらないであろう雪の世界に、タイムトリップしたような気持ちになりました。 新潟と同じように雪国に位置づけられている富山県出身の私でも、ここまで降り積もった雪を見たのは何十年前かの記録的豪雪くらい。まるでミルフィーユのような、いや、白い豚の角煮のようにも見えてくる津南の雪壁の層の厚さ、高さには呆然とします。なんたって車道の脇は3m近くも積もっているものだから、ガードレールもみえない、カーブミラーも雪で埋まっている有様。さぞかし生活は大変だろうなと勝手に察するも、津南の人たちはこれくらいの積雪は慣れっこです。2Fが玄関になる造りになっている家がほとんどで、斜度のあるトタン屋根のお陰で屋根雪は積もらないようになっています。ふだん雪が降らない首都圏などで雪が降ると大騒ぎになりますが、雪国ではそれなりの生活様式や智慧が受け継がれているので、さほど問題はないようです。

さて、1時間ばかり外を歩いてから、かんじきを履き、まだ足跡のない雪道を歩いてみました。自分の背丈よりも高い雪の上もかんじきで踏み固めながら歩くと、ほとんど沈まないから不思議です。誰も歩いていない雪道を歩く気持ちよさといったら、なんともいえない爽快感!誰もいない場所に足跡を残すことで自分の中にある征服欲までも満たされてストレス解消。新雪の上を歩くのは、びっくりするほどリフレッシュができることがわかりました。ええい、このまま雪の中に飛び込んでしまえ~い、とすげぼうしを置いて新雪のクッションにジャンプ!さあ、下の写真を自分に置き換えて、その気持ちよさをご想像ください~。 雪のクッションの上で寝転び、冷えた体はすぐに温泉でじっくりと温められるのが「しなの荘」のよいところ。雪見温泉のなんともいえない贅沢さよ.......。しっとりとした肌触りと赤褐色の温泉で体の芯まで温まります。もちろん湯上がりには、ビール、と行きたいところですがここは酒どころだけに、津南町旅館組合と地元の老舗酒蔵「苗場酒造」で造った「苗場山」をいただきます。すっきり柔らかな純米大吟醸酒は、津南の宿でしか飲めません。

「最初は何もない田舎だなと思っていたけど、住んでいくうちに四季折々の良さが見えてきました。この範囲内で生活していて不便はないし、子どものことも近所の目が届きます。このあたりの人たちはとってもあったかいですよ」と埼玉からお嫁にきた女将さんの山岸麗好(れいこ)さん。ゆきんこ散歩の地図は、彼女が手描きしたものです。ほかにも、部屋においてある旅館案内に四季折々の津南の魅力が文章で書かれていました。「パンフレットの案内を書いたり、ゆきんこ散歩の地図を描いたりすると、ふだん当たり前のように過ごしているところがいい場所なんだなと改めて思います。そういうことに気づけてよかったですね」。しなの荘は地元の人たちの利用も多く、全館畳敷きでバリアフリーを意識しているのが、お年寄りにも、そしてお風呂上がりの裸足にも嬉しい。

「地域にあう、ほっとするような、すみずみまで目の届くような旅館でいたいなと思っています」というのは、ご主人の山岸祐二さん。コスプレのようで実はタイムトリップもできるような津南ゆきんこ体験は、地元の人たちの素朴な優しさにも触れられる雪国ならではの旅の演出。ぽっかぽかの温泉にも入って心も体もあったまる津南の冬でありました。

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