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齊藤工 活動寫眞館・拾肆 クリストファー・ドイル。

  • 2018.8.20
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俳優、斎藤工。そして、映画監督、齊藤工。表舞台であらゆる「男」を演じ、裏方にまわり物語をクリエイトしていく。齊藤工がいま見つめるものとは、何か。彼自身がシャッ1ターを切り、選び出す。モノクロームの世界に広がる、「生きた時間」を公開していきます。

齊藤が来日中の映像作家クリストファー・ドイルを撮影するという連絡が入った。

「“クリストファー・ドイル”の覗いた、切り取った世界に魅了され、自分の青春のもがきは救われてきた歴史があります。そのドイルが描いたあまりにも魅力的な世界に導かれ、アジア貧乏旅行に旅立ったのも事実」

そう齊藤が語るドイルの撮影が行われたのは6月上旬、小雨が降る肌寒い日だった。編集部が先にドイルと落ち合い、撮影場所へ向かう。車の中で、20年近く前にフィガロジャポンのインタビュー連載に登場した彼のページを見せると、びっくりして恥ずかしそうにぱっと顔を背けた。当時このページを担当していました、と編集者が告げると、そうそう、君はあの時まだ3歳だったよね!と豪快に笑った。

齊藤と合流し、着いたのは巨大なグラフィティアートが壁面を覆う六本木トンネル。降り立ったドイルが壁に向かい、両手を付けてわざと真剣な表情を見せる様子を齊藤がカメラで切り取ると、トンネルは嘆きの壁のようにも見えてくる。フードを深く被ったり、両手で頭を抱えたり、カメラの前で自由に動き回るドイルに、齊藤がLED照明を当てようとしたとたん、ドイルは新しいおもちゃを見つけた子どものようなやんちゃな笑顔になって照明を掴み、車道に飛び出した。

予想外のことに一瞬だけ戸惑った齊藤もすぐさまドイルを追って、照明を誘導棒に見立てて交通整理の真似をはじめた彼を写真に収めていく。好奇心の赴くまま片時も止まらないエネルギーの塊のようなドイルと、その悪だくみに軽やかに乗って高揚感そのものを写し取るかのような齊藤のセッションは、あっという間に終了した。

「カメラマンにカメラを向けると照れることは往々にしてあるのですが、ドイルの照れ方は尋常じゃなかったです。自身が“照らす人”という性分を、早くから見つけた人なのだと思った。邦画の現状を誰より危惧して誰より具体的に献身しているドイル氏から、たくさんの希望の光をもらった」

かつて齊藤をまだ見ぬ世界へ飛び立たせるほど魅了した映像をクリエイトする人と対峙し、撮ることも撮られることも知る齊藤がリスペクトと配慮を込めて映しとった写真たち。また世界のどこかで、ふたりのコラボレーションが実現してほしいと願わずにはいられない。

CHRISTOPHER DOYLE撮影監督。ウォン・カーウァイやエドワード・ヤンなどアジア映画界の巨匠をはじめ国際的に活躍する多くの監督とタッグを組む一方、自ら短編・長編の監督も手がける。2019年公開予定のオダギリジョー初長編監督作品の撮影監督を務める。

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TAKUMI SAITOH移動映画館プロジェクト「cinéma bird」主宰。監督作『blank13』(18年)が国内外の映画祭で7冠獲得。アジア各国の監督6名を迎えて製作されたHBOアジアのドラマ「Folklore」に参加。19年には企画・プロデュース・主演を務める『万力』が公開予定。www.b-b-h.jp/actor/saitohtakumi

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