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うつわディクショナリー#37 おとぎ話のような松浦ナオコさんのうつわの世界

  • 2018.10.9
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お皿に舞い降りる夢いっぱいのストーリー

お皿という丸いキャンバスの上に、動物や人のモチーフが絶妙なバランスで描かれた松浦ナオコさんのうつわは、小さい頃、お母さんが呼んでくれた絵本のように、ひとつの絵柄からあまたの幸福なストーリーを想像させ心和ませてくれます。 

—ナオコさんは、少し前まで伝統的なモチーフの染付や色絵をされていましたよね。このように独創的な絵柄へと変化したのはなぜ?

松浦:私はもともと、郷土玩具の伏見人形のような土人形や、九谷や瀬戸の古い時代の焼物の招き猫のように、素朴でちょっと気の抜けたものが好きで、そういうものを自分の手で作れたらと陶芸を学びました。学んだのが京都の職業訓練校だったこともあって、身につけたのは、料理の映える伝統的な京焼のスタイル、きちんとした焼物だったんです。でも心のどこかにはいつも玩具のモチーフにあるような可愛らしさや、無条件に「欲しい」と思えるようなものへの思いがあったんだと思います。それでだんだん、伝統のモチーフではなく、自分の頭の中にあるそういう世界観を生かしていこうと思うようになりました。

 

—夫の松浦コータローさんは、伝統的な染付や色絵を作っていますね。

松浦:コータローくんとは、職業訓練校の同級生なんです。彼は、京焼の絵付けの職人として長く勤めていたこともあり、古典の写しに自分らしさをミックスさせています。隣にそういうきちっとした仕事をする人がいるのも、私が自由な発想でやれる理由かもしれません。先生方に学んだ京焼を継承しなくてはと考えて、きちんと描くことや、料理映えすることにばかり凝り固まっていた時期もあったんですけど、「それは彼がやってくれているから、私は好きなことをやろうかな」って思えたところもありますね。

 

—ご夫婦で陶芸家をしてるからこそのエピソードですね。ナオコさんの世界観あふれる絵皿はどのようにして生まれるのですか?

松浦:素焼きしたお皿を目の前に置いて、頭の中にある世界をフリーハンドで描いていきます。2時間くらいかかりますが、没頭してしまいますね。昔から、絵とか書道が好きだったんです。筆の動きが好き、なのかな。書道のお稽古でひたすら丸や線を描き続けるというのがあるんですけど、だんだん強弱が出て、かすれたり、にじんだりしてくる。1本の線が全然違う見え方になるのが面白くて。キャンバスがお皿に変わっても、そういう表情のある筆の動きを楽しんでいます。かすれさせたり、勢いをつけたり、繊細な線を足したり。

 

—腕や筆の動きにゆだねるのですね。

松浦:伝統の絵付けは、下絵を描いて、それをたどっていく。脇をしめて、肘を固定して、筆の先を使って描きこむことが多いんですが、私は、全然ちがって。脇を広げて、筆の後ろのほうを持って、腕を大きく動かしておおらかに描く。そんな感じです。

 

—絵を付けるというより絵画を描いているような感覚なんですね。赤の使い方も素敵です。

松浦:何色も同時に使って混色したり重ね塗りしたり、油絵や水彩のように絵画的に描いています。赤は、ロシアの伝統的な木工品の装飾をヒントに、塗り方や厚さを絵柄によって変えて、素朴なニュアンスが出るようにしています。以前は、骨董の本や文様の本ばかり見ていましたが、最近は、好きな絵本やヨーロッパの手仕事のもの、ふだんどこかで見たものなど、いろいろなところから自由にインスピレーションを得るようになりました。

 

—動物と人が踊るように描かれていたり、猫のモチーフがあったり、心が和みます。

松浦:焼物の話とは離れてしまいますけど、私は、誰にも平和で幸せに生活してもらいたいと思っていて。世界を見渡せば、貧困も争いもありますけど、ものを作るなら、手にした誰かがやさしい気持ちになれるもの、ほっとできるものを作りたいと思いますね。かわいいもの、作りたいです。

 

※2018年10月13日まで千鳥 USTUWA GALLERYで「松浦コータロー・ナオコ 二人展」を開催中です。

 

今日のうつわ用語【伏見人形・ふしみにんぎょう】

江戸時代後期に最盛期を迎えたと言われる郷土玩具。全国にある粘土を型につめてかたちづくる土人形の元祖として、民俗的で素朴な楽しさと美しさを持つ。かつては京都の伏見街道沿いに窯元が軒を連ねたが、現在は寛延年間(1750年頃)創業の「丹嘉」のみが残っている。

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