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コスチュームは語る──アメコミ実写映画にみる、女性スーパーヒーローの進化。

  • 2018.7.30
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コスチュームは語る──アメコミ実写映画にみる、女性スーパーヒーローの進化。
2018.07.30 17:00
アメコミ原作の実写映画が隆盛を極める中、女性のスーパーヒーロー像にも大きな変化が訪れている。それを如実に物語るのが、彼女たちが着用するヒーロースーツだ。1992年の『バットマン・リターンズ』から近日公開予定の『アントマン&ワスプ』まで、アメコミ実写版の女性キャラクターの衣装を手がけたデザイナーたちが、コスチュームに込めた想いを語る。


新時代の女性のスーパーヒーロー像を決定づけた記念碑的映画といえる『ワンダーウーマン』(2017年)に続き、今年は、『ブラックパンサー』に『デッドプール2』、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』、そしてもうすぐ公開される『アントマン&ワスプ』など、女性のスーパーヒーロー像を多様に塗り替えるアメコミ実写版映画の豊作年と言える。


こうした映画から感じるのは、スーパーヒーロー像とは、時代とともに刷新されていくもの、ということだ。新しい時代のスーパーヒーロー像は、彼らが身に着けるヒーロースーツにも表れている。コスチュームは、時代性を象徴する文化的マーカーなのだ。


マーベルコミックスのスピンオフ版テレビシリーズ『エージェント・オブ・シールド』に登場する、女性キャラクターのコスチュームデザインを担当したアン・フォーリーは、その意義をこう語る。


「私やキャストにとってもっとも重要だったのは、女性キャラクターをセクシーに見せることよりも、彼女たちの力強さや能力をエンパワーするような衣装を考えることだった。このドラマを観た若い女性たちに力を与え、ロールモデルとなるような登場人物の創出に貢献したいと思ったの」

セクシーさから強さへ。進化する女性像。


監督から俳優まで、アフリカ系クリエーターたちが大集結したことでも話題となった今年の大ヒット作『ブラックパンサー』で、女性キャラクターの衣装をデザインしたルース・E・カーターも賛同する。


「現代の女性のスーパーヒーローに求められるものとは、性的魅力ではなく、そのキャラクターの美しさを強調した衣装。肌を露わにする代わりに、ラインの美しさを表現したわ。体の曲線に沿うレザーベルトは、ボディスーツと肌の色を引き立て、甲冑はトライバルなジュエリーのようなデザインに仕上げた。女性のジュエリーデザイナーが装備品の制作を担当したのだけれど、女性らしい観点と美学に満ちた、力強い衣装になったと自負しているわ」


デザインにあたりカーターが参考にしたのは、アレキサンダー マックイーン(ALEXANDER McQUEEN)バーバリー(BURBERRY)バルマン(BALMAIN)といったハイファッションだ。これまでのマーベル映画とは一線を画す本作の未来的な雰囲気を、衣装に取り入れたいと考えたそうだ。


ガレス ピュー(GARETH PUGH)のファッションフォワードな考え方や、リサイクル素材を果敢に用いるステラ・マッカートニーの姿勢にも、大きな影響を受けたわ」

ファッションとコスチュームの相関。


スーパーヒーローたちの衣装の着想源をファッションに見つけることは難しくない。2014年公開作『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』でスター・ロードが着ていたヴィンテージレザージャケット、『アントマン&ワスプ』でホープ・ヴァン・ダインを演じたエヴァンジェリン・リリーが着用している、控えめなブラックのアンサンブルやバレンシアガ(BALENCIAGA)のレスリングブーツなどは、その好例だろう。


しかし、ファッションとコスチュームは、性質を異にするもの。『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016年)や『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018年)など、数々のスーパーヒーロー映画の衣装デザイナーを務めたジュディアンナ・マコフスキーは、こう語る。


「スーパーヒーローたちのコスチュームは、“ファッション”ではなくストーリーテラーとしての役割も担うため、私たちは、ファッションとは異なる視点でデザインをスタートする。その後、コスチュームに時代性を付加するために、ハイファッションを参照しながら、バランスを探っていく。時には、ファッションが衣装デザインのファーストインスピレーションになることもあるけれど、基本的には、ファッションとコスチュームはまったく異なるものとして認識しているわ」

コスチューム界のディスラプター。


マコフスキーが目指すのは、シルエットの美しさと動きやすさを両立しながら、監督のビジョンを反映したデザインだ。


「映画の世界観に沿った衣装ではなければいけないから、時には原作であるコミックから離れる必要がある。あるいは、過去のスーパーヒーローのコスチュームに目を向けることも。1966年に公開された初代『バットマン』や『デューン/砂の惑星』(1984年)の衣装デザインを手がけたボブ・リングウッドの作品には、大きな影響を受けているわ」


マコフスキーが、「彼がいなければ、現代の衣装デザインは確立されていなかった」と讃えるリングウッドは、『バットマン・リターンズ』(1992年)を含むバットマンの初代3部作の衣装を手がけたデザイナーだ。彼の作品の中でも、ひときわ鮮烈に人々の記憶に残っているのが、『バットマン・リターンズ』でミシェル・ファイファーが演じたキャットウーマンのボディスーツではないだろうか。身体をぴたりと包むエナメルレザー製のコスチュームを纏ったキャットウーマンは、この時代のアメコミ実写映画において、数少ない女性メインキャラクターの一人だった。

女性キャラに革新をもたらず大胆な解釈。


当時と比較すると、今日の女性のスーパーヒーローははるかに多様で、意図的にセクシーさが抑えられた容姿であることが多い。事実、『デッドプール2』(2018年)でザジー・ビーツが演じた女戦士ドミノは、ブラックのキャットスーツの代わりに、実在の女性たちの声を反映させたという、リアルでエッジィなコスチュームを纏っていた。


この衣装を手がけたカート・アンド・バートは、こう説明する。


「ドミノの衣装には、豊かな質感や温かみのある素材を用いた。そこに、光沢のあるブラウンやコッパー、そしてティールといった、ややくすんだ色を載せたんだ。原作の『デッドプール』は、少しノスタルジックで繊細な雰囲気があったから、彼女のスーパースーツにも同じような美意識を持ち込もうと思ったんだ。インスピレーションとなったのは、60年代や70年代のセクシーな女性たちや、ラクエル・ウェルチ、タマラ・ドブソン、トゥラ・サターナといったアイコンたち。セクシーさと力強さのコンビネーションには、不朽の価値がある」


衣装デザイナーたちは、親しみあるアメコミキャラクターに、新しい解釈を加えようと挑戦しているのだ。バートは言う。


「どんなスーパーヒーローにも、時代によっていくつかの顔がある。多くのキャラクターが長年にわたって、異なるコミックアーティストに描かれてきたからだ。だから僕たちは、まず原作を参照することからはじめる。そして、総合的かつクリエイティブに、監督と協力しあってコミックのキャラクターと照らし合わせた上で、その方向性や、何を維持するか、また、実写版の人物に実際には反映されない点を決めていくんだ」

Text: Emily Zemler

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