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自閉症、ダウン症、LGBT…困難と向き合う親子の真実『いろとりどりの親子』

  • 2018.11.16
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生まれた瞬間から、切っても切れない存在といえば両親ですが、無償ともいえる愛情に救われてきた経験がある人も多いはず。そこで今回は、自分とは “違う” 性質を抱えた子を持つ親と子に迫った話題作をご紹介します。それは……。

感動のドキュメンタリー『いろとりどりの親子』!

【映画、ときどき私】 vol. 201

作家であるアンドリュー・ソロモンは、ゲイである自分を受け入れることに苦悩した両親の姿に直面したことがきっかけとなり、問題を抱える300組以上の親子を取材。10年かけて執筆したノンフィクション本『FAR FROM THE TREE』は、家族の本質を追求した内容が多くの共感を呼び、大ベストセラーに。

そんななか、本作をもとに誕生したドキュメンタリーでは、自閉症やダウン症、低身長症、LGBTなど異なる困難と向き合う6組の親子に密着。彼らの真実の姿が映し出されています。今回は、映画化を手がけたこちらの方にお話を伺ってきました。それは……。

社会派で知られるレイチェル・ドレッツィン監督!

30人もの映画監督から映画化の企画を持ちかけられていた原作者のアンドリューですが、「どの監督よりもテーマを明確に理解している」ということで指名したのがドレッツィン監督。そこで、制作の過程で学んだことや本作で伝えたい思いについて語っていただきました。

―もともとは原作に感銘を受けて映画化したいと思ったそうですが、ご自身もお子さんがいる親として、親子関係に問題意識のようなものを感じていたのでしょうか?

監督

確かに、自分が親であるということで、家族の在り方や親子関係に対する興味を抱いたという部分はありました。でも、私はもともと好奇心旺盛な性格。だからこそ、ドキュメンタリー作家をしているんだと思いますが、自分の知らないことに対してモチベーションが働くんです。

そして、ドキュメンタリーというのは私にとっては違う世界に誘ってくれるパスポートのようなもの。そのおかげで知らない世界に旅をすることができるんです。今回は、低身長症の方々や犯罪を犯した子どもを持つ親、それから自閉症の子を持つ親など、彼らの世界を知ることができました。そうすることで、私たちは普段こういったコミュニティの人たちと意義深いコンタクトを持つことがいかにできていないかに気づかされるのです。

最初は自分のなかにも偏見があった

―マイノリティといわれる方々に対して差別はないと思っていましたが、作品を観ていくうちに「無意識の偏見」が自分のなかにもあったことに気づかされました。監督が彼らと直接触れ合うなかで、忘れられないエピソードはありますか?

監督

私自身も作品を制作する過程で、自分が偏見を持っていたと感じる瞬間は何度もありました。なかでも印象に残っているのは、低身長症で車いすに乗っているジョセフと「リトル・ピープル・オブ・アメリカ」という集会で初めて出会ったときのこと。彼が肉体的にどういうハンデを持っているかを知ってはいましたが、実際に会うと、自分でもびっくりするくらいにぎこちなくなってしまったのです。

―それまでも、そういう経験はあったのですか?

監督

この作品のために、すでにいろいろな方々とお会いしていたにも関わらず、ここまで自分がぎこちなさを感じたことには驚きました。たとえば、「ジョセフは腕が短いけど、握手したほうがいいのかな」とか、「もし彼が飲み物を欲しがったら私が手渡したほうがいいのかな」とか、「見つめちゃいけないけど、見ずにはいられない」といったことを考えているだけで、固まってしまったのです。

―私自身もインタビューをする際、相手にどこまで踏み込んでいいのかというのが難しいところだと感じていますが、特に障害を持っている方々だとこちらが勝手に躊躇してしまうこともあると思います。そんななか、監督は彼らの言葉を最大限に引き出されていましたが、相手との信頼関係を築くうえで心がけていることはありますか?

監督

彼らとの距離というのは、実に簡単に縮めることができました。というよりも、最後のほうは自然に壁がなくなっていったという感じですね。なぜなら、今回出演をお願いした方々というのは、もともと個人的にも愛情を感じ、尊敬していた人たちばかり。だから、彼らと仲良くなるというのはそんなに難しいことではなかったんです。

それに、私たちはいろいろなレベルで繋がることができたので、いつの間にか障害も忘れてしまっていましたね。なかでも、低身長症の夫婦であるリアとジョセフに会いに行って、一緒にディナーをしていたとき、途中で彼らが障害を持っているということをすっかり忘れている自分に気がついたんです。

いまの私たちに必要なのは対話すること

―そういう思いになれたのは、やはり彼らと実際に触れ合い、彼らが私たちと同じような生活を送っていることがわかったからでしょうか?

監督

彼らの仕事や日常についての話を聞いて、“普通” であるといまはわかりました。つまり、私たちに必要だったのは、彼らと触れ合う時間だったんじゃないかなと思っています。普段、私たちは自分と違う人と出会うと、挨拶だけで過ぎてしまうこともありますが、対話をすることも必要なことなのです。それもあって、私が撮影で気をつけていたのは、彼らと何でも言い合える関係を作ることでした。

―確かに、私たちは自分と違う人と対話する時間が足りていないのかもしれませんね。だからこそ、本作では彼らがどのような心境でいるのかを知ることができるのは、とても興味深かったです。ちなみに、日本とアメリカでは、作品への反響は異なりますか?

監督

今回日本に来て、いろいろな方とお会いするうちに、アメリカの観客とは反応が違うと感じていたところです。

―本作に登場する出演者たちは、それぞれに障害を抱えながらもありのままの自分を受け入れ、何よりも自分を愛している姿が印象的でしたが、日本では他人と違うことに対して、ネガティブに感じる人が多い傾向にあります。それに比べると、やはりアメリカのほうが多様性に対して寛容だということでしょうか?

監督

確かに、アメリカのほうがより「ありのままの自分でいる」という概念は根強くあるかもしれませんね。日本とはそういう差があるとは思います。

今回、アメリカでの反応は、たとえば「障害がある人が大学の教授をしているの?」とか、「低身長症の人たちのなかでも委員会というのが存在しているの?」みたいに、彼らが健常者と同じようなことをしていることへの驚きがあったようです。というか、おそらくそういったことを考えたこともなかっただけだと思います。

日本の観客は深いところを見てくれている

―それに対して、日本の観客はどのような反応がありましたか?

監督

もちろん、日本の方々も同じように驚いているとは思いますが、それだけではなく、より深いところを見てくれているようにも感じています。というのも、アメリカはいろんな人種と対峙してきた歴史がすでにありますが、日本では自分と見た目が違う人と出会う機会がまだまだ少ないですよね? だからこそ、そういったことに対して、まさにいま葛藤しているところがあるのだと思いました。

つまり、「どうすればより包括的なダイバーシティを許容する社会を育めるのか」といったことをみなさんがすごく考えている途中なんだと感じています。

ありのままの自分でいられることは祝福すべきこと

―劇中、ダウン症のジェイソンが好きなキャラクターとして、『アナと雪の女王』のエルサが登場しますが、日本でも「Let It Go」が爆発的な人気となりました。それは、私たち日本人がありのままでいることへの強い憧れがあったからだと思いますが、他人と違うことに悩んでいる人に向けてどういう意識を持つべきか、アドバイスをお願いします。

監督

私自身もこの作品を作ることによって多くを学びましたが、みなさんもきっとこの作品から得るものがあるんじゃないかと思います。人というのは、どうしても自分で勝手にイメージを作り、そのイメージ通りであって欲しいと思ってしまいがちですが、実際はありのままの自分でいることしかできないんですよね。

それに、他人からどう思われても、その人はその人でしかありえないので、変えることなんてできないもの。逆に言えば、あるがままである人というのは、祝福すべきことなんです。もちろん、自己受容というのは一番大変なことかもしれないですが、それは人間であるうえですごく本質的なことでもあるので、ありのままの自分でいるように努力していくしかないのかなと思っています。

「違う」からこそ得られるものがある!

人と違うことに、誰もが不安を感じてしまうけれど、違うからこそ人生をいろとりどりに輝かせることができるもの。彼らと同じように、ありのままの自分を愛することができたとき、新たな幸せを手にすることができるはずです。

心が震える予告編はこちら!

作品情報

『いろとりどりの親子』
11月17日(土)、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
配給:ロングライド

©2017 FAR FROM THE TREE, LLC

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