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失恋、絶交、失業……。人生の危機「拒絶」を乗り越える方法。

  • 2018.7.1
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失恋、絶交、失業……。人生の危機「拒絶」を乗り越える方法。
2018.07.01 10:00
仕事においてもプライベートにおいても、拒絶を避けて生きていくことは不可能だ。であるならば、私たちができることとは、拒絶に対するマインドセットを変え、傷ついた心をなるべく早く癒すこと。そのための心得を、拒絶克服のプロたちが伝授する。

マリリン・モンローは、かつてモデルエージェンシーから事務員のほうが向いていると言われたことがある。マイケル・ジョーダンは、高校のバスケットボールチームから外され、レディー・ガガは最初のレコードレーベルから契約解除された。かのアインシュタインは、学校を退学になったし、世界一の高額報酬を得る作家、J・K・ローリングが『ハリー・ポッター』シリーズの第一作目を、いくつもの出版社から断られ続けたのは有名な話だ。


つまり、どんな偉人であっても拒絶されることはある、ということ。そして、どんな事情であれ、自分が求められていないとか力不足だと知らされるのは、誰にとっても辛いことだ。


中には、もっと深刻な拒絶もある。例えば、愛する人の浮気とか、解雇されたとか、親友との絶交など……。しかし、こうした人生の一大事とも言える大きな傷の方が、私たちは理由や意味を見つけやすいのではないだろうか。それ以上に、デジタル世界でのもっとさりげない拒絶の方が、心に負う傷は大きいかもしれない。


メッセージをなかなか返信しない友人、インスタグラムでフォローを返してくれない同僚、一向に既読にならないLINEトーク……。スマホに支配された私たちの生活において、デートアプリやソーシャルメディア、行間を読むのが簡単ではないテキストメッセージやEメールはすべて、小さくも深い傷を心に残す危険性をはらんでいる。

集団からの拒絶は、死の宣告と同義だ。


拒絶された時の反応は、ヒトの神経構造によるもので、とても原始的なものだという。私たちが拒絶を気にするのは、つまり脳がそのように作られているからなのだ。


「社会的拒絶による痛みは身体的な痛みと似ており、両方とも、脳の同じ部分で処理される」


ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンで神経科学のシニア・ティーチングフェローを務めるマルチナ・ウィクライン博士は、こう解説する。ユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史』によれば、生存の可能性を高めるために集団で狩りを行っていた狩猟採集時代のヒトにとって、属する集団から拒絶されることは、そのまま死の宣告を意味した。つまり拒絶は、集団からの追放という危険が起こる前兆として捉えられるのだ。拒絶が“痛い”のは、このためだ。傷心、怒り、恐れ、屈辱などの感情のほかに、吐き気や腹痛、胸痛などの身体的な反応まで起こることがある。


それだけではない。ウィクライン博士は続ける。


「身体的な痛みは、その原因が治れば癒えるが、感情的な痛みは長期間続く上、細部に渡って覚えているもの。これは人間が社会的動物である以上、仕方のないことだ。社会的コンテクストと拒絶には、その時々でいろんなニュアンスがある。大切なのは、過去の拒絶経験を細かく思い出すことで、今起こっていることと照らし合わせて分析・比較することだ」


過去の耐えがたい瞬間を思い出して眠れぬ夜を過ごした経験は、誰にでもあるだろう。それをいかに前向きに生かせるかが重要なのだ。

「コンフォートゾーンとは、すなわち自分を閉じ込めている檻なんだ」


しかし、時には面の皮の厚さも必要だ。2009年、カナダのウェブデザイナーのジェイソン・コムリーは、拒絶される恐怖を克服するため、ユニークな方法を考案した。わざと拒絶されるのだ。それも繰り返し、繰り返し。9ヶ月以上にわたってコムリーは、毎日のように人から「ノー」と言われる状況を故意に作り出していった。飛行機で知らない女性に電話番号を尋ねる。レストランでキッチンを見学させてくれという。まったく経験も資格もない仕事に応募する、など。初めの頃は、ひどく恥ずかしさを感じたものの、最後には、心が解放されたような実感を得たそうだ。


「大事なのは、拒絶されるのは良いことだと認識を変えることだった。このマインドセットを作ることができてからは、気持ちが解放されて、最高の気分になった。自分のコンフォートゾーンは、むしろ、自分を閉じ込めている檻だったと気がついたんだ」


コムリーは自身の経験をもとにソーシャル自己啓発ゲーム「リジェクションセラピー」を開発し、世界中で何千人もの人が参加するに至った。

拒絶の捉え方を変える。


コムリー考案のセラピーに挑戦したうちのひとり、28才のジャーナリスト、マックス・グローブはこう語る。


「すべてが劇的に変わった。恐怖心がなくなり、どんなに悲惨な、あるいは気まずい状況でも、ユーモアを失わずにいられるようになった。拒絶されても傷つかなくていいし、拒絶されても対処可能だ、というふうに認識が変わったんだ」


彼だけではない。アメリカの起業家ジア・ジアンは、このセラピーの高い効果を認め、『Rejection Proof: How I Beat Fear and Became Invincible Through 100 Days of Rejection(拒絶の耐性:恐怖を克服するための100日)』と題した本にまとめた。2016年には、コムリーからゲームの権利を買い取り、TEDにも登場して大きな話題となった。


「私たちは拒絶されることに慣れていないわけじゃない。程度の差こそあれ、だれもが毎日のように拒絶を経験しているわけだから。このセラピーの目的は、これまでとはまったく異なる角度から拒絶を捉えられるようになることなんだ」


アメリカ・アイダホ州に住む31才の母にして起業家ホイットニー・ガードナーも、30日間のゲームを完遂した一人だ。彼女はそのときの経験をこう振り返る。


「公園で会った見ず知らずの女性二人に、髪を三つ編みさせてもらえないかと頼んだの。私の息子たちの目の前でね。返ってきた反応はひどいもので、もうそれは最低な気分になった。こんな馬鹿げたことはやめようと思ったけれど、その瞬間、気づいたの。『これでいいんだ。だってこれは、自ら拒絶されに行くチャレンジなんだから』って。そして1ヶ月間、ばかみたいなお願いをし続けた。その成果あって、私はより大胆に、勇敢に、そして不屈になることができたの!」

「拒絶されたからといって、あなたの価値は変わらない」


「こんなやり方、自分にはハードルが高すぎる!」という人には、サイコセラピストのサラ・ロークのアイデアを試す価値がありそうだ。


「自意識やアイデンティティ、そして自尊感情を、仕事や家族、友人関係など、人生のさまざまな側面で感じられるようにしておくことは、とても有効。感情をひとつの拠り所に依存しないことで、どこかひとつの側面で拒絶にあっても、立ち直ることができるから」


では、今まさに拒絶された苦しみを抱えている人はどうしたらよいだろう?トランスフォーメーショナルライフコーチ(人生を転換させる)を名乗るニッキー・クリンチは、「湧き上がる感情を受け入れること。抑え込むと逆効果」という。


「あなたが感じている苦痛は、そもそも、それだけ実現したい強い望みがあったことの証拠。この機会に、自分が大切に思っていることを改めて噛み締めて。そして、この苦しい気持ちは、未来へのモチベーションを上げるために必ず役立つと信じて、苦しい気持ちが過ぎ去るのを待つの」

拒絶は成長のチャンス。


ロークによれば、良くも悪くも、拒絶されることと自尊感情は共生関係にあるという。つまり、自尊感情が高ければ、拒絶されても打ちのめされにくいが、それが何度も繰り返されると、自尊感情は下がってしまうのだ。彼女のクライアントの多くは、デートアプリを介して付き合った相手から、突然一切の連絡が絶たれてしまったケース(これをゴースティングという)が多いそうだ。


「何度も拒絶を経験すると自尊感情は下がり、『どうせ自分は愛されないから、誰からも拒絶されるんだ』といった、自己批判的で後ろ向きの考えが定着してしまう可能性がある」


クリンチは、拒絶されたことを自分の内面に結びつけてはいけないと話す。


「拒絶されたことが、あなたの価値を変えるわけではない。もちろん、落胆するし傷つきもする。でも、何事にも理由があるということを認識し、あなたはできるだけのことはやったのだ、と思うことが大切。それは間違いではなく、成長するチャンスだったというだけのこと。もし、自分の中に、改善や成長、進化、強化したい部分があるならば、次にチャレンジするまでに、できることはあるはずよ」


覚えておきたいのは、拒絶する側とされる側、どちらが悪いというのではなく、お互いがお互いにとって相応しくなかった、というだけのこと。落胆して痛みを感じてもいいが、自分を責めるのはやめよう。


「もし、あなたの子どもが同じ経験をしたら、あなたは子どもを叱りつけるのではなく、励ましてあげるはず。自分自身にも、同じ思いやりと優しさをもって、接してあげて」

Text: Lily Silverton

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