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光に包まれてゆっくり対峙したい、内藤礼の新作展。

  • 2018.9.6
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地上の生を浄化する、ひそやかで圧倒的な存在。

『内藤 礼―明るい地上にはあなたの姿が見える』

『ひと』2012年。ギャラリー小柳。震災後、作家が向き合う人型の連作。

『母型』2010年。豊島美術館。自然とアートと建築が境界をなくし、ひとつに連なった場だ。

1997年ヴェネツィアビエンナーレ日本館『地上にひとつの場所を』で世界的に注目されて以来、直島・家プロジェクト「きんざ」の『このことを』、豊島美術館『母型』といった自然環境や建築空間と呼応する常設作品、ドイツのカルメル会修道院ほか歴史的な場所での展示など、深い沈静と歓喜を観る者にもたらす作品を作り続けてきた内藤礼。本展では初めて自然光のみの空間で、光と生命と芸術が分別されえない「地上の生の光景」を見つめる空間を生み出す。

内藤は太陽光が注ぎ込む時間だけ制作し、観客はその光の環境に近い条件で鑑賞することとなる(9月1日より閉館時間が繰り上がる)。なかでも彼女が長年手がけてきた『color beginning』は、一見何も描かれていないように見える画面に、人工照明では見ることのできない繊細な色彩がひそやかに立ち現れ、移り変わる絵画作品だ。その神秘的な光景に出合うため、心を鎮めてゆっくりと対峙してみてほしい。

内藤礼の作品世界に包まれる時、いつも初めてのような気持ちでただ茫然と立ち尽くし、しゃがみ込み、生きとし生けるものすべてをこの世に与えた自然への返礼として、自分もまたここに手向けられたのだ、と感じられる。

「地上に存在することは、それ自体、祝福であるのか」という作家の問いかけのもと、光、空気、風、水、といった無尽蔵で、ときに苛烈な自然の中で生きる脆弱な人間の生が、かすかだが確かなものとして昇華され、清められる歓びに浸る。内藤礼の芸術には、そんな圧倒的な存在のみが持ち得る強さが秘められているようだ。

『内藤 礼―明るい地上にはあなたの姿が見える』会期:開催中~10/8水戸芸術館 現代美術ギャラリー(茨城・水戸)営)9時30分~18時(9/1~10/8は~17時)休)月(9/17、24は開館)、9/18、25一般¥900●問い合わせ先:tel:029-227-8111www.artowermito.or.jp

※『フィガロジャポン』10月号より抜粋

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