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北陸の伝統工芸の魅力を発信する、体感型ホテル。

  • 2018.10.24
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国内外からの宿泊客数が年々増えゆく金沢。ここ数年でオープンしたホテルも多い。今回紹介するのは、ものづくりや作り手との距離をぐっと近づけてくれるホテル。どちらも、食べる、買う、集う、学ぶ、憩うなど、泊まる以外の多様なコンテンツを揃えているのが特徴。ホテルに対する認識を“寝て泊まるだけ場所”から、“ここに行けば何かが起こる”という予感や期待に満ちた場所へと変えてくれる2軒だ。

HATCHi(ハッチ) 金沢 ザ シェア ホテルズ

築50年の仏具店を改装。エントランスを入って左手に広がるのがショップスペース。右手がコーヒースタンド、奥が和食ダイニング。写真右側に写るレセプションを含め、気さくでオープンな雰囲気。

風情のある人気スポット、ひがし茶屋街まで歩いて約3分。観光に便利な場所に立つリノベーションホテルが「ハッチ」。エントランス前に屋台カートを設置しているほか、1階には北陸の魅力が詰まったギフトショップの「[g]ift(ギフト)」、金沢の人気コーヒースタンド「ハム&ゴー」、金沢で約10年愛されてきたくずし割烹店が復活した「a.k.a.(アーカ)」と3店舗が入り、さながら複合施設のよう。宿泊客ならずともふらりと寄りたくなるスポットだ。

2段ベッドとソファベッドを備えた、最大3名まで利用可能な「バンク ベッド3」ルーム。トイレ、シャワーは共用(各部屋に専用洗面つき)。

ハッチのコンセプトは“北陸ツーリズムの発地”。金沢を玄関口として、北陸全体の魅力を広く、深く伝えることを目指す。連日イベントやフェアを開催し、内容も多彩。連載第1回のような工房巡りができる「金沢クリエイティブツアー」(毎週土曜開催)といった定期的な催しのほか、福井・鯖江をテーマにしたポップアップショップや能登町の祭りによる1日館内ジャックなど、ユニークな単発イベントも豊富。クリエイターによるワークショップやトークイベントも多く、作り手と触れ合う機会を与えてくれる場所でもある。

ドアにあしらった越前和紙は客室によって異なる。タイポグラフィやピクトグラムは星野 源さんのジャケットなどで知られる大原大次郎さんが担当。

北陸のものづくりが散りばめられた館内は、ちょっとした宝探し気分が楽しめる。ドミトリーのドアには1500年の歴史をもつ越前和紙を使用し、洗面スペースのランプシェードは九谷焼の窯元「上出長右衛門窯」によるもの。エントランスには6代目の上出惠悟さんによる約80㎝の大作「寿福老(ことぶくろう)」も設置されている。客室階の壁や階段の踊り場はクリエイターに貸し出しているほか、作家の作品を長期間展示することも(取材時は金沢在住の染色作家、井上 藍さんの作品を3カ月にわたって1階で展示)。意識しなくても、ごく自然に北陸のものづくりが金沢の旅を彩ってくれる。

キッチンとラウンジに分かれた地下のシェアスペース。客室はドミトリー主体で、ひとり旅や長期滞在者も多い。自炊やひと休みにもぴったり。

誰もが利用できるシェアスペースも特筆。大きなテーブル、調理器具や食器、カトラリーを備え、購入してきた食材を調理することも、食べものやドリンクの持ち込みもOK。自主イベントも相談可能で、キッチンをいかしたイベントも多数行われているとか。このスペースは宿泊者以外も使用OKというから驚く。このカジュアルさ、間口の広さがハッチの魅力だ。

オープンで、どこか楽しそうな雰囲気があって、“行けば何かがある”予感に満ちた場所。ここで過ごすうち、知らず知らず北陸の魅力や奥深さに惹かれ始めていることに気づくはず。訪れる人と北陸のハブ、さらには作り手とのハブとなる開かれたホテル、それがハッチといえる。

HATCHi(ハッチ) 金沢 ザ シェア ホテルズ石川県金沢市橋場町3-18全14室1室あたり¥3,800〜(素泊まり/消費税、サービス料込み)tel:076-256-1100www.thesharehotels.com/hatchi

KUMU(クム) 金沢 ザ シェア ホテルズ

1階のティーサロン兼ロビーラウンジ「キッサ アンド コー」。店名は“お茶を一服どうぞ”を意味する禅語「喫茶去」にちなんだもの。誰に対しても等しく接することの重要性を説くこの禅語と同じく、宿泊客に限らず誰もが利用できる。カウンターには連載第1回で紹介した竹俣勇壱さんが選定/制作した茶釜や茶道具が並び、壁には日本人アーティスト・デュオ、ネルホルの作品を展示。インパクトのある天井の木組みには、パーティションを支える役割も。さまざまな「場」として活用できる空間だ。photo:TAKUMI OTA

ハッチに続き、ザ シェア ホテルズの金沢2号店として2017年夏にオープンした「クム」。尾山神社や人気ショップが並ぶせせらぎ通りにほど近い場所に位置する、オフィスビルをリノベーションしたホテルだ。名前には金沢の伝統を“汲む”に加え、茶を“汲む”、クリエイターと“組む”など複数の意味が込められている。ハッチが北陸の文化への“玄関”だとすれば、クムは金沢の伝統文化にフォーカスして、さらなる深みへといざなう“サロン”だ。

金沢に息づく禅、茶道、華道といった武家文化や伝統工芸。さまざまな人が行き交うホテルという「場」で、敷居が高いと捉えられがちな文化や工芸をコンテンポラリーな形で幅広い層に伝えようとするのがクム。館内には金沢の伝統文化を汲み取ったアートや工芸作品を展示するほか、イベントも積極的に開催。蒔絵で作るアクセサリーのワークショップや外国人の茶道師範による二カ国語の茶席など、気軽に参加できるうえ、新鮮な切り口から“本物”に触れることができる企画ばかりだ。

小上がりに布団を敷くことで4名まで利用できる「スタンダード 4」ルーム。カップルから家族連れまで幅広いゲストに対応。photo:TAKUMI OTA 

ドミトリー主体のハッチと異なり、クムの客室はすべて個室。いずれも最大4名まで宿泊可能で、畳を効果的に用いた部屋やロフトタイプなど滞在のスタイルに合わせた部屋を用意。リノベーションによるインダストリアルな表情と、和の手仕事を感じる簡素で洗練された要素が溶け合う空間は、エントランスやシェアスペースと一貫した世界観を持つ。部屋だけではなく、クム全体に宿泊するという感覚が味わえるのは、シェアスペースの充実度や統一された世界観ゆえだろう。

3階のティーテーブル。壁には書家、華雪さんの作品が並ぶ。同じ階のエレベーターホールには石川の希少伝統工芸、二俣和紙に書かれた華雪さんの書が展示されている。

ハッチよりもさらに広く取ったシェアスペースは、1階のティーサロンだけに留まらない。3階と5階には宿泊者専用のティーテーブルを設置。炉が切られた大きなテーブルを備え、セルフでお茶やコーヒーが楽しめる。客室の延長として、読書や仕事など自由に過ごすことができるスペースだ。

7階にはモニターを備えた有料の会議室、屋上には金沢城公園を望むウッドデッキの空間を用意。宿泊者は24時まで自由に出入りできるほか、ヨガや瞑想、座禅、野点茶会なども定期的に開催予定だという。

各階の共用部分(と一部客室)に金沢の伝統を汲み取ったアートと工芸を展示しているのも大きな特徴。1970〜80年代生まれの作家、全6組による13点の作品が、訪れるゲストに金沢の伝統の“いま”を教えてくれる。

また、クムが昨年からスタートした国内唯一の工芸に特化したアートフェア「KOGEI Art Fair Kanazawa 2018」(11月16日〜18日開催)の会場であることにも注目。期間中は全館が国内外から集う25のギャラリーの展示/販売会場に変身するというのだから、クムと工芸との強い結びつきと、ホテルを超えた「場」としての柔軟さを感じずにはいられない。

「泊まる」以上の多彩な体験がかなうハッチとクム。ものづくりを“自分ごと”として体感できる、ホテルの新たな形といえそうだ。

KUMU(クム) 金沢 ザ シェア ホテルズ石川県金沢市上堤町2-40tel:076-282-9600全47室1室あたり¥18,000〜(素泊まり/消費税、サービス料込み)www.thesharehotels.com/kumu※「KOGEI Art Fair Kanazawa 2018」(2018年11月16日〜18日開催)の詳細はこちらkogei-artfair.jp

●本記事内で紹介したホテルについて、掲載時の価格は掲載後に変更される場合があります。最新情報はホテルにお問い合わせください。

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