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「透明なゆりかご」プロデューサーが語る“社会派ドラマのつくり方”【テレビの開拓者たち・須崎岳】

  • 2018.8.20
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小さな産婦人科医院を舞台に、その“光と影”を描くドラマ「透明なゆりかご」(NHK総合)の制作統括を務める須崎岳氏。この作品では、重いテーマながらも、いかに視聴者の心に届くかを意識しているという。これまでにも、「弟の夫」(2018年NHK BSプレミアム)や「鉄の骨」(2010年NHK総合)など、数々の“社会派ドラマ”を手掛けてきた須崎氏に、作品づくりの信条やこだわりを聞いた。

沖田×華の同名コミックを原作に、産婦人科医療の実情を描く「透明なゆりかご」

「透明なゆりかご」の原作コミックを読んだとき、ボロボロ泣いてしまいました

すざき・たかし=1973年生まれ、愛知県出身
撮影=源賀津己

──現在放送中の「透明なゆりかご」の企画の発端からお聞かせください。

「人から勧められて原作コミックを読んだとき、自分はこういう仕事をしていますし、涙腺は固い方だと思っているんですが、随所でボロボロ泣いてしまったんですよ。これをドラマ化するのは大変だな、なまじっかな気持ちではできないなと思いましたけど、その一方で、やらなきゃいけないなと。そして、これは今やるべき作品だとも思いました。子供を産んだことのある女性だけでなく、これから結婚して子供を産もうとしている人や、わけあって子供を持たない人、自分の思いで独身を貫いている人…全ての女性に響くはずだという確信めいたものがあって。もちろん、男性にも知ってほしい普遍的な物語だと思いましたし」

──中絶や死産といったヘビーなテーマも描かれる作品ですが、ドラマとして見やすいものにするために意識されていることはありますか。

「どうやって間口を広げるかということは意識しましたね。具体的に言うと、原作を読んだときに感じる、重たい中にもどこかほっこりするような感覚を、映像でどうやって表現するのか。その点では、清原果耶さん演じるヒロインの看護助手の、“命”を見つめるまっすぐなまなざしが、視聴者にとって共感できるポイントになっている気がします。中絶や死産の一方で、幸せな出産もあるという、産婦人科の光と影の両方をしっかりと描いて、シリーズ全体として“希望”のようなものを感じていただけたらうれしいですね。原作にはない『海の近くの病院』という設定にも、光や希望を感じてほしいという意図が込められています」

ドラマで“答え”は出せない。僕らに唯一できるのは“問いかけること”

沖田×華の同名コミックを原作に、産婦人科医療の実情を描く「透明なゆりかご」
(c)NHK

──ヒロインに清原果耶さんを起用された理由は?

「経験豊富な成人の女優さんが演じるよりは、17歳の主人公と同じく瑞々しい感性を持った女の子が、初めて産婦人科の病院にやってきて、いろいろなことを経験し、感じながら演じていく。いわばドキュメンタリーのようなドラマにしたい、というのが起用理由のひとつです。彼女はキャリアこそ浅いけれど、お会いしてみると、感受性がとても豊かで、存在感がある。目の力強さも素敵ですよね。実際に撮影を見ていて、手前味噌ですが、非常にいいお芝居をしていると思います」

──院長役の瀬戸康史さんについては?

「原作ではたまにしか出てこない人物なんですが、ドラマではこの人を膨らませたい、というのがまずあって。主人公の上司役って、ベテラン俳優がやるのが定番じゃないですか。だけど今回は、院長も、ちょっと未熟で、『果たしてこれでいいんだろうか』と現在進行形で自問自答している、そういう人物として描きたかったんです。それで、30代半ばの設定で瀬戸さんにお願いしました」

──院長にも迷いがあるというのは、ドラマの作り手から視聴者に対して、いわば“正解”を提示しない、ということでもありますよね。

「僕は、ドラマで答えは出せないし、もっと言えば、出してはいけないと思っていて。僕らに唯一できるのは、“問いかけること”。特にこの作品は、人それぞれの死生観や倫理観が出てくるので、こちらからメッセージを押しつけるのではなく、見た方それぞれが考えたり、何かを感じたり、そんなドラマになればいいなと思っています。

今回、産婦人科の医療に携わる方々に取材したときに、皆さんおっしゃっていたのは、どれだけ現代医学が進んでも、出産は命がけなんだと。産まれるのが当たり前という安全神話と、産婦人科の病院で日々起きている現実とのギャップが大きいということを痛感したんですね。ですから、このドラマではそこは逃げずにきちんと描きたいですし、そして“万が一のことが起きて打ちのめされた人々”が、その後どう立ち直っていくのか、そんな医療従事者たちの姿も描きたいと思っています」

個人の思いを描いて紡いでいく作品こそが、真の社会派ドラマなのかも

放送中の「透明なゆりかご」の他、「運命に、似た恋」(2016年)「4号警備」(2017年ともにNHK総合)など数多くの作品を手掛ける須崎岳P
撮影=源賀津己

──須崎さんのこれまでの作品についてお伺いしますが、NHK名古屋局で「リミット~刑事の現場2~」でラインプロデューサー、「鉄の骨」で演出と、社会派ドラマを数多く手がけてこられましたね。

「若いころから、いわゆる社会派ドラマへの憧れはありましたが、名古屋で実際に作品づくりをしていく中で、方向が定まった感じですね。

『リミット~刑事の現場2~』で、武田鉄矢さん演じる刑事が無差別殺人事件の容疑者に向かって『おまえに人権なんかねえ!』と言い放つ、かなりショッキングなシーンがあったんです。テレビドラマの中であのセリフを言ってしまっていいのかどうか、最初は少し不安もあったんですが、いざ放送されると、『よくぞ言った!』という反応が大半で。世の中の人は、犯罪者に対してここまで厳しい目で見ているのかというのは、当時ちょっと新鮮な驚きでした。

ゼネコンの談合を題材にした『鉄の骨』も、公式サイトの掲示板に賛否両論いろんな声が寄せられて、非常に興味深かったです。掲示板に投稿された意見は、基本的には全て載せるようにしていたんですけど、それはそれで『この掲示板はすごい!』とけっこう評判になったみたいです(笑)。僕としてはドラマを作る上で、世の流れとかに迎合するつもりはないんですが、今の人々は何を考えているんだろう、どう感じているんだろう、というのはやっぱり気になりますね」

――作り手としては、世の中に対して異議を唱えたい、といった思いがあるのでしょうか?

「いえ、必ずしもそういうわけではないんです。僕としては、社会問題そのものというよりは、その中で一生懸命に生きている当事者たちの“思い”を描きたい、というか。『鉄の骨』で、ある建設業者の方に取材していたとき、『談合に関与していた人間を、ただの悪人として描いてほしくない。彼らの無念を知ってほしい』と言われたんですね。『あぁ、これはちゃんと受け止めなきゃダメだな』と思って。今回の『透明なゆりかご』にも、取材過程で出会ったたくさんの思いが詰まっています。『ゆりかご』は、僕としてはあまりそんなつもりはなかったんですが、何人かから「社会派作品だね」と言われ、へえ、そうなのかなと思いました。少し前は社会派と言うと、大組織に立ち向かっていくみたいな物語が定番でしたけれど、今は個人個人の思いを描いて紡いでいくような作品こそが、本当の意味での社会派ドラマなのかもしれません」

一生懸命生きている人を描きたい。一人一人の思いに寄り添うことも、ドラマの役割だと思います

「ドラマで“答え”は出せない。唯一できるのは“問いかけること”だけ」という須崎岳氏
撮影=源賀津己

──社会派ドラマとは趣の違った朝ドラの「花子とアン」(2014年NHK総合ほか)も手掛けていらっしゃいますね。

「貧しい農家に生まれた少女がお嬢様学校に行き、翻訳家になるというサクセスストーリー。そういう意味では、格差社会にも通じる題材を持った作品でしたが、これもやはり、社会の格差そのものよりも、貧しい人たちにも裕福な人たちにも、それぞれに生き方や矜持があるわけで、それを丹念に紡いでいきたいと思いました。物語の時代背景として戦争も描きましたが、今の僕らから見た戦争ではなく、主人公の花子(吉高由里子)をはじめ、当時の人々は戦争というものをどう見ていたのか、どう感じていたのか、そして、その中でどんなふうに生きていたのか、それをすごく考えながら、描いたつもりです」

──LGBTをテーマにした「弟の夫」(2018年NHK BSプレミアム)も、大変な注目を集めました。

「BSのドラマがインターネットのトレンドワード1位になるなんて、びっくりしましたね。年配の方はLGBTに対して理解が薄いとも言われますが、「うちのおばあちゃんから『見た方がいいよ』と勧められた」なんていう声もあったり、とてもうれしい反応が多かったです。

あの作品は原作がとても繊細なバランスの上に描かれているので、敢えて忠実に描きました。僕はLGBTに対して差別意識はない方だと思ってましたけど、それでも知らなかったことがたくさんあって。やはり、これも今伝えなければいけないなと思って制作した作品です。特に決めゼリフもなく、音楽もあまり使わない、淡々とした見せ方が、作品の強いメッセージ性とマッチしたのかなと思いますね」

──では、須崎さんが今後、作ってみたいドラマは?

「どんな状況にあっても一生懸命生きている人を描きたいということは一貫していて。これは僕自身もそうなんですが、東北のあの震災以降、大仰なことではなく、身近なところに幸せや生きがいを見出そうとする人が増えたような気がするんです。そうした一人一人の思いに寄り添うことも、ドラマの役割なんじゃないかなと思っています」(ザテレビジョン)

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