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うつわディクショナリー#31 井山三希子さんの手触りのあるものづくり

  • 2018.6.20
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あたたかみのあるオーバル皿を生み出した人

井山三希子さんは、すうっと口をのばした滑らかなフォルムのピッチャーや土のあたたかみを感じられるオーバル皿など手触りのやさしいうつわで知られる陶芸家であり、うつわの新しいかたちと使い方をいつも提案してくれる作り手です。日々、どんな気持ちでうつわを生み出しているのか、お話を聞きました。

 

 

—井山さんは、いまではよく見かけるようになったオーバルやオクトゴナル型のプレートをずっと前から作っていらっしゃいます。

井山:私は、現代アートのギャラリーに勤めている時にものづくりに興味を持ち、陶芸教室に通ったのをきっかけに焼物に出会って瀬戸の窯業訓練校に入りました。独立した時に思ったのは、ろくろではできないものを作ろうということだったんです。自由なかたちができるのがよくて、舟形や空豆をモチーフにしたお皿、手のひらにすっと馴染むピッチャー、高台のないお碗など、ころんとした曲線の、手触りが気持ちいいものから始めました。やがて型で成形するスクエアプレートやオーバルも作るようになりましたね。20年くらい前です。オクトゴナル型は「さる山」の猿山修さんとのコラボレーションから生まれたものです。

 

—作った井山さんの指の跡まで感じられるあたたかみがありますね。

井山:そうですね。プレート類は、雄型(おがた)といって石膏型の外側に板状にした粘土を押しつけて成形する技法で作ることが多く、ふちの部分を手で馴染ませるので指跡が残ったような滑らかな仕上がりになるんです。型の周りにはみ出した余分な粘土を切る時は、まっすぐにしているつもりでも、どうしても線が歪んでしまうのが私の性分みたいで。それがそのまま作品に出ているのだと思います。

 

—でも、その歪みこそが井山さんの作品らしさです。

井山:一生懸命やっても歪むのだから、それはもう、上手いとか下手の問題ではないのでしょうね。そういうのも「なんだかいいな」と感じ入ってくれる方が生活の中に取り入れてくれるのなら嬉しいです。

 

—今回の個展では、久しぶりに新しいかたちも生まれています。

井山:あるお店の方の還暦の記念に赤いプレートを作ったのがきっかけで、この5年間は、新しいかたちは作らず、イエロー、ピンク、ブルーなど個展の度にカラフルな色に挑戦していました。それが充実してくると今度は別のことがしたくなるものですね。他のうつわをのせても使えるような、トレーのようなプレートを作りたくなったんです。

 

—新作のかたちはどのように生まれるのですか?

井山:料理するのが好きなので毎日の食卓で得た感覚が頼りになりますね。あとは機内食の食器が大好きなんです。四角いトレーにぴったりと収まるようにサイズ展開されていることや、無理なくスタッキングできること、プレーンなのにちゃんと特徴があるところにも憧れますね。

 

—色に取り組まれた後に生まれた新色のグレーは、時代の気分にぴったりのカラーリングです。

井山:もともと、私は、できるだけ目立たないものを作りたいと思って焼物を始めました。台所では、お鍋やキッチンツールと共存し、食卓では、他の食器や道具と馴染むもの。鮮やかな色は、それとは少し違いましたが、今回は、いつも作っているマットな黒と白の間をとりもつような色としてグレーが浮かんだんです。緑の野菜も映える色味になったかなと思います。

 

—間をとりもつといえば「コホロ」さんと一緒につくっている食器シリーズ「aima」も“合間”がテーマです。

井山:ずっと作り続けてきたオーバルプレートの大サイズを少し小さく、小サイズを少し大きくして、合間のサイズにしました。オーバルは、買い足したいという方が多いのですが、ほぼひとりで制作しているので応えきれないもどかしさがあったんです。「aima」は、量産ですが、三重県四日市市の窯元の職人さんによる手作りなので手持ちのうつわにも馴染むと思います。私は、その分、生活に役立つかたちや手触りのいいものを新しく生み出していけたらと思っています。

 

※2018年6月19日まで「KOHORO二子玉川」にて「井山三希子展」を開催中です。

 

今日のうつわ用語【雄型/雌型・おがた/めがた】

型物(型で成形する焼物)の型で雄型(おがた)は、型の外側に粘土を押し付けるもの。つまりうつわの内側が整ったかたちになる。反対に雌型(めがた)は、型の内側に粘土を押し付けるもの。つまりうつわの外側が滑らかに整う。うつわの用途や出したい表情に合わせて、型の活かし方は異なる。

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